表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

第3話 異世界授業(前編)

家の大掃除で遅くなりました。

この時期は晴れてればワックスが乾きやすくていいですよね。

1話でまとめるつもりだったけれど、2話に分割しました。

 召喚された翌日。俺はナリルにされるがままになっていた。なんでもう呼び捨てなのかって?ナリルに泣きつかれたからだ。


「リリーシア様が良くてなんで私がダメなんですかぁあああっ!」


 んなこと言われたら呼び捨てタメ口にするしかないでしょ。話聞いたら結構歳近いらしいし。リリ? もちろん年下でしたとも。

 ボブカットの黒髪に垂れた感じの黒目、ヴィクトリアンメイドタイプのメイド服で、ふんわりとした雰囲気をまといながらもかなり気がきくようだ。だからリリ達王族の方々にはとても信用されているらしい。

 黒髪黒目は日本人を連想させるから、俺は内心ホッとしてたりする。リリとか王様とか西洋系の見た目であんまり落ち着かなかったからな。今後慣れなきゃだけど。

 んで、そのナリルに今寝癖を直されているのだ。俺の髪はガキのころからすごい癖っ毛で、特に朝起きた後がやばい。今朝もひどかった。

 ナリルが俺を朝のお世話(王宮では普通のことらしい)のため部屋にやってきて、俺の寝癖を見るや否や、


「私にお任せください!」


 というわけでナリルがベッドの縁に座る俺の後ろに膝立ちし、俺の寝癖と必死に戦っている。


「あ、は、はぁ。あひぃ、ダメです。こ、これ……やばいです……。あっ、(櫛が)すごい食い込んでるぅっ。う、あ」


 なんかすごいギリギリの声出してんだけど! なんで俺の髪セットしてるだけなのにそんな声出してるんですか、ナリルさん。

 まあ、俺の癖っ毛やばいけどな。俺は毎朝1時間、ドライヤーと櫛を両手に格闘してから大学に行っている。


「はふぅ。あ、うんっ」


 声は我慢しよう。昨日みたいに騎士さんがやってきて誤解されても、なんとか頑張るよ。けどさ、後頭部にむっちゃ柔らかいものが当たってるんですけど! なんだこれ!? これがアヴァロンか!!?

 ナリルが動くたびにふにゅんふにゅんいって俺の朝のまどろんでいた意識を一気に覚醒させる。

 ま、まずい、俺のビッグサンが! お前が出てきたら俺が死ぬ、社会的に!!


「何やってるのよナリル!」


 俺が男の本能と格闘しているところに、お姫様、リリが部屋の扉をバァンと開けて駆け込んできた。

 た、助かった……。


「何って、胸を押し付けているだけですが?」

「ワザとかよ!」


 言うに言い出せなかった俺の純情を返せ!


(いいぞナリル! そのままその男をたらし込め! リリーシアに手を出させるな!)


 王様もドアの向こうからちょっと顔出して小声でなんか言ってるんだけど……。大柄な筋肉ヒゲジジイがドアからこそっと覗いてるのは、なかなかにシュールだ。


「ナリル、レイは私の勇者よ。さっさとレイから離れなさい! これは王女としてのメイドへの命令です」


 あのー、リリさん? 後ろの王様から昨日の比じゃない殺気が膨れ上がってるんですが……。誰も気づかないのかよ。


「ちっ」


 ねえ、この(メイド)王女様に舌打ちしたよ!? これ大丈夫なのか?


「命令されれば仕方ありません。あ、レイ様。寝癖は治っておりますので、ご安心ください。それと、何かあれば何なりと。夜のお相手もいたしますよ?」

「ナリル!」

(そうだ! イケイケドンドンだナリル!)


 もうやだ、おうち帰る……。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


 ゆるい修羅場になってたところをロレンツ大臣が仲裁してくれ、晴れて俺は静かに朝食を取れた。

 うん、静かだった。もうね、ナリルとリリの間で見えない火花が散ってるくらい。気が休まらないよ……。


「さて、朝食のあとはレイ様へ、この世界についての授業をしたいと思います。私についてきていただけますか?」

「あ、はい」


 この場から抜け出せるのならどこへでも行きます。


「私も行くわ。『鑑定』が必要でしょ?」

「さすがリリーシア姫様。レイ様の能力の把握には、確かに『鑑定』が必要でございます。姫様にやっていただけるのなら、とても助かります」


 ん? 『鑑定』? なんか聞き慣れた言葉だな……。主にネット小説で。

 これはチートスキルってやつでは!?

