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第10話 塵の正体

さてさて、この話でまた一つ謎が明かされます。

割と謎に思ってもらえていたかは謎ですが……。

「くっそぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 俺は森の中、天を仰ぎ吠えていた。


「なんで勝てねぇんだぁああああああああああああっ!!!」

「指摘する点ならたくさんあるのだが……」


 午前の特訓にてまたも気絶し、回復した俺は、師匠とともに森でランチをとっていた。地べたへ直に座り、キア印の吉備団子(のようなもの)を食べている。すっごく日本茶がほしい。


「言っても伝わらない……ですか?」

「そうだ。まず、俺とレイでは戦闘スタイルからして異なっている。俺は『暗術』、『拳術』が中心だが、レイは『剣術』にギフトとそのセイジン剣のスキルを合わせて戦っているだろう? スタイルが違えば、注意する点も違う。『暗術』で戦う場合は相手に攻撃のタイミングを悟られないことが重要だが、『剣術』はいかに速く剣を振り、刃を正確に突き立てられるかが問題だ。

 それと、スキルやギフトへの理解度の違いも大きい。ギフトは人によって千差万別。ギフトをいかにうまく運用できているかが、戦闘を大きく左右するからな。」

「なるほど……」


 まさしく十人十色。人によっていろいろ違うものだ。自分と違うものに口出ししても、空回りや無駄になる可能性が大いにある。


 だが、このままだと俺は何もできないままなのではないか……?



「…………今日はここまでにしておくか」

「えっ?」

「まずは戦いというものに慣れるべきだと思い実戦形式で進めていたが、さすがあの人(・・・)が認めただけのことはある。慣れる必要は無いみたいだ。


 だから、今後は自分の"戦い方"を確立するといい。思いついたら俺で試せ。もちろん、それで俺に一撃あてられればラキアを説得してやる。胸はいくらでも貸してやるさ」

「師匠……」


 さすが師匠、器量がでかいぜ。俺も見習わなくちゃな。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


「というわけで、俺の戦闘スタイルの開発に取り掛かろうと思う」

「なぜその相談相手が僕なのか訊いてもいいかな!? 今夕飯の仕込み中なんだけど!」


 師匠に直接相談するのは間違っている気がするので、キアとともに考えようと俺は彼の仕事場――台所にお邪魔していた。


「だってキアってさ、恐竜を一撃で仕留められるくらい強いだろ?」

「え、なんでそんなこと知ってるの?」


 つい先日、俺が恐竜もどきに追いかけられる→追いつめられる→吹き飛ばされるという不幸にあったのを覚えているだろうか。あのとき恐竜ごと俺を吹き飛ばした現象は、キアの魔法によるものだと俺はにらんでいる。


「『ごめんなさい!』って誤ってた声が、キアのだった気がしてな。そんで、キアが濃霧の森で俺を助けてくれたタイミング的に、あの魔法はキアによるものだったっていう結論が出たんだ」

