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ー初体験の章12- 神帝暦645年 8月24日 その1

 ちゅちゅちゅん! ちゅんちゅん!


「うっせえええ! 今、朝の何時だと思ってんだ! まったく、大津(オオッツ)に来ても、スズメってのは、朝からせわしなく鳴き喚かないと気が済まないのかよ!」


「ふわあああ。お父さんーのほうがよっぽどうるさいよー。あたしは枕が変わって、あんまり寝つきが良くなかったんだよー? もう少し、静かにしてほしいところだよー」


 朝からそう文句を言うのは、アマノの隣のベッドで寝ていたユーリである。まったく、困ったことに、あてがわれた一軒家は寝室にベッドがふたつしかなく、アマノとユーリがそのベッドを占有したわけである。んで、俺が床で布団を敷いて寝ていたわけだ。


「うーーーん。もう朝なのですか? もう少し、ゆっくりしていたいのですわ?」


 アマノが俺の大声で眼を覚ましてしまったらしい。あらら。こりゃ、失敗したぜ……。


「すまねえ。アマノ。もう少し、寝てても良いぞ? 館の幽霊(ゴースト)が逃げ出すわけじゃないからさ?」


「あらら? そうなのですか? では、お言葉に甘えて、もう15分ほど、寝させてもらいますわ?」


 とアマノは言うと、頭から掛布団を被って、スヤスヤとまた夢の中に戻っていくのであった。


「ふうううーーー。お父さんー。助かったねー? あたし、アマノさんが寝ぼけて、また、風の魔法を発動するかと思ったよー」


「ああ、助かった。アマノはきっちり6時間睡眠を取らないと、寝ぼけたまんまになっちまうからな……。自分の家ならともかくとして、よそ様の家でやらかしたら、クエスト報酬を減額されること間違いなしだったな。ユーリの初クエストが散々なことにならなくて良かったぜ」


 ニンゲンというものは、1日の睡眠時間は6~8時間がベストと言われているのだが、アマノにおいてはそれはきっかり6時間である。それよりも睡眠時間が不足してしまうと、どうしても、アマノは集中力を欠いた1日になってしまい、クエストの出来にも直結してくるのだ。


 今回の徒党(パーティ)はB級冒険者のアマノ、そして、C級冒険者の俺とヒデヨシ。さらにD級冒険者のユーリである。必然的にアマノは今回の徒党(パーティ)の主力であり、その主力のコンディションは大事となるわけだ。


 俺はアマノを再び起こさぬようにと、布団から這い出て、おそるおそると寝室のドアを開け、そこから抜け出すのであった。なるべく音を立てぬように階段を降りていき、リビングへとたどり着く。


「アッ。ツキトさん。おはようございマス。やっぱり冒険者さんたちは朝が早いんデスネ?」


 おっと。キッチンに先客が居たわ。まだ朝の6時だってのに、タマさんがすでに訪問してきているのである。そのタマさんは、コン=ロンの上にヤカンを起き、どうやら、飲み物用に湯を温めているようだ。


「おはようさん。タマさん。冒険者だからって、いつも朝が早いわけじゃないぞ? 今回のクエストは出来るだけ、日が傾く前にやっておきたいことが多いからなんだよ」


「へーーー。そうなんデスカ。やはり、幽霊(ゴースト)を相手にするだけあって、日中に取れる時間が多いほうが良いですモノネ? ボク、またひとつ、冒険者さんたちのことが詳しくなりマシタ!」


 うーーーん。タマさんは良い娘だねえ。ユーリもこれくらい、師匠である俺に対して、謙虚で勉強熱心であってほしいところだよ。


「今朝は、サンドイッチを準備したのデスガ、飲み物は何にシマス?」


「ああ、サンドイッチかあ。それなら、俺はコーヒーをいただきたいところだけど、アマノとユーリは何て言うかなあ? もう、15分から20分ほど待ってくれないか? そしたら、あの2人も下に降りてくると思うからさ?」


「わかりましたのデス! では、一度、ヤカンの火を止めておくのデス! 魔法結晶の中にある魔力も無料(ただ)ではないのデス。無駄使いはいけないのデス!」


 本当に良い娘だなあ、タマさんは。うちなんて、俺が火の魔力がC級あるからと、コン=ロンとか、ボイ=ラーをガンガン使いやがるからな! 誰がお前らが消費した魔法結晶内の魔力を補充してると思ってんだよ。俺だよ、俺!


