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ー初体験の章35- 神帝暦645年 8月24日 その24

 さて、話が横道に逸れてしまったな。そろそろ本筋に戻そうか。まったく、なんで俺たちはまともに主目的の内容を話し合えないんだ?


「まずは現状報告からさせてもらうぜ? タマさんは領主への報告もあるだろうから、しっかり聞いておいてくれよ?」


「ハイ、わかったのデス。覚悟はできているのデス!」


 覚悟か。タマさんが考えている最悪の事態とは、多分、完全に館が幽霊(ゴースト)の巣と成り果てて、焼却処分をしなければならないと思っての【覚悟】という言葉なのだろう。


「タマさん。安心してくれ。俺たちが午前に調査した限りでは、まだ幽霊(ゴースト)が自ずと大量発生するまでは行っていなかったぜ?」


「そ、それは良かったのデス。領主さまはあの館に若い頃から住んでいて、思い入れが強いのデス。その館を焼却処分しなくても良いのデスネ。なんだかホッとしたのデス」


「いや。ホッと安堵しているところ、悪いんだが。あのまま放っておけば、三日もせずに行政から焼却処分を言い渡されるほどには事態は悪化しているんだ。俺たちはこの先、数日かけて幽霊(ゴースト)の数をだんだん減らしていって、幽霊(ゴースト)があの館に住みつくことになった原因そのものの排除を行う予定なんだ。だから、今の段階であまり前向きに捉えられすぎても困るんだよ」


 俺がそう告げた瞬間、タマさんはシュンッとした顔つきになってしまった。うーーーん、もう少しこれから先の見通しが立った報告が出来れば良いのだが、俺たちが調査を開始したのは昨日、今日の話であり、申し訳ないんだが、これ以上、今の段階でタマさんに報告できることはないんだよな。


「わかしましたのデス。ツキトさんが言われていることをそのままに、領主さまに報告させてもらうのデス。でも、領主さまは皆さんに大きな期待を寄せているのデス。皆さん、頑張ってほしいのデス!」


 うん。大津(オオッツ)の領主さまが俺たちの活躍に期待しているってのは嘘じゃないってのは、俺たちへの待遇でよおおおくわかっているんだ。


 なんたって、1日3度のメシ付き。屋根のある寝床。さらには、ヒデヨシの寝床が馬小屋って点がたまらなく良い。ヒデヨシと同じ屋根の下に女性が一緒に寝るなんて危険すぎる話だからな!


「すまんな、タマさん。数日中には明るい話を持ってくるからさ? ちょっと、やきもきさせるかもしれないが、そこは我慢してくれよ?」


「ハ、ハイ。皆さん、先ほどは頑張ってくださいとは言いましたが、大きな怪我だけはしないように注意してクダサイネ?」


 大きな怪我っていう表現が言い得て妙だよなと俺は思ってしまうわけだ。そりゃ、冒険者ってのは【きつい・汚い・かっこ悪い】職業の代表格である。その辺りは冒険者稼業について詳しくないタマさんと言えども周知の事実なんだろう。


「ああ。治療魔法でひょいひょいって治る程度の怪我で済むように努力させてもらうぜ? じゃあ、ここから本格的に午後からのアタックについて詰めていくからな? まずはユーリ。お前の意見を聞かせてくれ」


 いきなり俺から名指しされたユーリが自分の顔に人差し指を向けて、えーーー!? あたしからなのー!? とぼやくわけである。そりゃそうだろ。このクエストを受けている理由の半分以上は、ユーリの訓練のためなんだからな? お前が1番先に意見を言わないでどうするんだと。


「う、うーーーん。あたしはアマノさんの意見に便乗して、あたしも同じ意見だよー! って言う気まんまんだったのにー。お父さんは意地悪だなーーー?」


「ああ、意地悪で結構。本当なら、クエスト中でも【お父さん】ではなく【お師匠さま】だって指摘したいくらいなんだ。そこは年頃のユーリの心情を鑑みて、今回は許しているだけだからな?」


「むむむー。ヒト前で父親を【お師匠さま】って呼ぶのはかなりきついものがあるんだよー。わかったー。そこを査定に含むことを今回は許可するんだよー」


 査定に含むって何だよ。お前は俺の給料の査定に関わっているのか? まあ、いいや。いちいちツッコんでいたら、本気で話が進まなくなるわ。


「んで。ユーリとしては午後からのアタックはどこを重点的に調査すべきだと思うんだ? ちなみに参考意見を募るのは、自分の主張をしてからだぞ?」


「厳しいなー、お父さんはー。んじゃ、あたしが考えていることを言うからねー? 間違っていたからって、頭ごなしに叱るとかは勘弁してよー?」


「心配するな。そこまで底意地の悪いことはしないさ。俺はユーリがこういった作戦会議で気兼ねなく意見できる度胸と、筋道立てて、その意見を押し通せるかというところに主眼を置いてるからな?」


