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ー初体験の章 3- 神帝暦645年 8月23日 その3

 結局、他にやることもないので俺とアマノ、そしてヒデヨシの3人で花札で遊ぶことになる。


「うふふっ。三光が出来上がりましたわ? これで総得点でヒデヨシさんをまくったはずですわ?」


「ウキキッ。最後の最後でブタを引いてしまうとは運が無かったのですよウキキッ!」


「よっし、青タンゲットだぜ! あっ、ダメだ。俺、ぶっちぎりで最下位だわ……。うーーーん。もっと高い手を狙わないといけないんだが、良い手札はアマノとヒデヨシがことごとく持っていくからなあ?」


「ウキキッ。わたくしは最終ゲームの手札が悪すぎたのですよ。ここぞと言う時の引きの悪さには自分ながらに辟易してしまうのですよウキキッ!」


 と言うわけで、カードゲームの勝敗は1位:アマノ、2位:ヒデヨシ、3位:俺と安定の順位だったりするのであった。


「では、帰りの汽車(ポッポー)での車内販売の麦酒(ビール)の代金はツキト持ち。おつまみはヒデヨシさん持ちに決定なのですわ?」


「はいはい、わかりましたよ。太陽盗りのプレミアム盛り盛り・麦酒(ビール)だろうが、夕日の超ウエット・麦酒(ビール)だろうが好きなのを選んでくれ。ただし、今はダメだぞ? 仕事前に一杯ひっかけてきてるのがバレたら、依頼主から白い眼で視られちまうからな?」


「ウキキッ。どこぞの駆け出し冒険者の初クエストでもあるまいし、そんなことをするわけがないのですよウキキッ!」


「うふふっ。初クエストって、緊張したものですわ? 私も一門(クラン)の先輩たちに安心しろとは言われましたけど、どうしても緊張が取れなくて、クエストが終わったあとにぐったりとなってしまったものですわ?」


 アマノの言う通りなんだよなあ。初クエストって、絶対、失敗できない! とか思いこんじまって、前日はよく眠れずに寝不足になったりとか、訓練では出来てたことが、緊張のせいで全然できないとか普通にあるもんなあ?


 けど、うちのユーリときたら、弁当の肉じゃが(ニック・ジャガー)を食べたあと、満足したのかスヤスヤと肩下げカバンを枕にして寝てやがんだよな。肝の据わった、たいした駆け出し冒険者だと、脱帽せざるをえないのである。


「ユーリって、将来、すっげえ大物になったりな? 普通、初クエストってのは変な期待と緊張で、心臓バックバクのはずなのにさあ?」


「ウキキッ。わかりますよ、それ。で、E級とD級冒険者が受けれるようなクエストなんて報酬がたかだかしれているので、あんなに頑張ったのにこれだけかあああ! って嘆いてしまうのですよねウキキッ!」


「うふふっ。私は初クエストの初報酬をもらった時は心が躍ったものですわ? 女性と男性では違うモノなんですかね? ツキトはどうでした?」


「俺? 俺かあああ。どうだったかなあ? もう、20年以上も前の話だからなあ。あの時どうだったかなあ? 緊張しぱっなしだったってことは覚えているんだけどなあ?」


 初めてのクエストで報酬を受け取った時って、俺はどうだったかなあ? いまいち、思い出せないんだよなあ?


「まあ、思い出せないのも歳を取りすぎたせいだろう。さて、あと15分くらいで大津(オオッツ)に着くな。可哀想だが、そろそろユーリを起こすかあ。おい、ユーリ、起きろ。そろそろ、目的地に着くぞ?」


「うーーーん。お父さんー。そんなところ触っちゃダメだってー。今まで、誰にも触らせたことなんてないんだよーーー? むにゃむにゃ」


 いったい、どんな夢を見てんだ、こいつ。おい、アマノ。ちょっと水の魔法でこいつの顔を洗ってやれよ。


「うふふっ? 汽車(ポッポー)の中で魔法を使うのは禁じられているのですわ? ユーリ? 起きるのですわ? 悪い狼さんに食べられてしまうのですわ?」


「うーーーん。むにゃむにゃ……。あ、アマノさーーーん。おはようー。もうそろそろ大津(オオッツ)に着くのー?」


「そうですわ? そろそろ覚醒しておかないと、寝ぼけまなこで依頼主の従者さんに顔をあわせることになってしまいますわ?」


 アマノに起こされたユーリがまだ眠そうなのか、右のまぶたを右手の人差し指でこすっているのである。その後、寝癖がついてないか、手鏡を肩下げカバンから取り出して、自分の髪の毛をチェックしだすのであった。


「よっし! 寝癖はついていないねー! これで赤っ恥はかかなくて済むよー!」


 まあ、冒険者なんてだらしないって言うのが代名詞だから、向こうとしてもきっちりとした格好なんて期待してないと思うけどな?


