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ー11- 6月11日

 ううーーーん。いい天気だなあ。休日はやはりこうじゃないとやってられないわけだよ。俺は台所の窓から差し込む陽の光をまぶしそうに見ながら、よくもまあ、上手いことすっきり晴れ渡ってくれたモノだと感心するわけである。


「お父さーーーん! そろそろ出発しないと、汽車(ポッポー)が来る時間になっちゃうよーーー?」


 家の玄関の方からユーリが大声をあげている。ユーリはいっつも元気だなあ? と俺はのほほんと思ってしまうわけだ。


「ああ。悪い悪い。あんまり良い天気だから、布団でも干してから行こうと思ってよー!」


「そんなの明日でも良いじゃないー! 休日は待ってくれないんだよー? あっ、やばい。あと20分だーーー! お父さん、急いでーーー!」


 まったく、12歳の子供じゃないんだから、汽車(ポッポー)なんて急いで出発して、どこかに行ってしまわねえよ。なあ? アマノ。


「うふふっ。汽車(ポッポー)は時刻通りに行ってしまいますわよ? それに乗り遅れたら、次の汽車(ポッポー)まで1時間待ちですもの。ユーリが慌てるのも、仕方ありませんわ?」


「まあ、急いで歩いても駅まで10分はかかるもんなあ。そろそろ、出発しないと切符を買っている暇がなくなるわな。じゃあ、弁当は持ったか? 窓には鍵はかけたか?」


「うふふっ。あとは私たちが家から出て玄関のドアの鍵をかけるだけですわ?」


「じゃあ、行くか。新しい冷蔵庫(アイス・タンク)を買いに!」


 俺はそう元気良く、アマノたちと共に家から飛び出す。そういや、この家も1年ほど前に、アマノと結婚して、2人の貯金からお金を出し合って、中古の2階建て木造一戸建てを買ったんだよなあ。


 しっかし、冒険者はローンを組もうにも、担保を持ち合わせてないからって銀行では門前払いなんだよなあ。だから、一括でこの中古の家を購入したものの、色々とこれから修繕をしていかなければならないんだよなあ。


 結婚前に下宿先から家具などを今の住処に色々と持ち込んでみたものの、まだまだ買い替えが必要なモノとかあるからなあ。タンスとかは前の住人が残していったものをそのまま利用させてもらってはいるが、出来ることなら、新しいモノに買い替えたいところだぜ。


「お父さんーーー。歩くのが遅いよーーー。汽車(ポッポー)は待ってくれないんだよーーー?」


 はいはい。わかりましたよ。それよりも、ちゃんと前を視て歩け。自転車(ママ・チャリ)に乗っているひとにぶつかっちまうぞ?



 ☆☆★☆☆



 さあて、汽車(ポッポー)に揺られて15分。やっと草津(くさっつ)から少し東に行ったところにある栗東(クリットウ)に到着だ。ここの街には、この付近一帯で1番大きなの家具量販店【イケイケ】があるのだ。


 俺たち3人はその家具量販店【イケイケ】の前にまでやってきたわけなのだが、このヒノモトノ国って、こんなにヒトがいるんだなあ? って感心してしまうぞ。一体、今日は何のクエストが貼り出されてんだ? まさか、空飛ぶ金貨(フライング・コイン)が襲来したのか?


 そんなわけないか。みんな、休日は特に用事がなくても家具量販店に来てしまうものだ。ニンゲンの悲しい習性ってやつだな。うんうん。


「なあ、アマノ。今日は死にかけの空飛ぶ金貨(フライング・コイン)が大量に飛来して、栗東(クリットウ)の道端のどこかで死にかけていたりするのか?」


「うふふっ? それなら、私たちも拾いに行かなければなりませんわね? 人づてに聞いた話だと、空飛ぶ金貨(フライング・コイン)って、噂では、名のある魔導士が実験の末に産みだされたと言われているのですわ? でも実際のところ、どこで産まれてきたのか、そしてどこに消えていくのか謎なのですわ。しかも、5年に1度くらいの頻度で大量発生する時もありますし」


「へーーー。そんな魔物がいるのなら、虫取り網で捕まえないとねー? すっごい、大漁だーーー! ってなりそー」


「まあ、いつどこで、そいつらが大量発生するのかは、未だに魔術師サロンでも解明できていないからなあ。ユーリ。ちなみに夏場から秋にかけて田んぼで5,6匹が群れになって飛んでいることがあるけど、あれは捕まえちゃだめだぞ?」


「えーーー? なんでーーー? それを捕まえたら金貨5枚ゲットだよー?」


「うふふっ。あの連なって飛んでいるのは、交尾のためらしいのですわ? 不思議なことなんですが、金貨のくせに交尾を行って、その数を増やすのですわ?」


「交尾ー? 交尾ってなにー?」


 あっ。娘の性教育を怠ってきたツケがまさかここで回ってくるとは。うーーーん。こういう女性のデリケートなことは、世間様では母親頼みしかないからなあ?


「ユーリ? 今度、私がじっくり教えますわ? だから、今、言ったことは全部忘れてほしいのですわ?」


 アマノ大明神、任せました。こればっかりはいくらお父さんとしても、娘に教えることはできんからな!


「さて、冷蔵庫(アイス・タンク)の売り場はこの階だっけ? うっわ、すっごい量の冷蔵庫(アイス・タンク)があるなあ? この中でどれを選べってんだ?」


 俺たちは家具量販店の3階まで階段を昇ってやってきたわけである。しっかし、ざっと見ても20台くらいの冷蔵庫(アイス・タンク)が並んでやがるわ。こりゃ、少し、舐めてかかっていたかもしれないぞ?