「あー、ばれてたかぁ……」


 そんなすごい魔法が使えるキアだからこそ、俺はよいアイディアが得られるんじゃないかと相談することにしたのだ。


「というわけでキア先生! なにとぞご指導を」

「先生って言われるのは照れるね……じゃあ仕込み終わるまで待ってて」

「アラホラサッサー。ありがとな。」


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


「…………それじゃあ、まず訊きたいことがあるんだ」

「なんだ?」

「前から気になってたんだけど、戦ってるときに出てるあの黒い霧(・・・)みたいなのは、何?」


 キアから素朴な疑問が飛んできた。まあ確かに、はたから見てれば剣から変な霧が出てるみたいで不思議に思うよな。


「説明が難しいんだが……簡潔に言うと、あれもブラノヴァ(・・・・・・・・)だ」

「えっ!?」


 もちろんブラノヴァにはあんな細かい塵を作る能力はない。

 だが、『エネルギー操作』を使った結果、あの大量の塵が発生しているのだ。


「まず、『エネルギー操作』にはエネルギーを新たに生み出す力はない。これはわかってるな?」

「うん。"操作系"って呼ばれてるギフトは"生成"とかそういう類の能力が備わってないって聞いてるよ。だから"最弱のギフト"って言われてるんだ」

「それは初耳だな……でもぶっちゃけ弱いなんてことはないと思うぞ?」


 本当に最弱なら俺はここで師匠に殺されてる。なんだかんだ言ってかなり『エネルギー操作』に頼ってるからな。


「まあ、そのことはおいておこう。前提として言っただけだし」

「それで? 生み出せないからどうしたの?」

「ああ、そこで俺はな、どこかからエネルギーを持ってこれないか(・・・・・・・・)って考えたのさ」

「エネルギーを、持ってくる(・・・・・)?」


「そう、"持ってくる"んだ。そして目を付けたのが、ブラノヴァのスキル『不滅』と『不変』。ブラノヴァはこの2つのスキルで、無限のエネルギーをその身に秘めているんだ」




 物体が存在するのにはエネルギーが必要である。

 かなり漠然としていてわかりづらいだろうが、そこにある(・・・・・)ということには莫大なエネルギーが必要なのだ。



 例として挙げられるのは2つ。

 まずは食品。カロリー表示を見てもらえばわかるが、何百kcal(キロカロリー)と書かれている。1calという単位の定義は、"1g(グラム)の水を1℃上昇させるのに必要なエネルギーの量"だ。つまり、400kcalとは、1kg(キログラム)の水を400℃上昇させられるのだ。もちろん蒸発とかでエネルギーは消耗されるが。

 もしガスコンロで水を400℃加熱するとしたら、どれだけ時間がかかるだろうか。


 次に核反応。特に核分裂がわかりやすいな。ウランの核分裂反応を例にとると、ウランの核分裂反応で放出されるエネルギーはウラン原子一つあたり、約200MeV(メガエレクトロンボルト)。これは、ウラン原子が分裂してイットリウムとヨウ素になったときの余剰エネルギーだ。J(ジュール)に換算すると3.2×10^(-11)Jとなる。さらに、1gのウランの中には2.56×10^(21)個の原子核が含まれている。この1gのウランが全て核分裂を起こすと、3.2×10^(-11)×2.56×10^(21)=8.2×10^(10)。つまり、およそ8.2×10^(10)J、カロリー換算で約195980000kcalのエネルギーが生まれる事になるのだ。

 食品なんて比較にならないほどのエネルギー量だ。やはり核兵器とは根絶されて当然の代物だな。


 参考までに、俺とナリルが落下した時のエネルギー量をいうと、おおよその計算では、約10kcalだ。

 びっくりだろ? 人を殺す、物を壊すためのエネルギーは少量で済む。しかし、存在する、生み出すためのエネルギーは非常に膨大な量なのだ。




 さて、じつはこの存在するためのエネルギー、これも『エネルギー操作』で操作できることが王宮での実験でわかった。

 いや、本当のことをいうと、ナリルとの戦闘の時にはすでに俺はこの操作を行っていた。


 無意識のうちに。



「あの黒い()は、ブラノヴァという"存在"を分解することによって生み出された、いわゆる残りカスだ。ブラノヴァから存在するためのエネルギーを奪えば、ブラノヴァという存在は崩壊する。しかし、『不滅』のおかげでブラノヴァ自体は消滅することがないし、『不変』の効果でかさ(・・)が減ってもすぐに元に戻る。結果として、存在するためのエネルギーを無限(・・)に"持ってくる"ことに成功したんだ。残りカスも無限に発生するけどな」


 あの時、多分俺は何も考えずにギフトを発動させ、手当たり次第にエネルギーを奪おうとしていた。そして奇跡的に、不滅の存在からエネルギーを無限に取り出すという現象を引き起こした。