「ふむふむ、なるほどー。さすがは、あたしの師匠だと豪語するだけはあるよー。あたしの成長のためを思って、こんな意地悪なことをしていることだけは理解できるよー」


「だけってなんだ? だけってのは。何か足りないモノが俺にはあるって言うのか?」


「足りてないのは愛だねー。弟子に対する愛だよー。たまには甘やかすのも愛だと思うわけー」


「うふふっ。ユーリは口がよく回るのですわ? ですが、例え、弟子に向ける愛だとしても、それは私が断らせていただきますわ。だって、ツキトからの愛は、私が独占したいんですもの」


 おいおい。なんで、そこでユーリとアマノが視線を交わして睨みあってんだ?


「ったく、ユーリはアホなことばっかり言ってんじゃねえよ。それよりも、さっさと自分の意見を言い給え。午後からのアタックの時間が減っちまうだろうが……」


「あっ、それもそうだねー。アマノさん、この勝負は一旦、お預けだよー?」


「うふふっ。そうですわね。では、私はこれ以上、横やりを入れないので、ユーリは自分の考えを述べてほしいのですわ?」


 やれやれ。同じ家族なんだから、よくわからないことで喧嘩しそうになるのはやめてくれよ?


「んじゃ、あたしの考えを言うよー? 午後からのアタックは午前に魔力探査を終えた部屋に突入してみるべきだと思うんだよー」


「ほう。その心は?」


「んっとねー。部屋に住み着いた幽霊(ゴースト)を退治したところで、館から一旦、外に出て、入り直す頃には幽霊(ゴースト)がまた同じ部屋に住み着くと思うんだけど、あたしたちの目的は幽霊(ゴースト)の数を減らすだけじゃないってところを間違えちゃダメなんだよー」


 おっ!? ユーリにはちゃんとわかっているのか!?


「ウキキッ。ユーリ殿のことだから、かたっぱしから幽霊(ゴースト)を退治していけば良いと言い出すと思っていたのですが、これは想定外なのですよウキキッ!」


「ヒデヨシさんは失礼だなー? あたしもちゃんと考える時は考えているんだよー? んでねー。幽霊(ゴースト)が住みついた原因を探って、それを排除することが今回のゴールなんだから、それに合わせて動くべきだと、あたしは思うわけー。だから、魔力探査の終わった部屋にガンガン乗り込むべきだと、あたしは主張させてもらうよーーー」


 ううう。【親が居なくても子豚ニンゲン(オーク)は育つ】とはまさにこのことだな。って、待て。ユーリの今の親は俺だわ。ここは正しく言えば、【ニンゲン族の子は親の背中を視て育つ】だな!


 ちなみにこのコトワザの由来であるが、【親が居なくても子豚ニンゲン(オーク)は育つ】の方は、豚ニンゲン(オーク)はそもそも生命力と繁殖力が非常に高く、親が子の育成を放棄しても、子豚ニンゲン(オーク)は勝手にスクスクと育つといったところからだ。


 対して、ニンゲン族の子は、ヒト型種族の中ではもっともサバイバル能力が低く、幼い頃は親がつきっきりで面倒をみないといけないわけだ。そうなれば、自然とニンゲン族の子は親の影響を大きく受けて成長していくってわけだ。


 ニンゲン族と同じくヒト型種族のエルフ族、ドワーフ族は生まれながらにして、魔力の開放がされており、比較的にニンゲン族の子どもよりはサバイバル能力は高めなのである。


「ユーリがこんなに甲斐甲斐しく思える日がやってくるとはなあ……。俺、なんだか少し目頭が熱くなってきたわ」


「うふふっ。ツキトによる日々の師事が着実にユーリの(かて)になっている(あかし)なのですわ。ツキト。これからもユーリを逞しく育て上げてくださいね?」


「ウキキッ。冒険者として逞しく育つのは悪いことでは無いのですが、それって、女性としては喜ばしくない言葉のような気がするのですがウキキッ?」


「あたしもヒデヨシさんにツッコまれなかったら気付かなかったよー。あたしがガサツなのは、きっと、お父さんの教えのせいだと思うんだよねー」


「ちげえわ! お前がガサツなのは、お前の性格ゆえだわ! なんで、俺のガサツがうつったかのように言ってんだよ!」

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