歓迎
VRMMORPG"この世界に生まれて" は歴代VRMMORPGの、その基礎を作ったといっても良いゲームだ。
そしてこのゲームの画期的な事は、定番の機能に加え、プレイヤーの性格がそのままゲーム上でも反映されることだ。
プレイヤーは初め、性別のみしか選択することはできない。
だが、ゲームのやりこみ度合いや、プレイ性、そして 中でもチャット機能による口癖までもがキャラクターに反映される。
その種類は数多く、定番の職業やスキル等に加え、カルマ値、顔つきまでもだ。
だが、これらは副産物にしか過ぎない。
重要なのはこれらを決定している機能にある。
それは、このゲームの核心であり、この後に出るほぼすべてのゲームに搭載され、また、日常生活にも必要不可欠になったもの────
────人工知能、AIだ。
2120年現在、AI技術はこれまでにない進展を見せている。
AI自体は100年前から開発が進んでいたが、2年前、日本で最も優れているといわれたAIが誕生した。
それ、いや、彼女の名はミズキ。
彼女を彼女たらしめる理由、それは、感情だ。
人の心を理解することのできるAI。
人の言葉を理解することのできるAI。
人は彼女を恐れた。そして魅了した。
ある者はこう言った。神の諸行である。と。
そしてこう言う者もいる。
彼女には隠された能力がある。と。
このゲームにはナビゲーションシステムとして1プレイヤーにつき1人、彼女が与えられる。
だがこのゲームの彼女はプレイヤーによって性格が大きく変わるが、そこに彼女の唯一の欠点が存在する。
それは、変わってしまった性格は、もうもとには戻らないことだ。
例えば、カルマ値が大幅にプラスのプレイヤーがいたとする。
すると、それからそのプレイヤーがどれだけカルマ値を下げる行いをしようとも、少しは下げる事はできるが、決してミズキ自体のカルマを悪に落とす事はできない。
又、その逆もしかりだ。
そのゲームの古参プレイヤーである俺のミズキは、悪。それも最悪だ。
何故なら、俺のプレイスタイルが、女の子の初心者キャラを装い、いい気になった男性プレイヤーを殺すことだからだ。
更に、殺されたプレイヤーは何故死んだのか分からず、再び俺に近づき、気づいた頃にはアイテムのほとんどを奪われた後だ。
当然スキルは初期のスキル以外は暗殺、盗賊系で埋め尽くされ、顔つきもそれ相応となる。が、俺のキャラクターの顔は初期のキャラを少し善によせたような、正に"このゲームが初めてのVRMMO で、しかもやり方がよくわからず、初期のミズキの言われるがまま人助けイベントをこなしてきました"と言うような顔だ。
これはある時、まだ俺が始めたばかりのころ、そう、何となく、プレイヤーを殺した時にミズキから貰った人革の仮面の効果だ。だが、未だに何故貰えたのかが解らない。ミズキに聞いても「あなたがそういう人だからよ」の一点張りだ。
だが、この仮面を使うことでプレイスタイルが劇的に変化し、今の俺が生まれたといっていい。
ミズキも俺がプレイヤーを殺す度、歓喜し、そして最近ではこう言ってきた。
「転化の日は近いわ。戦いに備え、もっともっと殺しましょう!」と。
俺はこの時、それを何かのイベントくらいにしか考えなかった。
そして、時は唐突に訪れた。
「今日は貴方に朗報があるわ。遂に転化の日が訪れたの。貴方のこれまでに殺したプレイヤーの数は2139体よ。中々貴方もやるわね。」
「その転化とやらはなんなんだ?何かのクエストなのか?」
「んー、まぁそんなとこかな。あなたにとっては飛びっきりの楽園よ。」
ミズキがそう告げると共に、俺の体に黒いもやのようなものがまとわり始めた。
そして、俺の体は徐々に徐々に溶けていった。
その時、俺はとてつもない高揚に襲われた。
まるで俺を歓迎するかのように。