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ー初体験の章39- 神帝暦645年 8月24日 その28

 というわけで、領主さまが購入して応接間Aの壁に飾った(くだん)の絵の股間にヒノキの棒をぶち込むために、俺たち4人と1匹は再び、館の門の前にまでやってきたわけである。現在時刻は懐中時計(オ・クロック)によると、14時10分だ。


 作戦を練るために時間を少し費やしすぎた感はあるが、館の異変の原因があの応接間Aにあることがわかったことになった今、それも無駄な時間の浪費にはなっていないと思えるので、帳尻は合うだろうと俺は思っていたのだ。


 だが、ここで思わぬアクシデントに俺たちは見舞われることになる。


「おっ、おいっ! 絵自体が額縁から飛び出して、さらに部屋のドアをぶち破って廊下に飛び出していったぞ!」


「えええーーー!? 絵って普通、自由に空を飛べないよねー!? あの絵って、いったい何なのーーー!?」


 俺たちが館の正面入り口から玄関(エントランス)・ホールに入り、そこで左折して、突き当りにある応接間Aの部屋に飛び込んだまでは良かったんだ。だがな? アマノとユーリが今まさにヒノキの棒を力強く両手で握りしめ、壁に飾られた金色の額縁に納められている裸の男の絵に攻撃を加えようとした、その時であった。


 ガッゴオオオン! とのけたたましい音と供に、額縁を破壊し、その中から絵が描かれている紙が飛び出して、さらには応接間Aのドアをぶち破って、外に逃げていったのである。


「ウキキッ。あの絵自体が何かしらのモンスターだったみたいですね。あのモンスターの名前は、確か、生きる絵画(リビング・ペイント)でしたっけウキキッ?」


「ああ、ヒデヨシ。お前の言う通りだ。生きる絵画(リビング・ペイント)で間違いないな……。しっかし、よっぽど慌ててたんだろうな。普通は額縁から飛び出してくることなんてないのにな?」


「うふふっ。よっぽど、股間にヒノキの棒を喰らうのが嫌だったと視えますわ? あの生きる絵画(リビング・ペイント)はオスで間違いなさそうなのですわ?」


「絵の姿をしているモンスターなんているんだねー? いったい、どんな体組織をしているわけー?」


 ユーリがさも珍しいモノを視たかのような表情をしている。そりゃそうだろうな。あのモンスターは結構、レアだからなあ。俺も5年に1度くらいしか、お眼にかかることがないんだよなあ。


「あいつ、ぺらっぺらの紙のくせに、あの中にギッシリと内臓が詰まってんだよ。だから、剣の類で斬ると、ドロッブシュウウウッ! と斬り口から内臓と血が飛び出すんだよなあ」


「うわーーー。絵面的に最悪だねー。あたしはあの絵を斬りたいなんて思わないよー」


 なかなかにグロテスクだからなあ。俺が何故、そのことを知っているかと言うと、昔、団長がご自慢のカタナで、生きる絵画(リビング・ペイント)を斬り割いたことがあるからだ。その時に、団長とその周りに居た俺やミツヒデは、あいつの臓腑と血をたっぷりと味わったのである。


「あいつの血って、すっごく油の匂いがするんだよ。多分、絵の具の匂いだと思うんだが、アレが防具や服に付着すると、なかなか堕ちなくて大変なんだよなあ……」


「うふふっ。次にアレを視つけた時は、ツキトとヒデヨシさんに攻撃をお願いするのですわ? 私、絵の具の油くさい匂いは少々、苦手ですので」


 アマノは油絵の匂いを特に嫌うんだよな。アマノと結婚する前に、アマノとのデートの時に美術館に行こうと誘った時は、えらく申し訳ない気分になっちまったぜ。美術館の中を回っている最中、終始、鼻をハンカチで抑えてたもんなあ。


「アマノ。俺とヒデヨシに生きる絵画(リビング・ペイント)への攻撃を任せてくれ。アマノが苦しむ姿を俺は視たいとは思えないからな」


「うふふっ。ありがとうなのですわ? ユーリ? ツキトとヒデヨシさんがあの絵の股間にヒノキの棒を叩きこむのを見学させてもらうのですわ?」


「うーーーん。一度で良いから、男のヒトの股間にヒノキの棒を叩きこんでみたかったんだけどなーーー。まあ、良いかーーー。あたしも返り血で油くさくなりたくないしー」


 ユーリは末恐ろしい冒険者になりそうだな。普通は男の股間にヒノキの棒を叩きこみたいなんて思わないと思うんですがね?


