第6話 王都出発
ま、またもや長くなっただと……!?
「うぎゃあああ!」
「ゴア゛ァアアアッ!!」
俺は今、恐竜と追いかけっこをしている。
いや、本当はTレックスにそっくりなモンスターなんだけど。
どうしてこうなったかと言えば………
「グルルル……ガァアアアッ!」
あ、パックリいかれちゃいそうなので回想は後回しにしますね。
「ちくしょう、今日は厄日だぜ……。」
岩壁に進路をはばまれ進めなくなった。モンスターはようやく獲物を捕まえたと歓喜している……ように見える。爬虫類の表情なんて分かんねえよ。
「ちょっと食べるのはよしてくれませんかね……? ほら、俺美味しくないよ? こんなもやし食べても良いことないし……。」
「ガァアアアッ!」
ですよねー。もやしかどうかなんて関係ないですよねー。
「クッソォ……こんなおっかないので初戦闘とか、ほんとついてねぇ。」
俺は自分の不運を嘆きながら、腰の鞘から漆黒の剣、ブラノヴァを引き抜き、正眼に構える。
『剣心』のおかげで剣の振り方は分かるが、ぶっちゃけ素の俺じゃ絶対に傷は付けられない。ブラノヴァの切れ味も普通の鋼の剣くらいしかないしね。
普通に考えれば自殺行為だ。けれど、
「俺のギフト無しでの話ならな!」
ブラノヴァから黒い塵が勢いよく噴き出す。『剣心』による補正を存分に受けながら、俺は鋭く剣を振り抜いた。
「うぉらぁあああっ!」
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あの後、王宮での俺の扱いは非常に悪くなった。お付きのメイドはいなくなり、王族や大臣には会うこともなくなった。食事もランクダウンした。いや、今までのがめっちゃ豪華だったから、どちらかと言えば落ち着いたけどね。
時折掃除に訪れるメイドさんに話を聞くと、ほとんどロレンツ大臣による指示だったらしい。価値のない異世界人にかける金と手間は無いんだと。あいつ今度会ったらとっちめてやる。もやしに何ができるか分かんないけど。
異世界授業は1回で終了したから、ぶっちゃけ俺は暇を持て余していた。
暇すぎて、どさくさに紛れてちょろまかしてきたブラノヴァ持って素振りしてたよ。
翌日筋肉痛で動けなかったぜ。
その後、俺のギフトとブラノヴァの性能の確認を中心にして、王宮の庭で実験を行った。
実験するたんびに庭が黒くなるから、清掃のメイドさんに睨まれて困ったよ。本物の(王様の)殺気を知った俺にとっては、ウチの母ちゃんくらいの怖さしかなかったがな!
だいたいの能力確認が終わった時、王様に呼び出された。
久しぶりに会う王様は、初めて会った時の雰囲気と1ミリも変わっていなかった。つまり、ちょー怖かった。
「あの、な、何かご用でしょうか?」
「控えよ、異世界の者。偉大なるアーガレオン王国の王の御前であるぞ。無礼である」
俺が王様に要件を訪ねると、ロレンツ大臣が俺を叱りつけるように強い口調で俺の言葉を制した。
いや、初日はこれでいいって話だったでしょ。説明プリーズ。
「ロレンツ大臣、別に良い。レイは異世界の人間だ。それも王政ではない国のな。王に対する必要以上の礼儀を求めるのは間違いであろう」
「し、失礼いたしました……」
王様は気にしてないみたいだ。大臣が嫌がらせしたいだけだな。ほんとこいついつかシメてやる。
「此度、お前を呼んだのは他でもない。魔王の討伐に出発してもらおうと思ってな」
ああ、ついにこの時が来たかと思った。この城から追い出されて、不可能だって思われてる魔王の討伐に行かされる時が。
「行ってくれるか?」
「はい」
俺がこの城に戻ることは無い。こんなもやしの無価値な勇者……いや、異世界人が、魔王を倒すなんてありえないから。
「うむ、よく頷いてくれた」
王様は表情を変えずに、頷き返した。大臣は満足気に首を縦に振っている。
俺が玉座の間を出るため立ち上がろうとすると、王様は手を前に出し、
「待て、まだ話がある。ロレンツ大臣、少し席を外してくれるか?」
俺にその場に残るように言った。
「え」
「な、王よ!何故私が席を外さねば……」
「ロレンツ」
大臣が講義の声を上げるが、王様は語調を強めて一言言うことで、彼を制した。
「席を外せ」
「ぐっ、は、はい……」
ロレンツ大臣は俺を睨みながら、渋々玉座の間から出て行った。
「えっと、どういったご用件ですか?」
王様と周りに誰もいない状況で話したことは無い。それゆえ不安で、恐る恐る用件を尋ねた。