 次の展開に期待ですわー。


「では私も参ります。レイ様の専属メイドに任命されましたから」

「うむ、ロレンツ大臣だけでは(リリーシアを守るには)心許ない。それに余は公務がある。ナリル、頼んだぞ」


 アー、タノシミダナー……。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––



「それでは、まずはこの世界の常識として、"ギフト"と"スキル"、そして"魔法"について説明いたします」


 俺たちは、ロレンツ大臣に連れられて、王宮の一角の黒板がある部屋に来ていた。


 つ、ついに魔法について知れるのか……。これは興奮するな!


「では、まずは魔法についてです。魔法とは、簡単に言えば学問です」

「学問?」

「はい。魔法は、魔力を持つなら誰でも、学べば学ぶほど、知れば知るほど、やれることが増えていきます。例えば火を起こしたり、風を吹かせたり、空を飛んだり、はたまた地を割ったり」


 す、すげえ……。科学と同じくらい魔法が実用化されてるってことか! でも、魔力を持っていなければダメなのか?


「魔法を自力で発動させるには、自前の"魔力"が必要です。"魔素"を体内で燃やすことで魔力を得ることができます。この魔力で命は生き、魔法を行使できるのです」


 ロレンツ大臣が黒板に図を描きながら、魔素と魔力、魔法の関係について説明する。

 大臣の説明を要約すると、


 魔素→魔力というエネルギーの原料

 魔力→いろいろ使えるエネルギー

 魔法→魔力を素にしてはたらく自然現象


 という感じだ。魔素は空気中のあらゆるところに存在するらしく、それを取り込むことで魔力を持つ生命体は生命を維持するそうだ。魔力を持たない者は、どうやって生きているのかは分かっていないらしい。


「まあ、魔力を持たないなんていう人種は淘汰されるべきですので、気にする必要はありません」


 ロレンツ大臣はそう言って、魔力を持たないという人のことはさらっと流してしまった。なんか、今の言葉は嫌な感じだな。リリとナリルを見やると、2人も苦い顔をしている。


「さて、魔法は魔力と知識があれば発動させることができます。つまり、ギフトやスキルという『才能』に恵まれなくとも、努力で何とかなるものなのです。リリーシア姫様のようにね」


 大臣はにやりと笑ってリリの方を見る。リリは苦虫を噛んだような辛い顔をしている。ナリルもどことなく、悲しそうな雰囲気だ。もしかして……


「姫様。魔法を実演なさってはどうでしょうか? レイ様に貴女様お得意の魔法を」

「……分かったわ」


 大臣がリリにデモンストレーションの提案をし、リリはそれを受けた。


「レイ、しっかり見ててね」


 リリが俺に声をかけて、構えをとった。右の(てのひら)を前に突き出すように構え、左手を右腕に添えた。瞬間、リリの周りの空気が少し明るくなり、青白い光の粒子が舞い始めた。


『我、光と時を知る者。

 汝、時を手繰る者。

 汝、我が言霊に応えよ。

 汝、我が光を以て、

 時の行く先を示し給え』


 光粒の動きが激しくなり、徐々に彼女の突き出した掌に集まっていく。


 彼女が言葉を紡ぐたびに、集まった光は、何らかの文字列にも見える光の帯を作り出していく。

 帯は、彼女の手を中心に渦を巻くように伸びていく。


『タイム・リード』


 彼女が詠唱を終えた。

 すると渦が収束し、掌に、小さな金色の光の粒を作った。


「お父様の10分後を見せて」


 構えを解いたリリが、普通の口調で粒に話かけるように言った。

 粒はうなずくかのように震えて、金色の糸に変わっていく。

 糸は段々と人の形を編んでいき、なんと王様の形になった。


「お、王様?」


 金色の王様はうろうろしていて落ち着かなさそうだ。


「またリリーシア様を心配していらっしゃるのですか……。いつになった姫様から関心が逸れるのやら。公務に支障が出ているというのに……」

「えっと、これってもしかして……」


 俺は、リリの詠唱からある推測にいたり、尋ねる。


「うん、これは10分後のお父様の姿を魔法で再現したもの。さっき私は魔力を使って、時間を参照、光に干渉してこの魔法を発動させたの。それが『タイム・リード』。未来視の魔法の一種よ」

「すげぇえええっ! リリすげぇ!!」

「えっ、あ、ありがとう……。そんなに特別な魔法じゃないんだけど……」


 俺はあまりの驚きに、すげぇとしか言えなかった。だって未来視だぜ!? 未来が見えるなんて現代科学じゃ不可能だぞ! やべぇえええ! 思わずスタンディングオベーションしてしまう。


「レイ様の故郷では、魔法は発達していないんですね。そういえば、過去の勇者様たちも魔法を見て驚いたって聞いたことがあります」


 ナリル曰く、俺以外に転移してきた先輩たちも同じ反応だったようだ。うん、無理はない。詠唱があそこまでカッコいいとはな。これはテンション上がってきたああああ! 早く魔法使いてえ!!

