出逢いは選べなくても別れは選べる
「雪国」を読んで気に入ったって。私、実は読んでない。高校生の時、予備校の国語の教師が
「こんな話は君たちが読んで面白いものじゃない。中年になって初めてこういう小説が味わえるんだ。出会うべきでない時に出会ってしまって、つまらないと思う。そしてもう一生振り向きもしない。惜しいことだ。」
その教師自身が、いかにも不倫でもしていそうな退廃的な風情で、その中年の男の雰囲気を醸し出していた。だから読んでいない。
夕飯も一緒だとばかり思っていたのに、他の人達からの誘いがあって、行ってもいいかという。縛ることはできない。仕方ない。ただ、家には帰れない。飲み会と言って出て来たのだから。銀座の地下鉄のホームでそれぞれ反対方向の電車に乗った。まだ6時。時間稼ぎのため、それに交通費節約のため、丸ノ内線で荻窪まで行く。あてもなく荻窪の駅を出る。ブックオフが目に入り、真っ直ぐに文庫の「か」の棚を探し、迷わず「雪国」を買って店を出る。
さあ、どこで読もう。喫茶付きのパン屋でパンとコーヒーを買ってソファに座る。遠近コンタクトのせいで、かなり読みずらい。8時に閉店。隣の年配の女性が、親しげに、
「あら、もうこんな時間になってたのね、ちょっとのつもりだったのに。全然気がつかなかったわ。」
その女性も本を読んでいて、その女性と私の間に座った女性も本を読んでいた。彼女は私より若かった。その彼女は閉店前に既に席をたっていったが、この年代の違う女三人の読書風景は、何か、安心させられる雰囲気だった。孤独ではなかった。
でも閉店。急に寂しい気持ちに襲われる。8時では帰宅するには早すぎる。それにまだ半分くらいしか読んでいない。こんな薄い文庫、できることなら明日までに読み終わってしまいたい。明日の朝会う前に、すっかり知ってしまいたい。何が気に入ったのか。