 汽車(ポッポー)がシュッシュー! シュッシュー! ピーーー! と雄たけびをあげる。おっ? かなり大津(オオッツ)の駅に近づいてきたのか? よおおおし、気合が入ってきたぜ! 今度のクエストはいったい、どうなることやらな! 今年で40歳になった今でもクエストの始まりってのは自然と意気込んじまうぜ!


 それから15分ほど経つと、汽車(ポッポー)大津(オオッツ)の駅に到着し、シュッシューーーー、ギギギーーー! と大きな音を立てて、駅のホームで止まることになる。


 俺たちは荷物入れをよっこらせっと担ぎ、汽車(ポッポー)の出入り口から外へと出て、2時間ぶりの外界の空気を吸い込むことになる。


「うえっ! げほげほっ! 汽車(ポッポー)の煙突から出る煙を思いっきりすいこんじまった!」


「お父さんー。何、やってるんだよーーー。タバコの代わりに汽車(ポッポー)の煙を吸うって、馬鹿か何かなのー?」


 うっせえ! 別に俺もそこまでタバコ中毒じゃねえよ!


「うふふっ。汽車(ポッポー)は全席禁煙なのですわ? ですから、団長やツキトみたいなタバコ中毒者にはつらいものがあるのですわ?」


 あ、あれ? 俺って団長レベルのタバコ中毒者認定されてるんですが? 何かおかしくないですかね? と思いつつも、俺の足は駅の喫煙所に向かっていくわけであるのだが……。


「ぷはあああ。仕事前の一服は最高だなあ。って、なんだよ、ユーリ。何かもの言いたげそうな顔してるけどさ?」


「んーん? なんでもないよー? というより、クエスト初体験のあたしより、なんだかお父さんのほうがうきうきしているなーって思っちゃうー」


「うふふっ。我が娘の初体験なんですもの。親としては期待半分、恐れ半分といったところなのですわ? ユーリは気張りすぎないように注意して、訓練で学んだ通りに動けるこを祈りますわ? あと、ツキトは変に横から口を出さないこと。ユーリがテンパってしますますからね?」


「うーーーん。そんなに俺って傍目(はため)でも昂っているように視えるのか? ちょっと、これは気をつけておかないといけないなあ。おい、ヒデヨシ。今日はお前が徒党(パーティ)の司令塔をやってみないか?」


「ウキキッ。それは構わないのですが、この徒党(パーティ)はお盆進行の時に近しい形でしか組んでないのですよ? 自分ではクエスト初体験のユーリ殿を入れた状態では不安があるのですウキキッ!」


 まあ、そんな心配があるのは当然なのだが、変に昂揚している俺のほうがやらかしそうな気がするんだよなあ?


「アマノ。俺とヒデヨシ。今回はどちらが司令塔のほうが良いと思う? ユーリの実力は俺が把握しているけど、俺はいつもの状態ではない。ヒデヨシは司令塔の経験値が低い。どっちを選んでもリスクは生じるんだが……」


「うふふっ。悩ましい問題なのですわ? いっそのこと、コインの裏表で決めたらいかがなのですわ?」


 コインの裏表ってか。まあ、それが妥当だろう。どっちにもリスクはあるんだし、リスク無しの冒険なんてそもそも存在しないわけだしな!


「よっし。じゃあ、俺は表を選ばせてもらうぜ。ヒデヨシは裏な! ユーリの初体験を無事に終わらせれるのは神頼みしだいってことだ!」


「ウキキッ。とんでもない初体験が待っていそうな気がしてたまらないのです。ユーリ殿。あまり痛くないように終わらすので期待しないでほしいのですウキキッ!」

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