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ー初体験の章18- 神帝暦645年 8月24日 その7

 ユーリが愚痴る気持ちもわからんでもない。だが、冒険者の命など、それこそ依頼者から視たら二束三文の価値程度にしか視ない奴も居る。今回の依頼主である大津(オオッツ)の領主さまはヒトが良すぎるくらいだ。本当なら、拠点のために空いていた一軒家を貸し出してくれるだけでもありがたい話なのである。しかもそれだけではなく、メシの準備までしてくれるたあ、涙がちょちょぎれるってもんだぜ。


「まあ、依頼主の中には色々な奴がいるってだけだ。今のところ、あんまり気にする必要はないぜ? これから先、嫌でもむかつく依頼主にぶち当たることになるんだからな?」


「うわーーー。何だか気が滅入るような話を聞かされちゃったよー。あたしは嫌だなあ。むかつく依頼主に当たったら、このヒノキの棒で一発ぶん殴ってやりたくなるよー」


「ウキキッ。報酬を出し渋る依頼主なら、遠慮なくぶん殴って良いのですよ? 結局はどちらが危険な人物なのかをはっきりとその身にわからせてやる必要も出てきますからね?ウキキッ!」


「うふふっ。私は一度、俺様は裏社会と繋がりがあるんだぜ? ここで交渉をごねるようならば、そいつらに出張ってきてもらわないとなあ!? っていう依頼主にぶち当たりましたわ?」


「おおーーー。それは大きく出たもんだねー? アマノさんにそんなありきたりな脅し文句を言う馬鹿な依頼主なんて居るところには居るんだー。で、アマノさんはその依頼主をヒノキの棒で一発ぶん殴ってやったのー?」


「うふふっ? 自称裏社会のお友達とやらの方々もまとめて、水の洗浄(オータ・オッシュ)をしておきましたわ? 今頃、びわ湖(ビワッコ)の底に沈んでいるんじゃないかしら? ねえ? ツキト」


「おっ、おい! その話はユーリに秘密だって言ってあっただろうが。ダメだろうが。ユーリが自ら進んで危険に飛び込んじまうだろ!?」


 アマノが俺との秘密の話をユーリにばらしてしまったため、つい、俺は挙動不審になってしまった。


「んー? どういうことー? アマノさんが出くわした、むかつく依頼主との一件にお父さんが関わっているってことー?」


 うーーーん。困った。これはユーリには言わずにおいたのになあ。アマノ。口が滑ったじゃ済まされないぞ?


「えっとだな。かいつまんで話すと、アマノが【欲望の団(デザイア・グループ)】に移籍して間もないころに、アマノが受けてきたクエストで依頼主とトラブルが起きたんだよ。それで、団長まで出張ってきて、ちょっくら自称裏社会のニンゲンたちの一斉掃除をしたんだよ。なあ、アマノ?」


「うふふっ。そうでしたわ。でも、ユーリは安心してほしいのですわ? 本当に裏社会に関わっているニンゲンはいませんでしたから? 帰り道に突然、拉致されるとかいった心配はありませんわ?」


 まあ、あのトラブルは結局、自称が相手だったから良かったものの、本当にあっちの世界のニンゲンたちだったら、割とシャレにならない事態になってたんだよなあ。


 団長は入念にそいつらが裏社会と繋がりがあるのかないのか精査した後に、一斉清掃を行ったくらいだし……。


「ウキキッ。チンピラ風情が裏社会のニンゲンだと吹聴すれば、本職のヒトたちに消されるんですがねえ……? よくもまあ、自称したモノだと逆に感心するのですよウキキッ!」


「まあ、一般人からしたら、調べようがないからそんな見え透いた脅しも結構、有効なんだから性質(たち)が悪いんだけどな?」


「あたし、ふと思ったんだけど、団長なら、本職さんたちと何かトラブルが起きたら、その本職さんたちのアジトもろとも、この世からおさらばしてもらうことになるんじゃないのー?」


 ユーリの言うことはもっともだな。団長なら本職相手でも一歩も退かずに壊滅させるであろう。しかしだ。それで済むのであれば、団長だって、とっくにやっているんだよな。


「ああいうヒトたちってのは、常に縄張り争いをしてんだよ。だから、草津(クサッツ)だけ掃除すれば、終わるって話じゃないわけな? その本職さんたちを一掃しても半年も経てば、他の地方からの本職さんたちが草津(クサッツ)に流れ込んでくるわけよ」


