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ー初体験の章 5- 神帝暦645年 8月23日 その5

 タマさんが深々と頭を下げたあと、クルリと回れ右をし、箱馬車の乗り込み席の扉をガチャリと開けるわけである。俺とヒデヨシはその箱馬車の後ろにロープで荷物を縛り付け、落ちないようにとしっかり固定する。


 その後、6人乗りの箱馬車にタマさん含めて5人が乗り込む。箱馬車の外側、2匹の馬を操る運転手は手綱をパシンッとその馬たちの尻に当てる。するとだ。ゴトンゴトンと箱馬車の4輪が回り出し、俺たちはその独特な揺れにおっとっとと身体を持っていかれながらも、バランスを上手くとり、座席に尻を乗せ続けるのであった。


「えっとデスネ。大津(オオッツ)駅から馬車で1時間ほど行った先に(くだん)の領主さまが普段寝泊まりしている館があるのデス。そこに幽霊(ゴースト)が住みついたというのは、うちのセ・バスチャンから聞いているはずデスヨネ?」


「ああ、そうだぜ。タマさん。俺たち4人はその館に住み着いた幽霊(ゴースト)を退治しにきたってわけだ。ちなみに、数日懸かりになりそうだけど、俺たちはその間、どこで寝泊まりしたら良いんだ?」


「ハイ。その館から10分ほど歩いたところに借り宿として馬小屋があるのデス。その馬小屋に併設された一軒家で寝泊まりしてもらおうかと、こちらとしては思っているのデス。あっ。もちろん、食事は運ばせてもらうのデスが、他に何か要り用でしたら、あらかじめ言っておいてほしいのデス」


「うーーーん。できるなら、寝室はヒデヨシが俺の家族に手を出せないように別室にしてもらうことかなあ?」


「ウキキッ。失礼な話なのですよ。わたくしが女と視れば、寝室に潜り込むような男に視えるのですか? ウキキッ!」


 そう視えるからこその配慮をタマさんに頼んでいるわけなんだがな? ヒデヨシくん?


「わかりましたのデス。では、ヒデヨシさんは馬小屋のほうで寝泊まりしてもらうのデス。それなら、アマノさんもユーリさんも安心なのデス!」


 ひどいのですウキキッ! とヒデヨシがおよよと泣いているわけだが、それはお前の日頃の行動が呼んだ災いだ。馬小屋でも体力はともかくとして、魔力はしっかり回復するんだから、屋根がついてるところで寝れるだけマシだと思え!


「あとはだなあ。昼食をどうするかだな。歩いて10分程度のところなら、弁当を準備するよりも、一旦、戻って、昼から再アタックのほうが良さそうだなあ? 弁当をわざわざ仕込むほうが手間だしなあ?」


「ボクの手間なら考慮してもらわなくても良いのデスヨ? 毎日、領主さまの息子さんにお弁当を作っているので、手間だと考えたことはないのデス!」


 うん? 今、なあんか引っかかるものがあったんだが? 俺の気のせいか?


「うふふっ。ホソカワ家の息子さんも毎日、こんなに可愛い使用人のタマさんにお弁当を作ってもらえるなんて、幸せな方なのですわ? でも、良いのですか? 私たちのお世話をしてもらうと、その息子さんのお弁当は作れなくなるのですわ?」


「そこは残念至極なのデスガ、これもお仕事なので仕方ないのデス。冒険者さまたちが早めに領主さまの館から幽霊(ゴースト)を追い払ってくれることを祈るばかりなのデス」


「まあ、心配しなくても大丈夫だって。長くても1週間ちょっとでなんとかして見せるからさ? アマノ、ユーリ、ついでにヒデヨシ。期待しているからな? お前たちの水の魔法で、幽霊(ゴースト)をけちょんけちょんのぎったんぎったんにしてやってくれよ?」


「お父さんも何か活躍する気はないのー? いくら、水の魔法が使えないからといって、あたしたち任せなのは勘弁してほしいところだよー」


「ユーリ。よおおおく聞いてくれ。俺の今回の役目はお前たちが幽霊(ゴースト)に取りつかれないように、俺自身がお前たちの壁になることなんだ。だから、防御力は期待してくれても良いが、攻撃力に関してはまったくもって期待しないでくれたまえ!」