 以前にも話したが、魔法結晶への魔力の補充ってのは、魔力回路を開放していないニンゲン族でも可能なのである。だが、やはり、補充に関する効率は、それに適した魔力を持っているニンゲンのほうが圧倒的に良いのだ。だからこそ、俺は自分の家の火の魔法に関する魔法結晶の魔力を補充するといった権利をアマノとユーリに与えられているわけだ。


「アノー? 握りこぶしを作って、誰に向かって独り言をつぶやいているのデスカ? もしかして、ツキトさんは、口では言いにくい持病を持っているのデスカ?」


「い、いや!? そんなことないぜ? 俺は肉体的にも精神的にも立派な40歳だからな!? たまに、視えない妖精さんとお話でもしているのですか? と嫁のアマノにツッコまれるけど、決して、俺は視えてはいけないモノが視えているわけじゃないからな!?」


 俺がしどろもどろになりながら、必死にタマさん相手に弁明するのである。タマさんは、慌てる俺を視ながらおかしそうに口元を右手で抑えて、クスクス笑うのである。ああ、恥ずかしいたら、この上ないわ。俺のコレは一種の病気みたいなものであり、治そうにも治せないんだよなあ。


「ご、ごほん。今のは視なかったことにしてくれ、タマさん。俺の家での扱いのひどさに思いを巡らせていただけだから」


「イ、イエ。ボクのほうこそ、笑ってごめんナサイ。ボク、父親を早くに亡くしてしまったので、つい、ツキトさんを視ていたら、ボクのお父さんもこんな感じに歳を取ったのかなあ? って思ってしまったのデス」


 ああ、そうか。タマさんの父親はすでに亡くなっているのか。なんとなくだが、タマさんがしっかりモノな理由がわかったって感じだぜ。


「す、すまない。嫌な事を思い出させてしまったみたいでさ?」


「気になさらないでくだサイ。アレはどうしようもない不運だったと、ボクはそう理解しているのデス」


 うーーーん。タマさんの父親の身に何があったんだろうなあ? 気になるなあ? でも、聞くのは、はばかれるなあ?


「ボクのお父さんのことを聞きたいって顔をしているのデス。ツキトさんは隠し事ができないタイプなのデス」


 おおっと。これはいけない。団長にもよく指摘されるんだが、そういうところがツキトくんが交渉事に向かないタイプなんですよって言われる所以なんだよなあ。俺はまいったといった感じで、右手で自分の後頭部をポリポリとかいてしまうわけである。そして、またもや、タマさんにクスクスと笑われてしまうのであった。うーーーん。40歳の大人としての権威がまったくもってないな、俺には。


「ボクのお父さんは、10年前のお盆進行の日に亡くなったのデス。あの年のお盆進行は異常デシタ。村だけでなく街にまでモンスターが入り込んできたのデス。ボクとボクのお母さんはお父さんがその身を盾にしてくれたおかげで、助かりマシタ」


 なん……だと!?


 10年前のお盆進行だと!? もしかして、アレが起きた時の生存者のひとりだって言うのか? タマさんは?


「ちょっと待ってくれ。タマさんの出身地はもしかして、岐阜(ギッフ)井ノ口(イノックチ)なのか?」


「ハイ。10年前のお盆進行で滅んだ井ノ口(イノックチ)が、ボクの故郷デス。やっぱり、冒険者さんたちの間では話題なのデスネ? お盆進行で滅んだ数少ない街のひとつなのデスカラ……」


 こんな偶然なんてあるのか? 俺が幼いユーリを救い出した地も井ノ口(イノックチ)であった。こんなとはいっては失礼だが、大津(オオッツ)の地で、ユーリと同郷のニンゲンと会いまみえるなんて、思ってもみなかったぜ。

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