「お前は、魔王に勝つ気だな?」
一言、王様は俺に言った。
「城の皆が無理だと言う魔王の討伐を、お前は成功させる気なのであろう?」
もう一度、今度は詳しく王様は俺に問いかける。
その問いに、俺は、
「……はい、絶対に勝ちます」
イエスと答えた。
「…………………」
「……」
王様は俺の答えを聞いて沈黙する。
何も言うことが無いため、俺も黙る。
「……ククク」
「え?」
「ククク、クククァッアッハッハッハッ!」
「え、えっと、王様?」
突然笑い出した王様に戸惑いながら、俺は王様に問いかける。
「アッハッハッハ……ククク……。いやすまない。返答が予想通り過ぎてな。つい。ブハハッ。」
え、えぇ……。そんな理不尽な。俺的には最高にカッコよく決めてたはずなんですけど……。
軽く落ち込む俺をよそに、王様は話を進めた。
「今代の魔王に勝つ、か。確かにお前なら、やれるだろうな。」
「え? 王様は、俺の噂聞いてないんですか?」
俺は勇者なんかじゃなくて、クソ弱いただの異世界人だって噂を。
「もちろん耳にしておる。王宮内で余の地獄耳から逃れられるものは無い」
「じゃあ、なぜ、やれると思ってるんですか……?」
「なぜ、だと? そんなもの決まっておろう」
そう言って、王様は自信満々に理由を話した。
「お前が、リリーシアの召喚した勇者だからだ」
「えぇ……」
親バカかよ……。
「何を残念そうな顔をしておる。理由としては十分であろう」
王様は言ってやったという感じで、フンスと鼻息をたてながら、ドヤ顔で腕を組む。
いや、父親としては正解かもだけど、国王としてそれはどうなんですかね?
「い、いや〜、その〜……」
「それに、」
俺が講義の声を上げかけたとき、王様は言葉を重ねた。
「お前の目を見れば分かる。レイ、お前は絶対に諦めない男だ。己の信念を曲げることはなく、逆に信念のない者に希望を持たせられる。お前はそういう人間だ。だからこそ、余はお前ならやり遂げると信じた」
「王様……」
「お前は一瞬だけだが、リリーシアに自分への希望を持たせることができていた。それは、余にはできなかったことだ。王であるあまり、父として、娘に価値というものを教えられなかった余にはな……」
俺を信じると言った王様は、本当に悔しそうに、寂しそうに、自分の行いと娘の成長結果を嘆いていた。
「その嫉妬ゆえに、お前に敵愾心を抱いていた。あの時はすまなかった」
「いや、別に気にしてませんから……」
「リリーシアとの接吻の件はお前が悪いがな」
「いやそれ事故ですから!」
王様から突如濃密な殺気が溢れ出る。
あなたのその殺気はシャレにならないです!
王様は殺気を弱めて話を戻した。
「まあ、お前はリリーシアやナリル、ロレンツのように、狭い価値観に囚われているわけではない。だから、アーガレオン王国国王としてだけではなく、1人の父親としても、魔王を討伐し、皆の、リリーシアの価値観を変えることを、お前に頼みたい。それが言いたくて、ここに残ってもらった」
「……いい王様ですね。それに、父親としても」
「ハッハッハッ、余を誰だと心得ておる。 この広大かつ偉大な国、アーガレオン王国の国王、ガルディオ・ロイ・アーガレオンであるぞ? 余の目に間違いなどない」
王様は俺の言葉に満足そうに笑った。
「そうだな。この話は余の、お前への依頼としておこう。報酬は……」
国王直々の依頼、か。異世界初めて受ける頼まれごとがこんなすごいものだとは思わなかったな。
「よし、報酬はロレンツをクビにすることだな」
「えぇっ!?」
「なに、元からロレンツのやつはクビにするつもりだったのだ。あのような見識の狭い人間が大臣では、この国は立ち行かん。ましてや、お前が無価値だから追放すると吹聴しておったからな。此度がいい機会だ。お前が手柄を立てればあやつの面子は丸つぶれ、お役御免というわけだ。ガッハッハッハッハッ!」
「いや、そういう驚きじゃなくて……」
王様からの報酬ってさ、もっとさ、なんというか……
「娘はやらん」
「1番報酬っぽいやつが封じられた!?」
「フン、そんな簡単に余の娘が手に入ると思うな」
いや、魔王討伐って簡単じゃないと思うんですが。
「と、とりあえず、大臣がクビになったって俺嬉しくないんですけど……」
クビになるべきやつがクビになることが報酬ってのはおかしいと思います。
「む、そうか。それでは……よし、娘をやる以外なら、できる限りの望みを1つ叶えてやろう」
