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ー初体験の章10- 神帝暦645年 8月23日 その10

「アンデットを癒すのですわ! 【水の回帰(オータ・リターン)発動ですわあああ! アンデッド・ドッグさんたち、安らかに眠ってほしいのですわあああ!」


 俺はアマノから受け取った10枚の呪符を、次々とアンデット・ドッグの身体に貼って行く。水の魔法が発動するための詠唱が書かれた呪符を起点にアマノが水の回帰(オータ・リターン)を発動させるのである。


 アンデッド・ドッグの身体からブスブスと白い煙が立ち昇り、ジュワジュワッと泡立ちはじめ、最後には骨と少しばかりの肉片を残して、その魂は昇天していくのであった。


 ふう。これでアンデッド・ドッグは残り3匹か。屋外の戦闘は考慮してなかったから、俺たちは今回のクエストでは、それぞれ得意の武器を持って来ていない。まあ、それでも、アンデッド・ドッグ程度なら、持前の体さばきとヒノキの棒があれば、相手をするには充分である。


「ウキキッ! やはりヒノキの棒は扱いやすいのですよ! 水よ、ヒノキの棒に纏わりつくのですよ! 水の神舞(オータ・ダンス)発動なのですよ! ウキキッ!」


 おお、おお。ヒデヨシがヒノキの棒に螺旋の水流を纏わせて、直接、アンデッド・ドッグをぶっ叩いてやがるな。これであと2匹か。ここはユーリに任せるべきか!?


「ええっと、ええっと。ワンちゃんをヒノキの棒で殴るのは、やはり気が引けるよーーー。でも、この子たちを退治しないと、それはそれで、かわいそうだもんねー。うーーーん! ごめんなさいーーー! わんちゃんたち、昇天してねー! 【水の浄化(オータ・ピューリ)】発動だよおおお!」


 ユーリがヒノキの棒の先端に呪符を貼りつけている。そして、ヒノキの棒をアンデッド・ドッグの腹に押し付けて、解毒用の魔法を発動させるのである。


 ちなみにアンデッド系のモンスターには、水の魔法ならば、何を使用しても効果的だ。水の回帰(オータ・リターン)は回復魔法であり、もちろん、アンデッド系は大ダメージを喰らう。


 というか、アンデッド系モンスターは特に清らかな水に触れることでダメージを喰らうのである。だからこそ、単純に水の神舞(オータ・ダンス)で、武器に水を纏わせるだけで良かったりもする。


 では、何故、解毒用の水の浄化(オータ・ピューリ)をユーリが使ったのか? それはだな。アンデッド系モンスターの身体と魂を浄化させるためだ。いや、正確に言うと、多分、そういう効果があるんだろうという推測が魔術師サロンから発表されているのだ。


 事実、ユーリに水の浄化(オータ・ピューリ)をかけられた、アンデッド・ドッグはシュワシュワーという、まるで炭酸水が泡を放つような音を出し、眠るようにその場に倒れ込み、骨だけを残して、この世から去って行くのである。


 水の回帰(オータ・リターン)だと、腐った肉が焼け焦げたような匂いを発するのだが、水の浄化(オータ・ピューリ)の場合は、比較的ながらも、モンスターが苦しまないように天上に昇って行く感じがするんだよな。


「ふう。10匹近くいたアンデッド・ドッグも残りあと1匹なのですわ? さて、どうしたものですわ?」


「このまま放置しておくのも別に良いんだが、群れの最後の1匹ってのもなあ?」


 こちらとしては幽霊(ゴースト)を退治しにきたわけであり、アンデッド・ドッグをいくら倒そうが、報奨金の上乗せなど期待できないのである。ぶっちゃけ、戦い損なのだ。そりゃ、呪符はお手製のモノを使っているわけだから、店買いよりは、はるかに経費削減はできている。だが、依頼以外のモンスター退治なんかしてた日にゃ、日々のおかずを1品増やすために戦っているというのに、逆に1品減っちまうわ! となってしまう。


「ウキキッ。あまり依頼以外の雑魚モンスター退治など、願い下げなのですが、ここはサービスとさせてもらいますか。水よ、再びヒノキの棒に纏わりつけなのですよ! 水の神舞(オータ・ダンス)なのですよウキキッ!」


