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ー初体験の章42- 神帝暦645年 8月24日 その31

「って、あれ? 悪魔の人形(ディアボロ・ドール)が暖炉に入り込んだまま、出てこなくなったぞ!?」


「うふふっ。魔力探査を行った結果から言わせてもらいますと、どうやら、排煙管を通って、2階に逃げたようなのですわ? さすが、真正面から闘う気がさらさらにないモンスターなだけはあるのですわ?」


 アマノは油断なく、悪魔の人形(ディアボロ・ドール)の動向を魔力探査で探っていたようだ。さすが、B級冒険者だぜ。いくら魔力を通常の10倍も消費してしまう罠がこの館に仕掛けられていようが、使うべきときにはきっちり魔力を使ってくれる。


「ふう。じゃあ、とりあえずの危機は去ったってわけか……。いやあ。呪いの人形(カース・ドール)程度だろうと思っていたら、まさかの悪魔の人形(ディアボロ・ドール)だもんな。首を掻っ切られなくて良かったぜ」


「お父さん、ごめんねー? あいつから眼を離しちゃってー。ヒデヨシさんもありがとうー。ヒデヨシさんがあたしを守ってくれなかったら、あたし、今頃、出血多量で死んじゃってたかもー」


「ウキキッ。そんなに気に病むことは無いのですよ? 誰しも、人生初めて遭遇したモンスターには、苦戦してしまうものですよ。それがたまたま、今回はユーリ殿には荷が重い、悪魔の人形(ディアボロ・ドール)だっただけなのですよウキキッ!」


 ヒデヨシ、ナイスフォローだ。さすが気遣いが出来る男だ。他種族の女性を次々と手籠めにしているだけはあるな! 草津(クサッツ)の街に戻ったら、八百屋でバナナを3房、おごってやるからな? 俺からの感謝をしっかり受け取ってくれよ?


「よっし。悪魔の人形(ディアボロ・ドール)が退散している内に、俺たちもこの部屋から撤退しようか。あいつの気が変わって、戻ってこられても困るからな?」


 というわけで、俺たちはからくもピンチから脱することに成功する。悪魔の人形(ディアボロ・ドール)を仕留められなかったのは残念であるが、まだ、館の探索が序盤の状態なのである。深追いするのは危険だ。他にも難敵が居ないことを確認してから、あいつと再び対峙したほうが、こちらとしては好都合なのである。


 俺たち4人と1匹は、廊下に出たあと、応接間Bの扉をしっかりと閉める。生憎、鍵は持ち合わせていないのだが、もし、悪魔の人形(ディアボロ・ドール)が戻ってきて、応接間Bの扉をこっそり開けて、俺たちを後ろから襲撃しようものなら、アマノが扉に貼っておいた呪符と廊下の床に描いておいた魔法陣により、奴がダメージを喰らうように罠を仕掛けておく。


「うふふっ。水の洗浄(オータ・オッシュ)の魔法を廊下に仕掛けておきましたわ? これで不意打ちを防げるはずですわ? ユーリ? 建物内では魔法陣は、こう使うのですわ?」


「おおー。これはすごい勉強になるよー。あたしも追加で魔法陣を描いて、罠を仕掛けておこうかなー?」


「じゃあ、ユーリ。試しに、応接間Aの扉の下にでも、魔法陣を描いておいてくれ。奴がそっちの方から仕掛けてくると厄介だからな?」


「うん、わかったー! うーーーん。何の魔法を仕掛けておこうかなー? 応接間Aが吹き飛ぶくらいの魔法にしておこうかなー?」


「おい、待て。ユーリ。水の魔法で応接間Aが吹き飛ぶって、いったい、どんなモノを仕込むつもりなんだ? 俺はそっちのほうが気になるわ」


「んっとねー。水の柱(オータ・ピラー)を仕掛けておこうかなーって。扉をくぐった瞬間、下から突き上げるようにドーーーンッ! って水の束が飛び出してきて、天井に叩きつけられるわけー」


 ふむふむ。なるほど。使う魔法の選択としては間違ってないな。


「んで、ありったけの魔力をその魔法陣に注ぎ込んで、そのまま、具現化した水を濁流と化して、応接間Aを奴ごと、洗い流そうっていう腹積もりなのか?」


「そうだよー。さすがお父さんー。1を聞いたら10を知るってやつだねー」


 褒めるな。照れるだろ?