「うふふっ。壁役を頑張ってほしいのですわ? ユーリ? もし、ツキトが幽霊(ゴースト)にその身体を乗っ取られたら、遠慮なく、ヒノキの棒で頭をぶん殴れば良いのですわ?」


徒党(パーティ)の壁役って、つらい役目なんだねー。まるで、お父さんの人生の縮図みたいだよー」


「いや待て。俺の人生は絶賛バラ色街道まっしぐらだ! 徒党(パーティ)の壁役と一緒にするんじゃねえよ!」


徒党(パーティ)の壁役ってなんデスカー? 響き的にモンスターを通せんぼするような役目なんデスカ?」


 ああ、タマさんがよくわかないって顔をしているな。そりゃ当然か。壁役って単語自体、冒険者業界の中でしか使わない言葉だしなあ。


「えっとだな。タマさん。冒険者が徒党(パーティ)を組むときってのはそれぞれ、役割ってのがあるんだよ。代表的なのが主に攻撃を担当するアタッカー。まあ、剣とか斧とか持っている奴らな? こいつらは花形職なわけ。やっぱり、ズバズバッとモンスターを斬り伏せていくわけだからな?」


「うふふっ。次に説明するとなれば、回復や補助魔法を担当するヒーラーですわ。文字通り、徒党(パーティ)に怪我人が出たときの治療や、身体能力向上の風の魔法を使ったり、あとは煙玉を使用して、徒党(パーティ)が戦闘から離脱するなどの補助を行うのですわ?」


 タマさんがほうほうなるほどなのデスと興味深げに聞いてくれているわけである。俺としても馬車で1時間揺られる中、無言で過ごすよりは、話題がある分、ほっとする部分があったりもする。


「ウキキッ。そして、忘れていけないのが壁役なのです。壁役には色々な名称で呼ばれているのですが、それを言い出すとキリがないので別の機会に置いておくのですウキキッ。彼らの役目は文字通り、敵の攻撃が味方に向かないように自分へと集中させる職なのですウキキッ」


「もう少し補足するとだ。壁役のニンゲンは目立つってのが重要だったりするんだよな。例えば、自分の左手に持っている盾に向かって、棍棒とかをガンガン叩くわけよ。そしたら、いやでもモンスターの注目はその壁役に向かうってわけ。そうなると、特にヒーラーが狙われにくくなって、戦いやすくなるってわけだ。だから、壁役の仕事は地味なんだけど、徒党(パーティ)には重要な職なんだよ」


 しっかし、徒党(パーティ)として、壁役ってそもそも必要じゃない場合があるんだよなあ。


「ウキキッ。ツキト殿が何を言い渋っているのかわかるのです。先ほど、壁役は徒党(パーティ)には重要な職とはツキト殿が言ったのですが、壁役専門でやっている冒険者は、ほとんど居ないのですよ」


「アレレ? どういうことデスカ? 壁役が居なかったら、ヒーラーさんが危険になってしまうのデスヨ?」


「そもそも、ヒーラー専門って奴自体も居ないんだよな。冒険者ってのは誰しもが武器と魔法で全員が何かしらの攻撃ができるように徒党(パーティ)を組むんだよ。だって、そりゃ、そっちのほうが敵に与えるダメージ総量が上がって、敵の数が早く減るってことだからな?」


「そうだよねー。あたしも水と風の魔法のふたつしか使えないのに、攻撃手段をお父さんから叩きこまれているもんねー? 本来なら、水と風の魔法をメインで戦うなら、サポート専門でもおかしくないのにねー?」


「うふふっ。攻撃は最大の防御なりなのですわ? 紅き竜(レッド・ドラゴン)相手や大量の豚ニンゲン(オーク)相手に立ちまわる時以外は、攻撃が出来るチャンスがあるのなら、サポート役のニンゲンでも攻撃に回ったほうが、ツキトの言う通り、結果的に戦闘は早く終わって、こちらの損害も減るということなのですわ?」


「だから、壁役専門じゃなくて、壁役兼アタッカーっていう二役を兼ねた立ち回りのほうになるってことよ。タマさん、少しは理解できたかい?」

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