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第7話 濃霧の森

忙しい……

さて、『エネルギー操作』が、"エネルギー"を操作するものだと仮定しよう。

いや、まんまなのはわかってる。

けど、これが結構重要なんだよ。


ギフトの使用例をもとにして説明していこう。その方が分かりやすいからな。


例として挙げるのは、ナリルと俺が王宮から落下した時だ。

あの時、ロレンツ大臣が言っていた重力操作の魔法は作動していなかった。実は、ナリルが俺を試すために設定を外していたらしい。

最初で最後の授業の後、


「これだけは謝罪しておくべきだと判断しました。」


と言って、ナリルが俺の部屋を訪れ、元々自分の立てていた計画と、魔法が発動していなかったことを伝えてくれた。これはリリも気付いていたそうだ。ちなみに俺の説教に付き合う感じは微塵もなかった。

着地の時ナリルは何もしていなかったらしいので、無傷で降りることができたのは、俺の力によるものだと考えられる。そして、『鑑定』の結果から推測すると、多分俺は無意識のうちに『エネルギー操作』を発動したのだろう。


実験的に分かったことだが、『エネルギー操作』にはエネルギーを"変換"する能力が含まれている。つまり、その能力を使って、俺とナリルの運動エネルギーを周囲の"熱"エネルギーに変換したのだ。


運動エネルギーは質量×速さ×速さ÷2で表される。

運動エネルギーがゼロになるということは、俺たちの質量がゼロになった様子はなかったから、落下の速さがゼロになったということである。

落下速度がゼロ。すなわち落下していないってことは、俺たちが元々受けるはずだった衝撃が無くなることを意味する。だから無傷で着地できたのだ。


でも、『エネルギー操作』ではエネルギーを増減させることはできない。だから運動エネルギーが減らされた分のエネルギーは、変わりやすいエネルギーの代表たる熱エネルギーに変換されたわけだ。あの時めっちゃ空気が湿ってて温かったろ? なぜかというと、運動エネルギーが熱エネルギーに変換された結果、元から湿ってた庭の水分が蒸発、もしくは加熱されたために、あそこの空間が一瞬擬似的なサウナになっていたからだ。


これと同じ理屈で、今俺はこの森に不時着した。

今度は熱エネルギーが周りの霧を広範囲に蒸発させたため、結構な広さで霧が晴れたのだ。


さて、分かって頂けただろうか?



ぶっちゃけ、滅茶苦茶すごいギフトだと思う。

運動エネルギーをゼロにすれば、ほとんどの衝撃を無効化できるのだ。物理無効(無制限)、なんつって。

まあ、欠点はあるけどな。やりすぎると周囲の温度が上がりすぎて、最終的には生きていられないレベルの温度になる可能性があるのだ。それに、まだ気付いていないところがあるかもしれない。

けれど、それを含めたとしても強い。別の使い方も存在するため、弱いと言われる所以が全然見当たらない。


「使いこなせてるかって言うとまだまだな気もするけどな。熱と運動エネルギーぐらいしか扱えてないし。」


エネルギーと言うくらいなら、もっとたくさん使えるものがあるはずだ。


いやー、俺って今後が楽しみなやつだわ。





「んで……ここどこ?」


迷子になってなければな!


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


「うおぉおおぉぉ……腹減った……」


俺は数時間後、霧の中をあてもなく歩いていた。

霧がすんごい濃いから前が見えない。空も見えない。風も吹いていない。つまり方角が分かんない。風吹いても地理分かってないから意味ないけどな!

王宮出てすぐに街を出たから非常食とかは無い。だって王様が王都では寄り道するなって言うんだもん。飯買う暇なんて無かったよ……。


「ヤバイ、腹減りすぎて痛くなってきた……」


俺は空腹ゆえの痛みに、腹を抑えた。

だが実は、体力が減る感じはない。未だに歩き回れるほど元気なのだ。栄養失調で倒れそうな様子はないし、頭も割とすっきりしてる。

理由はなんとなく想像はつくがな。

なんかブラノヴァからじわじわ黒い塵出てるし。

いつの間に習得してたんだ俺……。グッジョブ!



「でも腹減って死にそう……。」


やば、クラクラしてきた。精神的なものはどうしようもない。打つ手なし。つまりもうダメ……。



ガッ

「アギャンッ!」


フラフラ歩いていたら、何か石みたいなものに足を引っ掛けて、顔から石畳っぽいものにダイブしてしまった。顔めっちゃ痛い。

うえっ、口に石入った。なんかザラザラヌメヌメしてるし……。あ、これコケ付きだ。


「おぇえええぇぇぇ……」


何もないはずの胃からリバース。

誰もいない森でよかったぜ。勇者じゃなくても、大の男のこんな姿見たくないだろ。



閑話休題。

何も無かったと自分に言い聞かせ、顔を上げて辺りを見渡した。

やっぱ霧が濃くて見えん。足元に、さっきまでの湿った土じゃなく、かなり綺麗に敷き詰められた石畳が見えるだけだ。

綺麗に、と言ってもコケが青々とたくさん生えてる。う゛、また気持ち悪くなってきた……。現代日本人はその辺に生えてるコケなんて食べられません。


ま、食べ物とか霧の切れ目とかが見つかったわけじゃないので、そのまままっすぐ石畳の上を進む。


「家に帰りたい……。赤○きつね食べたい……。」


ズオンッ

「え?」


突然妙な音が聞こえ、浮遊感に襲われる。

足を掬われた!?