「じゃ、ねえよ! 館への被害が大きすぎるわ! 俺たちのクエストの報奨金が館の修繕費で飛んじまうわ!」


「ええー? セ・バスチャンさんは壁の1枚や2枚なら、ぶち抜いても良いって言ってたよー? それなら、部屋のひとつくらいどうってことないんじゃないー?」


「うふふっ? ユーリ? セ・バスチャンさんは、壁への被害はヒビ程度だと予想していると思うのですわ? そもそも、壁をぶち抜いて良いなら、先ほど、悪魔の人形(ディアボロ・ドール)と対峙した時に、私とツキトによる火と水の魔法の合成で、部屋ごと吹き飛ばしていたのですわ?」


「あっ、そうかー。セ・バスチャンさんは、ヒビ程度までしか許してくれないのかー。あたし、勘違いしてたよー。壁の1枚や2枚なら、大穴を開けても大丈夫だって思いこんでたー」


「そうだな。これはユーリの認識と、俺たちやセ・バスチャンさんとの認識のズレってやつだな。本当なら、打ち合わせの時にその辺り、ちゃんと認識のズレを解消しておくべきなんだ。まあ、俺もアマノもヒビ程度だろうなって思っていたから、ユーリだけが悪いわけじゃないんだがな?」


「ウキキッ。わたくしも、ヒビ程度だろうと思っていたのですよ。だから、セ・バスチャン殿との打ち合わせの時に、特にツッコミを入れなかったのですよ。クエスト初体験のユーリ殿のことをうっかり失念していたのですよウキキッ!」


 だな。ヒデヨシの言う通りだ。ユーリは今回が初めてのクエストなんだ。そこを失念していた俺たち大人組のほうがよっぽど責任は重い。


「というわけだ。ユーリ。多分、壁に大穴を開けたら、セ・バスチャンさんが口からブクブクと泡を吹くと思うから、水の柱(オータ・ピラー)は禁止な?」


「うん、わかったー。じゃあ、あたしも水の洗浄(オータ・オッシュ)を仕掛けておくねー。えっと、魔法陣はこれくらいの大きさで良いかなー?」


 ユーリが肩下げカバンから、魔法陣を描くためのチョーク(チョックー)を取り出し、右手に持って、廊下の床に魔法陣を描くわけである。


 さて。これで、応接間AとBを通っての悪魔の人形(ディアボロ・ドール)による奇襲は防げるだろう。まあ、すぐに仕掛けてくるか自体は謎だけどな? ヒノキの棒だったからと言えども、アレほどの勢いで暖炉の口の中にぶち込まれたんだ、あいつは。ダメージは相当なモノだろう。


 そこから考慮すれば、そのダメージが抜けない状態のまま、こちらに襲撃してくる可能性は低い。だが、念には念を入れて、廊下の床に魔法陣の罠を仕掛けたのである、俺たちは。


「うふふっ。何かがさっそく引っかかったのですわ? 水よ、逆巻くのですわ! 水の洗浄(オータ・オッシュ)発動ですわ!」


 俺たちが、続けて応接間Cの方へ歩いている最中に突然、アマノが水の魔法を発動させる。


「ウピャアアアアアアアア!」


 あっ。幽体の雲(ゴースト・クラウド)が俺たちの後ろからこっそり、迫ってきていたのか。


「ちっ。雑魚がひっかかりやがった。これで、アマノの罠と魔力が無駄になっちまったな?」


「うふふっ。どちらにしろ、幽体の雲(ゴースト・クラウド)相手なら、魔法を使わざるをえなかったのですわ? あちらから、罠を踏んでくれたことに感謝するのですわ?」


「ウキキッ。いくら魔力消費を抑えるために、魔力探査を控えているからと言って、あちらは何も仕掛けられていないとでも、思っているのですかね? ウキキッ」


「そう言ってやるなよ。幽霊(ゴースト)系やアンデッド系はもともと知性が低いんだからさ。罠があるなんて、これっぽちも思ってなかったんだろ。アマノ、すまないが、もう一度、応接間Bの扉の前に魔法陣と呪符を仕掛けておいてくれないか?」


「うふふっ。なんだか、また、悪魔の人形(ディアボロ・ドール)以外がひっかかりそうなのですわ? でも、無駄な魔力の消費になりそうな気はしないでもないですが、アレの奇襲を防ぐためにも、用心しておくに越したことは無いのですわ?」

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