 俺に魔力があるかは疑問だがな!


「さて、興奮なさっているところ申し訳ありませんが、授業の続きです」

「あ、はい。すみません……」


 大臣にたしなめられ、俺は席に戻る。


「では気を取り直して。実は昨日レイ様とナリルが窓から落下した際、無傷だったのは魔法が原因なのです。この王宮にはいたるところに重力操作の魔法陣が敷かれていて、これは落下するものの落下速度を減少させる効果があります。結構物が落ちることが多いので、王宮はそういう工夫がなされているのです」


 え゛、まじか。じゃあ俺が助けに入らなくてもナリルは無事だったってことか……。カッコワリィ……。


「「あ、ロレ……」」

「ここで一旦魔法は終わりにしまして、今度は"スキル"についてです」


 ナリルとリリが何か言いかけたが、大臣は聞こえていないのか、次の話に移った。


「スキルは魔法と違って、才能の要素を多分に含んでいます。ですがギフトほどではないので、努力次第では修得が可能となっています」


 へー、つまりあれか? 個人で修得するのに必要な努力量が違うとかか?


「スキルとは、個々の体に刻まれた(・・・・・・)魔法です。基本的に、条件に見合うある一定の行動を行い続ければ、それに関するスキルを習得します。生まれ持って修得しているケースもありますが、これは大抵は人間ではなく、動物や魔獣、特殊な鉱石等に当てはまります。そういうスキルを持った鉱石を使って武器を作れば、そのスキルを持った武器が出来上がったりします。もちろん、それ相応の技術が必要ですがね」

「魔獣?」

「あ、魔獣については後日説明いたしますので、今は人に害なす怪物だと思っていてください」


 ちょっと気になる単語が出てきたが、それは後日のようだ。まあ、今すぐ王宮を出るわけじゃないし、また今度でいいか。


「さて、スキルは魔法と同様にあらゆる事象を起こすことができます。ただしこれはギフトも同じですが、魔法と違って魔力をほとんど必要としません。ほとんど、というのは、一部魔力を必要とするスキルが存在するため、言葉を選ばさせていただきました。しかし、ほとんどのものは体力を使います」


 ふんふん、なんかゲームみたいだな。スキルはスタミナで、魔法はMPを消費する、って感じで。


「燃費の悪いスキルだと、常人が一度使っただけで、全力疾走したかのような疲労感を生ずるものもあります」


 壁抜けとかかな? あれは辛そうだった。俺はあんなの使いたくはないね。


「一般的なスキルとしては、心系、術系でしょうか。武器の扱い方が分かるようになり、特殊な技を使えるようになるスキルです。では、今から修得してみましょうか。武器庫が近くにありますので、参りましょうか」


 え? まじ? 今からスキルがゲットできんの? ぃやったあああ!

 俺は喜び勇んでロレンツ大臣の後ろをついていった。


 そして、俺たちは鬱蒼と立ち並ぶ剣や槍、杖などの武器の森の前にやってきた。


「どうぞ好きな物を選んでください」

「え、好きに選んでいいんですか?」

「ええもちろんです。国宝や聖武具等はここにはありませんからご心配なく。魔剣はありますけれど」

「魔剣!?」


 マジか! これは見つけるしかない! 魔剣なんて、廚二心をくすぐるじゃないか!

 俺は必死になって武器の森を駆けた。途中、リリが呆れた目で見てた気がするが、そこは気にしない。まずは魔剣だ魔剣。




 そして、俺は武器庫の奥の方に来ていた。

 ここ広いな……、高校の体育館位あるんじゃないか? 多分城の敷地面積的に、ここ以外にもあるだろうし……。この国の実力のすごさがうかがえるな。


 自分が召喚された場所の力の一端を感じ、ちょっと尻込みしていたら、気になるものが目に入った。


「ん? なんだこれ」


 埃をかぶった、真っ黒なひと振りの剣。刃の中心は紫がかっている。埃を払うと、刃元付近に文字が彫ってあった。


「『不滅の魔剣"ブラノヴァ"』……?」

おや?…ロレンツ大臣のようすが…


さらに魔法&魔剣登場です。作者のネーミングセンスは置いておいて、魔剣ってかっこいいですよね。


あと、まことに勝手ながら、2話分割になったためヒントは3話と4話で、答え合わせは5話になります。

申し訳ありません…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