「え、それってなんでもってことですか……?」
「そうだ。娘をやる以外な」
こ、これはやばいんじゃね? 今めっちゃモチベ上がってきたんですけど。
「せ、誠心誠意取り組ませていただきます!」
「うむ、よろしく頼む」
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んで、餞別としてブラノヴァと"特別なアイテム"をもらって王都を出発。
王様に、行くといいと言われた方向にある森で野宿してたら、モンスターに襲われて冒頭のシーン。
窮鼠猫を噛むと言わんばかりに俺はギフトを使って不滅の魔剣を、黒塵とともに振り抜いた。
しかし、鋭く振られた黒剣は空振りし、俺は天高く吹き飛ばされていた。
なんでかと言うと、Tレックスもどきの立ってた地面がいきなり隆起して、ぶっとい柱になったからだ。憎っくき爬虫類モンスターがどうなったかは知らないが、俺は剣を振り抜いた後の隙だらけの体に衝撃波をまともに食らって、空を飛んだ。
「うぎゃあああ!」
「あ、すみませぇぇええんっ!」
絶叫しながら空中飛行する中、誰かの謝る声が聞こえた気がした。
ま、それどころじゃないけどね!
「ヤバイヤバイヤバイ! このままじゃ死ぬ! 王都出たばっかりなのにもう死ぬのはアカンて!!」
叫びに謎の関西弁が混じるが、ここは焦らずに対処法を考えなければ。
なんか霧だらけのあの森に落ちる前に!
「えっと、まだあれは検証途中だから失敗する可能性があるし……。ええい、こうなったらもう一回あの時のをやるしかねぇ!」
俺は覚悟を決め、タイミングを計って足が下になるよう体を思いっきり前に振る。
自分の力の存在を確認するように、全身の感覚を研ぎ澄ます。
そして俺は深い霧の中に突っ込む。
「おりゃあああっ! 働け『エネルギー操作』ぁあああっっ!!」
即座に俺のギフト、『エネルギー操作』を発動。
地面に衝突する際の運動エネルギーを、全て熱エネルギーに変換して放出する!
衝突の瞬間、ジュワッという音とともに、周りの霧が晴れた。
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結構広い範囲で霧がなくなったな。俺の力、『エネルギー操作』にある、"変換"を行なった結果として、半径5メートルくらいで円形の広場が白霧の中にできたみたいになっている。
この現象を説明するには、まず俺のギフトについて知ってもらう必要がある。
そこで取り出しましたるは何か書かれた羊皮紙!
書かれている内容はというと、
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甚堂黎
25歳♂
身長 175cm
体重 65kg
筋力:E
体力:D
魔力:C
スキル:『剣心Lv.1』『剣術Lv.1』
・ギフト『エネルギー操作』保有
・『エネルギー操作』
エネルギーを操作できる。エネルギーを増減させることは不可能。
・『剣心』
-効果:剣の振り方や、軌道が分かるようになる。
-習得条件:剣を振り続けること。個人の才能で必要回数は変化。
-習熟条件:物を剣で効果的に斬り続けること。個人の才能で必要回数は変化。
・『剣術』
-効果:剣を使った特殊な技が使えるようになる。Lv.=使用可能技数。個人によって使える技が異なる。
-習得条件:スキル『剣心』の習得。
-習熟条件:スキル『剣心』のレベルアップ。
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俺を『鑑定』した結果でした。
これは王様からもらった特別なアイテムの1つで、"鑑定紙"という代物だ。
使い切りのもので、使おうと考えながらこの紙を鑑定したい物にあてると、それの『鑑定』結果がわかるという便利な物だ。
注目して欲しいのが『エネルギー操作』のところ。かなり曖昧な説明だろう?
そこで俺は、"エネルギー"というものについて考えて直し、実験の結果からある結論に至った。
それは、このギフトは物理学に度々登場する"エネルギー"なのではないか、ということだ。
レイくんの『鑑定』結果公開。
ステータスはCで一般人レベルです。
レイくんによる解説は次話に続く。
答えは、一応出しました……!
「ギフト『エネルギー操作』で運動エネルギーを熱エネルギーに変換した」
です。
そこらへんの解説も次話でレイくんがやってくれるはず……。