「ウキキッ。心情的には、わたくしも嫌なのですが。しかし、嫌がっていても仕方ありませんね。汚れ仕事を引き受けるのは古今東西、男の務めなのですからウキキッ!」


「まあ、俺とヒデヨシがあいつの血を浴びて、油臭くなったら、念入りに水の洗浄(オータ・オッシュ)を頼むわ。さってと。生きる絵画(リビング・ペイント)はどこに逃げ出したのかねえ?」


 とここまで俺は言ってみて、はっ! となる。


「やべえ! あいつが逃げ出したってのに、なんで俺たちはすぐに追いかけなかったんだ!? あいつが、この館の異変の原因かもしれないってのに、みすみす逃がしちまったじゃねえか!」


「うふふっ。これはかなり面倒くさいことになってしまったのですわ? 魔力を通常の10倍も消費してしまうのは、生きる絵画(リビング・ペイント)が関わっている可能性が高いので、アレをもう1度、視つけるまでは魔力を温存しながら、館を探索しなければならなくなったのですわ?」


 しまったぜえええ。レア・モンスターだから、めずらしがってたのが大失敗だったわあああ。非常に面倒くさい状況に陥っちまったわあああ!


「くっそ! ここで後悔しててもしょうがないな。とりあえず、あいつがどこに行ったか、館の探索を続けようぜ?」


 というわけで、みすみす、館の異変の原因かもしれない生きる絵画(リビング・ペイント)を逃がしてしまった俺たちは、館の探索を再開することになる。次に俺たちが向かった先は、魔力探査を終えていた応接間Bである。


 俺が応接間Bに繋がるドアをそおおおっと開けて、その隙間からネズミのこっしろーが部屋の中に入る。


「この部屋にも絵が飾られているでッチュウ。それと火の玉(ファー・ボール)以外の幽霊(ゴースト)の類は目視では確認できないでッチュウ」


 こっしろーが応接間Bの入り口付近からの偵察を終えて、俺たちの足元に戻ってくる。そのこっしろーをユーリが両手ですくい上げるように持ち上げて


「お疲れさまー、こっしろーくんー。あれれー? おかしいなあー。午前のアタックの時に魔力探査をした時点では、何かしら反応があったんだけどなー? 火の玉(ファー・ボール)以外のモノを感じたはずなのにー?」


 応接間Bの魔力探査を行ったのはユーリであった。その時は、ユーリが部屋の中に何かしらの魔力の反応を感じたって言ってたよな。うーーーん。先ほどの生きる絵画(リビング・ペイント)は居なさそうだが、念のため、部屋の中に入って、確認しておくか。


「よっし。俺が先行するから、続けて、アマノ、ユーリの順番で入ってきてくれ。ヒデヨシはドアのところで待機な? わかっていると思うが、ドアは開けっぱなしにしておけよ?」


 俺がヒデヨシにこう注意するのは、館が幽霊(ゴースト)に支配された場合だと、その幽霊(ゴースト)の意思により、ドアを閉められて、さらには施錠されることがあるからだ。


「ウキキッ。もちろん、わかっているのですよ。駆け出しの冒険者と一緒にしないでほしいところですよ? ウキキッ」


「念のためだ。念のため。C級冒険者のヒデヨシがそんな駆け出し冒険者のようなポカをやらかすなんて思っちゃいないさ。んじゃ、俺が部屋に飛び込むからな?」


 俺は皆にそう告げた後、ドアをバンッ! と勢いよく開けて、応接間Bに文字通り転がり込むのである。俺は左手の丸盾をしっかりと構えながら、左右に頭を振りつつ、注意深く部屋の中を視る。


 俺のあとを追うようにアマノが部屋に入り、俺の左斜め後ろに立ち、ヒノキの棒をしっかり両手で握り自分の身体の前で構える。


 さらに続けてユーリが部屋の中に飛び込んでくる。ユーリはやや緊張した顔つきで、俺の右斜め後方に立つ。もちろん、ユーリもヒノキの棒を構えてだ。


「視た感じだと、こっしろーの言う通り、何もなさそうだが? はてさて、ユーリが午前中のアタックの時に感じた魔力の源泉は何だろうな?」

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