「ギャンッ!」


俺は宙を舞い、後頭部から着地した。

な、なんだってんだよ……。ツッコミか? 別に元の世界の国民的インスタント麺の名前言ったっていいじゃないか。あ、もしやたぬき系過激派か!?


とっさのエネルギー変換で頭への衝撃は大分弱められたため、気を失うことは無かったが、痛いものは痛かった。

俺はこの痛みの元凶を見つけんと、俺が元々立っていた位置を睨む。


そこにあったのは、


「……剣?」


さっきまで存在しなかった、白銀の剣がそこにいきなり生えたかのように突き刺さっていた。

細く伸びた刀身。エストックに近いだろうか。突くことに特化した形状でありながら、斬ることも視野に入れた形だ。鍔の部分には赤い宝石の飾りがついている。魔力でも込められているのだろうか、少し妖しい光を放っている。


俺の足を掬い上げたのはこれだろう。大方俺の足の下からニョッキリ伸びてきたと思われる。俺の足を押し上げながらな。


「……」


剣に怒ってもしょうがないのは分かってる。けど、虫の居所が悪いんだ。さっきから鳴きまくってるしな。


という訳で八つ当たりです。

石畳にぶっ刺さってる銀剣の柄を引っ掴む。柄だけにな!

すると、剣についた宝石が、赤く鋭く光った。


え、なんかやばい感じ。


宝石の光はさらに強くなっていく。気付けば、俺の視界が徐々にクリアになっていっている。霧が全く無いかのように、周囲の様子がわかるようになっていく。ナリルと戦った時と似ている。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、それに第六感。それぞれが、光の強さに比例して鋭くなり、あらゆるものが知覚できるようになっていく。霧の中にあるものが幻視できるレベルで。

完全に霧の存在が無視できるレベルに到達すると、今度は細かなものが詳細に見えるようになっていく。石畳の隙間、そこから生えるコケの姿、そしてそのコケに付いた小さな生き物……


「うぉええぇぇぇ……」


気持ち悪! やっぱこんなの食えねぇよ!!

俺は想像を絶する気持ち悪さに再度のリバース。剣からも手を離す。


すると、再び霧によって俺の視界は閉ざされ、周囲の状況は全く分からなくなった。ついでに微生物も見えなくなった。


2度の転倒、2度のリバースに、俺は満身創痍。心は疲弊しきっていた。


「鑑定紙使うか……。」


王様からもらった鑑定紙を懐から取り出す。なんかやばそうだから『鑑定』してしまおうという考えだ。


そして『鑑定』結果がこちらだ。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


〇〇剣(せいじんけん)センシズ

-スキル:『感覚Lv.10』

-耐久性:E

-攻撃力:A+

-魔力伝導性:SS+


・『感覚』

-効果:自身と触れているものの視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚と第六感を超強化。

-習得条件:『鍛冶』、『付与』によって物質にごく稀につけられることがある。生命は不可能。

-習熟条件:『感覚』を使用し続ける。個人によって必要回数は変化。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


え、SS+ってナニ……? それに耐久性Eって……鋼鉄の剣より2つ下って想像できないんだが……。

ま、まあステータスについては考えないようにしよう。


今目の前にある剣の名前はセンシズ。英語で"感覚"って意味だな。スキルも『感覚』だし。

さっきの異常な知覚能力上昇はこのスキル『感覚』のせいだろう。効果を読む限りでは有用そうだが、余計な物まで見えるようになるという厄介なデメリットが存在するわけだ。

耐久性も考慮に入れるとブラノヴァに迫る微妙性能だな……。

俺自身が微妙だから武器も微妙なのが集まってくるわけですかね?


いや、スキルである以上制御が効くはずだ。なら、かなり有用な武器になる。さっきの小ちゃいのが見えちゃうやつだって、ポジティブに考えれば顕微鏡代わりになるわけだし。

魔力伝導性だってめちゃくちゃ高いってのはわかるしな!


「やっぱこういう剣は欲しくなるよな。」



俺は覚悟を決めて、もう一度センシズの柄に手を伸ばす。


赤い光がセンシズの宝石から発され、スキル『感覚』が発動する。どんどん鋭くなっていく感覚を、俺は抑えつけるイメージでスキルを支配しようとする。だが、感覚の鋭敏化は一向に止まる気配はない。もう霧を無視できるレベルになった。


「ぬぁあああ! はぇえええ! くっそぉおおお、言うこと聞けぇえええええっ!」


俺は意識を全部スキルを制御することに注ぎ込んだ。周囲の状況が完全に把握できるようになり、ついに拡大化が始まる。


「ふざけんなぁあああ!」


赤い光は俺の体を吹き飛ばせるんじゃないかと言うほどにまで強くなってきた。俺の目は嫌でも空気中の小さな生物を見つけてしまう。

俺は嫌悪感に負けそうになるが、必死に銀剣を掴み、それを自分のものにせんとする。

視力の超強化により、ついに原子分子まで見えるようになったところで、強化がストップした。


「や、やべえ。人間として見えちゃいけないものまで見える……。」


原子分子が裸眼で見える人間なんて人間じゃねえよ。

俺は着実に人間をやめていっています。



ガサッ


「っ!」


突然霧の中、物音が聞こえた。



センシズから手を離し、ブラノヴァを鞘から抜いて構える。

霧の中での戦闘が、幕を開けた。

第二の武器登場!

センシズは魔剣以上の平均性能ではありますが、耐久性が低すぎて普段は使えない。

Eは木の枝レベルです。

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