 もし、持っていたのがブラノヴァではなく普通の剣だったりしたら、剣は跡形もなく消滅して、あの片付いた部屋ももっと片付いていただろう。


「んで、その無限に持ってこれるエネルギーを使って『剣心』、『剣術』、『感覚』を常時並行して発動したり、自然治癒のブーストで一気に回復したり、腹を膨れさせたりしてたんだ」

「ちょ、ちょっと待って、それってかなりすごいことじゃ…………」

「かなりすごいどころかめちゃくちゃすごいことよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「ラ、ラキア!?」


 キアが何か言おうとしたとき、ラキアがかなり興奮した様子で俺たちの会話に割って入ってきた。


「え、えと……どうした?」

「どうしたもこうしたもないって! レイ、あなたは今、永久機関(・・・・)を完成させたって言ってるのよ!?」

「お、おう確かにそうだが……この世界ならみんなできるんじゃないのか?」


 『エネルギー操作』に、不滅の魔剣ブラノヴァ。どちらも無価値だ最弱だと蔑まれたものだ。発想次第でみんなこんなことができるんじゃないかと思ってたんだけど……


「「できるわけないでしょっ!!」」


 そういうわけではないようです。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


 キッチンで一悶着したあと、俺たちはリビングにて、師匠を含めた4人での話し合いと洒落込んでいた。

 ちなみに、ここ『ラキアの工房』では、すべての施設が木の上にある。家主であるラキアがダークエルフであるため、こういうような作りになっているそうだ。

 リビングは丸テーブル一つを木の椅子が囲む質素なコーディネイトだ。壁に四角い穴が空いている感じで窓がある。窓からの見晴らしはよく、下を見れば真っ逆さまに落ちる様子が容易にイメージできる。怖い。


 テーブルには、俺の対面にラキア、その左右にキアと師匠が席についている。

 ラキアは丸メガネのおじ様を彷彿とさせる腕の組み方で座っている。SOUND ONLYの字が幻視できそうだ。


「さて、レイには今から魔法を覚えてもらうわ」

「いやちょっと待て! 魔法は師匠と勝負がついてからって……」

「うるさい、事情が変わったのよ! もともと私が出した条件なんだから私が変えたって問題ないでしょ! うだうだ言うなっ!!」


 お、横暴な……。


「レイ、諦めろ。ラキアはこういう奴だ……」


 うおっ、師匠が哀愁漂う背中をしている……つまりいつの時代も、どこの世界でも男は女に振り回される運命ってことですか…………。男って悲しい…………。


「今回の私の研究テーマが決まったわ。テーマは『異世界の理論を用いた新たなエネルギー資源の発見』! さっきレイが興味深い話をしてたから、その理論を元に新しい魔法等々を開発するの! どう、面白そうじゃない?」

「すごく面白そうだよラキア!」


 ラキアのペースで話がどんどん進んで行く。キアもなんかノリノリだし……魔法の研究とか好きなのか……?


「でも、私たちの研究に参加させるには、レイが魔法について知らなさすぎる。だからレイには今から大急ぎで魔法を理解してもらうわよ!」

「ラジャーッ!」

「え、ちょ待てお前ら! のわあああああああっ!!」


 ラキアとキアのコンビに両腕を掴まれ、引きずられながら俺はリビングを後にした。


「助けてくれ師匠ぉぉぉおおお!」

「レイ、冥福を祈るぞ……」

というわけでレイ君は永久機関を完成させていました。

永久機関……人類の夢ですよね。


ひとつ注意してもらいたいのは、「存在するためのエネルギー」ですが、これは大雑把な表現でして、これは実際には、食品だったら体内での燃焼によるエネルギーですし、ウランの核分裂だったらウランの陽子と中性子の結合エネルギーです。

この話では大きなくくりとして、「存在するためのエネルギー」という表現を使わさせていただきました。


紛らわしいと感じた方にはお詫び申し上げます。


さて、次回はこのブラノヴァエネルギー操作コンボ(仮)をもう少し詳しくお話しします。

それではまた次回ノシ

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