「私たちが冷蔵庫(アイス・タンク)の購入に出せる予算としましては、金貨1枚(※日本円で約10万円)ですわね。これから家族が増えることを想定すれば、そこそこの大きさのモノがほしいところですわ?」


「最低限1週間分の食料が入るくらいのでかさは欲しいよなあ。おっ? これ、冷凍室(アイス・ルーム)が付いてる最新式のやつかあああ。うわっ、たけえ! 金貨5枚かよっ!」


 俺は冷凍室(アイス・ルーム)付きの冷蔵庫(アイス・タンク)に貼られている値札を視て、思わず、うへえええと口からこぼしてしまうのだ。


「貴族さまになると、こんな冷凍室(アイス・ルーム)があるモノを2,3個、ぽぽいっと買っちゃいそうだよねー」


「ユーリ。お前は何を言ってるんだ? 貴族さまはこんな家具量販店で売っているようなやつじゃなくて、職人たちが手間暇かけて造った、6畳間くらいのでかいやつを持ってんだよ。なあ、アマノ?」


「はい、そうですわ。あの中に一体、何を入れるつもりなのかまったく不思議なのですわ? 無駄なことに税金を使うのだけは有能なのですわ?」


「えっー? 貴族さまって、国民の税金で暮らしているのー? どういうことなのー?」


「まあ、やんごとなき血筋に連なるお方たちだからなあ。あいつらばっかりは、歴史上、どの軍事政権でも排除はできなかったしな。ヒノモトノ国の政治を行うための正統性を時の権力者たちに与えるのが、(みかど)とその周りの貴族たちだからなあ。下手に排除しようものなら、軍事政権と言えども、国民の反発を招いて、立ち行かなくなるからな」


 ちなみに今の世でヒノモトノ国を牛耳っている軍事政権は、元はしがないマツダイラ家と言う大名(ビッグ・ネーム)である。昔、そこの当主が50年近くの歳月をかけてヒノモトノ国の他の大名(ビッグ・ネーム)たちを従属させていき、見事、この国に幕府を開いたと言うわけだ。


「それはそれは遠き神代(かみよ)の時代からの血筋ですもの。いくら、時の権力者たちが軍事力を保持していようが、(みかど)から直接、正統性を奪うことはできませんわ。それをしようとして、闇に消えて行った時の権力者たちは長い歴史の中で幾人かいるようですが……」


 今のマツダイラ幕府のような巨大な軍事政権が産まれようとも、(みかど)がこの国の最高権威を保持しているし、マツダイラ幕府の大将軍(ビッグ・ショウグン)も、それに何か口を出したと言うことも無いようだ。


「おお、怖い怖い。ユーリ、貴族さまと謁見がかなっても、あんまり変なことを言うんじゃないぞ? あいつら、権威だけはありやがるから、厄介なんだ。敵に回すと、うちの団長でも手こずるからな!」


「えっ? その言い方だと、団長だと、貴族さま相手でもぼっこぼこにしちゃうのー?」


「あながち間違ってないから、困るんだ。昔、団長が貴族さまと女を取り合ういざこざがあったんだが、団長が貴族を生き埋めにして、掘り起こして、さらに生き埋めにしたんだよ。もう、これ以上、言葉にするのも危険だ!」


 団長が貴族と取り合った女性は、現在、団長のハーレムの一員となっている。ユーリには、今度、その女性を紹介しておかないとな。その女性は冒険者ではあるが、団長とのクエストに同行しているため、よく不在がちであり、ユーリとはまだ面会を果たしていないはずだしな。


「うっわー。団長って、あたしには優しいけど、あたしが想っている以上に、危険な人物なんだねー? あたし、団長を怒らせないように注意しないといけないなー」


「うふふっ。団長は【欲望の団(デザイア・グループ)】の代表だけあって、自分の欲しいモノを手に入れるには手段を選ばないヒトなのですわ」


「本当、あの性格をどうにかしてほしいぜ。あっ。性格って直らないから性格か。こりゃダメだ。見込み無しとはまったくもって、このことを言うんだろうな?」


「それよりも冷蔵庫(アイス・タンク)を選ぶのですわ? あら、これなんかどうですか? このサイズならそこそこ食材も入りますし、しかもお値段もお手頃ですわ?」


 アマノが俺に提示してきたのは、値段が銀貨80枚(※日本円で約8万円)の冷凍室(アイス・ルーム)は付いていない、普通サイズの冷蔵庫(アイス・タンク)であった。


「うーーーん。それだと、家族が増えたときのことを考えると、ちょっと小さくないか? それにユーリは育ち盛りだからな。甘く見てると痛い眼を見るぞ?」


「失礼だなー。あたしをまるで大喰らいのように言わないでよーーー! そりゃあ、1日に牛乳を1リットル飲んじゃうけどさー」


「ん? 前から思っていたんだけど、なんでそんなに牛乳をガブガブ飲む必要があるんだ? モンスターとの戦闘に有利になるように身長が高くなりたいのか?」


「うふふっ。年頃の女の子は、もっと他に大きくなりたいところがあるのですわ? まあ、大きくなっても肩がこるだけなのですけどね?」


「それは、持たざるモノの気持ちをわかってないだけだよー。アマノさんは卑怯だよー。あたしだって、アマノさんくらいにあればチャンスがあったのかも知れないのにー」


 ん? なんの話をしてんだ? 2人とも。え? 俺には関係のない話だって?


 しっかし、こんなにたくさんの冷蔵庫(アイス・タンク)が有ったら、選びようがないぜ。


「ちょっと、店員を捕まえてくるわ。2人とも、そこに居てくれよ? こういうのは専門家に聞くのが一番だぜ」

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