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ー10- 6月8日

「ううんー! 体内から毒よ、出でよー! 【水の浄化(オータ・ピューリ)】だよーーー!!」


 ユーリが俺の腹に呪符を1枚張り付けて、主に解毒に使われる水の魔法・水の浄化(オータ・ピューリ)を発動させる。おお……、身体の中から何かが出てきそうな感じだぞおおおお!?


「うげええええ。うげええええ。うげええええええ!!」


「あらあら。解毒をするのは良いですけど、口から吐き出させるのはどうかと想いますわ? そこは、腕に短剣でもぶっ刺して、そこに出口を作ると良いのですわ?」


「なるほどー。口から毒を吐きださせるのはダメだったかー。見た目も汚いからねー? これは映像ではお見せできないよー?」


 神帝暦645年 6月8日。今日はユーリにアマノが解毒等に使える水の魔法【水の浄化(オータ・ピューリ)】について解説と実践を行っているわけだ。俺はもちろん、解毒魔法の実験体として、アマノからユーリへと受け渡されたわけである。


「水と風の合成魔法で霧を発生させれば、簡易的なモザイクにもなりますわ? まあ、そんなことを覚える暇があるなら、別の魔法を修得するほうをお勧めしますけどね?」


「お、お前ら、何を冷静に解説してんだよっ! そんなことより、俺の身体を心配してくれよ! ああ、毒と一緒に胃の中にあったモノを、全部、出しちまったぜ」


 ちなみに俺が今回、服用した毒は、ニコチンである。ニコチン? なんでそんなモノを口の中に入れたかって? ニコチンを甘く視るなよ? 凝縮させれば、これはこれで立派な毒となるのだ。


 まあ、そんなことは置いておいてだ。市販されているニコチン入りガムがあるのだが、この100倍も含有量があるニコチン入りガムをある筋から手に入れることが出来るのだよ。こいつは、今日から俺は禁煙を始めるぜ! と意気揚揚に裏切りモノ宣言をする奴を騙すためによく使われるガムである。


 まったく、性質(たち)の悪いイタズラを考える奴も世の中には居るもんだぜ。ちなみに俺はこのガムを誰かに食べさせたことは無い。そんなことをしなくても、正規のニコチン入りガムで禁煙が成功する確率はだいたい10パーセントであり、俺がわざわざ、こんなモノのために金を使う必要がないからだ。


「まったく、様子を視に来たら、ツキトくんの汚物で【欲望の団(デザイア・グループ)】の訓練用広場が汚れてしまったじゃないですか」


 あっ、将来、ユーリをハーレムの一員にする気満々の団長が歩いてこっちに近づいて来たぞ? こいつ、もしかして、やることがなくて暇なのか?


「本当にツキトくんは顔の表情にありありと思っていることが出ますよね? あいにく先生はそれほど暇じゃありませんよ。書類の束に朝から埋もれていたんです。息抜きにどれほど、ユーリくんが成長したのか確認しにきただけですよ」


「ああ。そんなことかよ。ユーリの肉体的な成長ぶりを確認しにきたのかと思ったぜ。ったく、心配して損したぜ」


「ツキトくんの減らず口はどこで覚えたんでしょうかね? アマノくん、ちょっと、ツキトくんに猛毒を仕込んでくれませんか? ユーリくんが見事に解呪できるか確認したいところですよ」


「うふふっ。団長の提案は拒否させてもらうのですわ? それに生憎、私は猛毒の類は持ち合わせていませんわ? 夜にツキトを少しばかり麻痺させて身体の自由を奪う程度のモノしか所持していませんわ?」


「ちょっと待て! 俺があの夜、(サッバ)に当たったと思って、身体が痺れていたのは、その神経毒のせいなのか!?」


「あら、嫌ですわ? あれは、ただ本当に(サッバ)が痛んでいただけですわ? 青魚は嫌ですわね。暑くなってくると、すぐ痛みますもの。もう少し、値が張る冷蔵庫(アイス・タンク)に買い替えたほうが良いのですかね?」


 アマノが右手で頬杖をついて、困りましたわ? という表情になっている。冷蔵庫(アイス・タンク)を買い替えたい気持ちはあるが、そのお金をどこから捻出したものだろうかと思い悩んでいるゆえの頬杖なのだろう。


「ああ、今、我が家にあるアレはかなり年季が入ってきているからなあ。そろそろ買い替えの時期なのかも知れんなあ。水の精霊がちょくちょく魔法結晶から逃げ出しているもんなあ」


「あの冷蔵庫(アイス・タンク)って、あたしが10歳の頃にお父さんが買ったやつでしょー? もう5年以上、使っているから、かなりガタがきているよねー。団長ー、新しい冷蔵庫(アイス・タンク)を我が家に買ってくれても良いんだよー?」


「そこはツキトくんとアマノくんの頑張り次第ですね。夏のボーナス時期も近いところですし、ユーリくんの成長如何では、色を付けますよ?」


 ほう、ボーナスか。それは良いこと聞いたぞ……、って!?