「あー。1匹視たら、30匹居ると思えの典型的パターンってやつなんだねー? それだったら、団長でも関わらずが一番なんだろうなーって思えちゃうなー?」


「あと、ああいうヒトたちの存在が一概に悪いわけじゃないんだ。あのヒトたちが居なければ、世の中、上手く回っていかないところが厄介なところなんだよなあ」


 世の中ってのは不条理なもんだぜ。あの本職さんたちによって、生活が成り立っているヒトもいるわけである。その代表的な存在が娼館だよな。通常、娼館はマツダイラ幕府が法で存在自体は認めてはいるが、表だって管理はしていない。だからこそ、娼館の周りってのは治安が悪い。そりゃ、幕府が警護のニンゲンを出してくれているわけじゃないからな。


 じゃあ、誰が、その界隈の管理と形の上で治安維持をするのか。そりゃ、その筋のニンゲンたちにお鉢が回ってくるわけである。あのヒトたちもお金を落としてくれる客に対しては、存外、気を使ってくれる。だが、金を払わない、犯罪を侵すニンゲン相手なら、びわ湖(ビワッコ)に住む魚たちの餌にする。そんな(やから)たちなのだ。だからこそ、一般人は関わるべきじゃない。ないんだがなあ?


「うふふっ。団長って陰では、裏社会のヒトたちとも繋がりがあるという噂が立っていますわね? 団長本人は否定していますが、そこのところどうなんでしょう? ツキト?」


「うーーーん。ノーコメントだな。腫れモノに触らずって言うだろ? 団長に問いただすのはやめておけよ?」


 アマノがあらあら? うふふっ。と笑っている。笑い事じゃないから、本当に関わらないでくれよ? と俺は願うばかりである。そうじゃない場合は、草津(クサッツ)から半径100キロメートル以内の裏社会のニンゲンたちを一掃するために、団長とカツイエ殿と一緒に俺が出張ることになるからな?


「さてっと。無駄話をしている時間は無いな。ユーリ。何か、ここの玄関(エントランス)・ホールでおかしなことはないか? 些細なことでも良いから言ってくれないか?」


「んっとーーー。ここから玄関(エントランス)・ホールの右側扉の先から、強い魔力を感じるねー? 左側からはそれほどって感じじゃないんだけどー。館の右側の方に何かあるのかもー? って思っちゃうー」


 ふむ。なるほど。ユーリの魔力探査では、右が臭いと睨んでいるわけな?


「よっし。じゃあ、今日のアタックは館の左側を優先しようか。わざわざ、幽霊(ゴースト)が待ち構えているところに飛び込む必要なんかないわな」


「ウキキッ。ツキト殿の言う通りなのですよ。君子、危うきに近寄らず。冒険者の鉄の教えなのですよウキキッ!」


「冒険者って冒険するための職なんだよねー? なんか、間違ってないー?」


 ユーリが文句たらたらにそう俺とヒデヨシに言ってくる。さすが16歳なだけはあると感心すべきなんだろうが、少しだけ釘を刺しておくべきなんだろうか?


「あのな? 冒険者は生活のために冒険をするのであって、危険に飛び込むためにやっているわけじゃないからな? ユーリは根本的なところから間違っているから、その考えを改めておくんだ? 良いな?」


「冒険をしたくて冒険をしているのは、限られたニンゲンだけなのですよ。B級冒険者以上ならともかくとして、わたくしやツキト殿みたいなC級級冒険者などがおこがましくも、【冒険のために冒険者になった!】なんて、言えませんよね? ウキキッ!」


「なんだか、あたし、冒険者としての夢をぶち壊された気がするよー? アマノさんー。あたし、師事してもらう相手を間違えたかもー?」


「うふふっ。ユーリは最初から魔力C級などという優れた才能を天から与えられているからこそ、冒険をしたい! と思うのですわ? でも、冒険者の8割近くは生きていくために仕方なくしているヒトたちなのですわ?」


「ユーリ? 勘違いしてもらっちゃ困るが、冒険をしたい! って気持ちは俺にだって、昔はあったさ。でも、それは俺が若い頃の話だったな。E級冒険者を1年ほどやってたら、心がぽっきり折れちまうもんなんだよなあ……」


「ウキキッ。ツキト殿の気持ちが痛いほどわかるのですよ。わたくしだって、最初の最初の頃は、これから冒険者だぜウキキッ! と意気込んだモノですよ。でも、現実は厳しい、厳しすぎるのですよウキキッ!」

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