 あらら。結局、最後の1匹まで倒しちまったか、ヒデヨシは。まあ、1匹だけ残しておいても後味悪いからしょうがねえか。


「アンデッド・ドッグちゃん。安らかに眠ってねー? 今度は良い飼い主に拾われるだよー?」


 そうである。アンデッド・ドッグが何故、産まれるかと言うと、心無い飼い主に虐待されたりして、ニンゲンを恨んでいるからこそなのだ。その恨みつらみで死んでも活動するというわけだ。だから、このモンスター退治の費用は本当ならば、その元の飼い主に請求すべきなのである。だが、アンデッド・ドッグになってしまうと、体毛のほとんどは抜け落ちて、腐った肉が剥き出しになり、元が何の犬種なのかも判別が難しい。


 だからこそ、元の飼い主たちは自分たちの所為ではないと言い逃れがしやすい。まあ、たまにネームタグをつけっぱなしで野に放つ馬鹿がいるから、そいつには行政がこっぴどく叱りつけ、さらには罰金を請求できるわけだ。


 だが、今、倒したアンデッド・ドッグたちはご丁寧にも、そのネームタグを所持していなく、それを考慮したうえでの捨て犬なのだ。本当に胸糞が悪いこと、このうえないのである。


 アマノとユーリは骨だけになったアンデッド・ドッグを埋葬するために館の庭に穴を掘っている。そして、その穴にアンデッド・ドッグたちの骨を埋めて、両手を合せるのである。うーーーん。こんなことなら、線香の1本でも持って来れば良かったなあ。あとでタマさんに事情を話して、線香をわけてもらおうかな?


「ウキキッ。何故、冒険者が元の飼い主に代わって、アンデッド・ドッグを埋葬しなければならないんでしょうね? ウキキッ!」


豚ニンゲン(オーク)以下のニンゲンは居るもんだしな。もう少し、行政が厳しく取り締まってほしいところだぜ。ワンちゃんたちだって、アンデッド・ドッグになるためにこの世に生を受けたわけじゃないってのによ……」


 俺はポケットからタバコの箱を取り出し、その箱からタバコを1本取り出す。そして、タバコに火をつけ、一度、それを吸ったあと、アンデッド・ドッグが埋葬された場所に線香のように地面に突き刺すわけである。


「すまんな。今、仕事中でな? あとでちゃんと供養してやるから、今は線香代わりのタバコで我慢してくれよ?」


 俺はそうした後、アマノたちと同じく、両手を合せて、ナンマンダ・ブツ、ナンマンダ・ブツと唱えるわけである。


 簡単な供養を終わらせた後、ユーリが一言。


「そう言えば、何で手を合せて、ナンマンダ・ブツなんて不思議な文句を唱えるわけー?」


「さあ? 俺もよくわからん。生きているモノは死んだあと、この文句を聞くと、【ブツ】なるものになるんだってよ。原理はわからないが、シャカ・サンソン教の坊さんが言っていたから、それに習ってんだよ」


 俺は宗教に関して詳しくないために、そういう説明しか、ユーリに出来ないわけである。


「うふふっ? 手と手を合せて、し合せ。要は【幸せ】なのですわ? 【ブツ】になるのは【幸せ】なのですわ? だからこそ、ナンマンダ・ブツと共に手を合せるのですわ。今度こそ【幸せ】にと願いを込めるわけなのですわ?」


「おおーーー。なるほどーーー! さすが、学があるアマノさんだよーーー!」


「うふふっ? 私に学があるわけではありませんわ? ユーリと同じく義務教育までしか受けてませんもの。それにこれは私の祖母と母からの受け売りなのですわ?」


 学というのは高等教育を受けているってことじゃなくて、知恵を持っているって意味で、ユーリが言っているんだろうな。俺は若い頃に母親を亡くしているし、父は寡黙なタイプで、さらにはその辺りには疎いひとだったなあ。今はその父も他界しちまったから、結局のところ、我が家で、そういった伝統的な行為は俺で断たれてしまったわけである。


 まあ、そんな俺の父も、さすがに手を合せて、ナンマンダ・ブツということだけは実行していただけに、俺も自然とそれを真似するようになり、さらにはユーリも俺を見習ったというわけである。

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