「えっ!? うちってボーナス出てたっけ? そんなの初耳なんだけど! 俺、いつもらったっけ?」


「今さっき、決めました。いやあ、国から根の国(ルート・ランド)探査の費用を半分だしてもらえることが決定しましたから、今期と来期は大幅黒字になりそうなんですよ。これで、少しは我が【欲望の団(デザイア・グループ)】の上の位階(ランク)の団員たちに還元できそうです。あっ、ちなみにC級冒険者以上が対象ですけどね?」


「えええーーー? じゃあ、あたしには夏のボーナスが出ないってことー!? ここって、巷で噂のブラック一門(クラン)じゃないのーーー?」


「ユーリ。落ち着け。E級、D級冒険者は、一門(クラン)から日々の宿代が出ているんだ。だから、実質的に毎日のように、ユーリはボーナスを団長から支給されていることになるわけだ」


「なーんだ。そういうことかー。それならそうとちゃんと言ってよー。あたしだけがもらえないのかと心配したよーーー」


 ユーリは実家暮らしなのだが、他のE級、D級冒険者が住宅手当をもらっているのに、ユーリだけもらえないのはおかしいんじゃねえの? と俺が団長にかけあった結果、低位階(ランク)の冒険者が支給されている住宅手当の半分の額を団長からちょうだいしていたりする。


「まあ、ボーナスって言ってもスズメの涙程度なんですけどね? 金貨1~2枚程度ですよ。本当に冷蔵庫(アイス・タンク)を新しくすることくらいしかできません」


「おい、アマノ。喜べ! これで、今年の夏場に冷蔵庫(アイス・タンク)から異臭が漂ってくる心配がなくなったぞ! いやあ、アレをどうしようか悩んでいただけに、渡りに船とはこのことだぜ。早速、栗東(クリットウ)の家具量販店にでも品定めに行ってくるか?」


「うふふっ。今すぐ行ってしまったら、団長さんが目くじらを立てて、ツキトをシバキ倒すのが眼に見えていますわよ? 今度のお休みの日にユーリも連れて行きましょうなのですわ?」


「くっ。仕方ねえなあ。おい、ユーリ。休日まで時間がねえぞ! さっさと訓練再開だ!」


「おーーー! じゃあ、解毒魔法の再開だねー! 今度はどれくらいの強さの毒にするー?」


 俺とユーリの2人は、夏のボーナスを手に入れるべく、ユーリの解毒魔法の訓練に戻るわけである。



 ☆☆★☆☆



「あらあら。気合が入っていますわね。河豚(フッグ)毒を飲もうとしたら、止めないといけませんわ?」


「何か、恐ろしいことを言ってますね、アマノくんは。ところで、あの師弟コンビはどんな感じですかね?」


「うふふっ。可もなく不可もなくと言ったところでしょうか? 団長さんの言っている期日にギリギリ間に合うか間に合わないかと言ったところですわ?」


「ふううう。そうですか。もっと早めに仕上がるのを期待していたのですがねえ? そうすれば、【根の国(ルート・ランド)】探査団時の徒党(パーティ)としての訓練時間も長く取れることになるのですがねえ」


「こればっかりはしょうがないのですわ? ところで、本当の用事は何なのですわ? 団長さん?」


「【団長さん】なんて他人行儀な言い方は良してほしいところなんですがね、アマノくん。出来れば、昔のようにノブナガさんと言ってほしいところですよ」


「そんなことしたら、ツキトが嫉妬に狂って、団長を刺しにいきますわよ? ツキトはああ見えて、私以上のやきもち焼きなのですわ? それでも良いのなら、私は構いませんわ?」


「まったく、ツキトくんがなんでアマノくんに選ばれたのでしょうかねえ? 先生、アマノくんをスカウトしている時から、求愛をしていたって言うのに」


「そこは、運命としか言えませんわ? 団長が失敗したのは、ツキトを団長と私たちの徒党(パーティ)に入れたからですわ? そこで全てが決まってしまったのですわ?」


「まったく、ツキトくんはここぞと言うときにやらかしてくれますからねえ。アマノくんがいくら危険に晒されていた状況だからと言って、ツキトくんがアレの前に言葉通りに身を投げ出しましたから。まあ、そのおかげで、アマノくんには怪我ひとつなかったわけですが」


「そういうことですわ。ツキトは団長さんができることはできませんが、団長さんができないことをツキトはできますわ。それが、私のために命を差し出すことなのですわ?」


「参りました。降参です。ここまで完膚なきにまで自分以外に負けたと想ったのは人生初めてでしたよ。ったく、ツキトくんはアマノくんを幸せにしなかったら、シバキ倒しますからね?」


「うふふっ。それだったら、すでに私は幸せなのですわ? だから、団長さんがツキトをシバキ倒すことは永遠に不可能なのですわ?」


「やれやれ。要らない惚気を聞かされました。これは今夜は一杯ひっかけなければいけませんね。あとでツキトくんをお借りしていいですかね?」


「ええ、どうぞなのですわ? 男友達同士のお酒を邪魔するほど、私は狭量ではありませんわ? でも、二日酔いにさせるのはやめてくださいね?」


「はいはい。ほどほどに付き合ってもらいますよ。ツキトくんからも惚気を聞かされたら、たまったもんじゃないですからね。さて、そろそろ本題に入りましょうか」


「うふふっ。やっぱり、団長さんは何か隠し事があるのですわ? はてさて、どんな内容を聞かされることになるのか楽しみなのですわ?」


「まあ、それほど気分の良い話ではないですがね。では、ツキトくんとユーリくんには時が来るまで内緒にしておいてくださいね?」

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