第9話 開戦の予兆
どうもお久しぶりです。
諸事情により、更新速度がガタ落ちしました。
今後の遅筆となるかもしれませんが、よろしくお願いしますm(_ _)m
(随分と身勝手だな!というツッコミはなしの方向でお願いします……。私もそう思ってますので……。)
「はあ……」
「リリ様、ため息ばかりついていては幸せが逃げていきますよ」
ため息をつく私をナリルがたしなめた。
「だって……はぁ……」
ため息をつくほかないだろう。
――もうすぐ無族と魔族の大きな戦争が始まる――
そんな噂が流れているのだから。
この国の伝統で、戦時中は王以外の王族は各戦線の先頭に立って進軍しなければいけない。
しかも、私は最前線。
伝統を守ることしか頭にない大臣たちは、王位継承権が最も弱い者を最前線に立たせるということで、戦争があれば、私を最前線に立たせると決定している。
この、特別強い力を持ったわけではない、私を。
「"王は軍の指揮権を持つことは許されない。軍事は全国民の意思によって決定される。"建国当時からあるこの決まりのせいで、陛下も全くこの事態に手を出すことができませんからね。確かにため息をつきたくなる気持ちはわかります。ですが……」
「いいのよナリル。元から私に幸運なんてなかったんだから。ギフトは役立たずどころか、味方に被害を与えるようなものだし。勇者召喚だって……失敗……しちゃったんだし」
「リリ様、無理に言わなくていいんですよ? 今この部屋には私たち二人しかいないんですから」
無理をしているつもりはない。けれど、ナリルには、私がつらそうに見えたのだろうか。
「レイ様を無価値だと、呼びたくはないんでしょう?」
あの日、彼を無価値と言ったとき、私の胸は張り裂けそうだった。
彼のギフトが"操作系"という、最弱の部類だとわかったことも原因としてはある。
しかし、最もつらかったのは、何も知らない、何もわからない、けれどとても優しい彼に、侮蔑の言葉を投げつけたことだ。
無価値、無意味と蔑まれる痛みを、私はわかっているはずなのに、レイを無価値だと罵った。
今思い出しても、胸が苦しくなる。
彼が王宮を出ていく少し前まで、庭で魔剣を振る彼の姿を見るたび、彼に謝りたいと、何度も思った。
けれども、そうするわけにはいかなかった。だって……
「だって、強くない彼を傷つけないためには、こうするしかないでしょ?」
「リリ様……」
「ナリルもあの時はありがとうね。私の話に合わせてくれて。あなたが乗ってくれなきゃ、彼も騙されてくれなかっただろうし」
「リリ様だけに嫌われ役を押し付けるなんてできませんよ!」
彼が戦争において私の隣で戦うことになれば、彼は無事ではすまないだろう。手を抜いていたナリルにぎりぎり勝てた程度では、魔族との戦争、しかも最も危険なその最前線を無事に切り抜けることは到底できない。
だから、私たちが拒絶することでレイを戦場から遠ざけた。その後あのロレンツと2人きりにしてしまったのは失敗したと思ったが、幸い彼はそこまでショックを受けていないようだった。そのあとお父様に掛け合って、なんとか彼を王宮から追い出すことができたのだ。
「お前が心配するような男ではないと思うがな。 あやつよりもお前の方が心配だ」なんてお父様は彼を軽く言ってたけど。早く子離れしてくれないかな……。
「まあ、そこは解決したから。目下のところの問題は私たちよね。ああ……どうしよ……」
「どうすると言われましても…………強くなるしかない、と思います」
確かに、強くなるほかない。
その強さも、ただ生き残れる程度じゃだめだ。アーガレオン王族として、大きな戦果を残さなければならない。そうでなければ王族が戦線に立つ理由がないからだ。
長い歴史のせいで伝統の解釈もさまざまだが、強い力をもった王族が皆の前に立ち、味方を鼓舞するためというのがもっとも有力な説である。
ならば、王族は華々しい戦いを見せなければならない。
だから、
「特訓、か…………」
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「ぬぉおおおああああっ!?」
俺は今、林の中を全力で駆け抜けている。俺のすぐ後ろから次々と木や土、岩が裂ける音、割れる音が聞こえる。
「し、死ぬぅうううううううううう!!」
「この程度で死なれては困るな」
頭上から男の声が聞こえるが、上を見ても誰もいないだろう。というか、ここで上を向いたらその隙をついて瞬殺される。
相手の姿が見えない上に、『感覚』とギフトを使った無理やりな回避でようやく躱せるような速い攻撃。こんなの無理ゲーだろ。それを"この程度"とかほんと異世界ってやばいわ……
「くっそぉおおお!」
俺は走るのをやめて、ブラノヴァを正眼に構える。俺が念じると、ブラノヴァから黒い塵が一気に噴き出した。
そして、その塵を自分の周りにまんべんなく展開する。
また攻撃が来れば、それが通るところだけ塵が散るはずだ。そうすれば、『感覚』で察知するよりも早く動ける。それが来た方向にでかい一発をお見舞いすれば、この攻撃の主に剣が届くはず!
刹那、塵の幕が裂ける。空気を裂きながら強烈な速さをもった何かが俺に迫る。
「止まれ!」
即座に俺はギフトを発動。迫る物体の運動エネルギーを奪う。
斬撃を生み出していた物は、そこで静止する。
そして、
「『ブーステッドスラッシュ』!」
奪ったエネルギーを乗せて、斬撃の来た方向へスキルによる剣技を放つ。
塵による黒が散り、再び視界が開ける。
しかし、黒き刃は空を切った。
「やばっ!」
「攻撃が来た方向に剣を振っても、そこに攻撃してきた者がいるとは限らないぞ」
とっさに、俺は振り切った剣と腕を『エネルギー操作』で体のそばに戻す。
黒塵を撒き散らしながらブラノヴァが手元に戻り、俺は背後に現れた男を振り向きざまに斬る。
しかし、男の方が早かった。
「『螺旋拘束』」
男がスキル『暗術』による、拘束用の技を放つ。
瞬間、俺の足元から螺旋を描きながら縄のようなものが現れ、俺の体に巻きついてくる。
ほんの数秒で、俺は縄でぐるぐる巻き――つまり簀巻き――にされていた。
「詰みだ」
余裕の表情で、男が手を俺の顔にかざす。
ここで俺の意識は途切れた。
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「ぐあーーーーーーっ! やっぱ師匠強すぎるっ!! 全っ然勝てない!」
「レイ、さすがにここに来て5日で、召喚されたばかりの君がエネロアさんに勝てるわけないでしょ」
「キア、俺は純粋に悔しいんだよ! 手も足もでないで負ける悔しさがお前にはわからないのか!?」
俺、レイは、ここ「ラキアの工房」に来てから戦いの特訓をしている。
特訓の相手はエネロアという魔族の男性だ。俺は彼のとてつもない強さと厳しさから、師匠と呼んでいる。
師匠は現在、行商人をやっているらしいが、昔はここの主人であるラキアとガルディオ(王様な)と冒険の旅をしていたそうだ。
んで、もうすぐ戦争が始まるから行商はお休みして、旧友のお宅にお邪魔しているとのことだ。
師匠はとんでもなく強い。さっきの特訓では手も足も出なかった。ぶった斬る気満々で剣を振ってもかすりさえしないし、センシズの『感覚』でギリギリ察知できるくらい高速の攻撃ができる。
戦闘系スキルは、暗器の扱いが上手くなる『暗心』『暗術』、格闘術に補正がかかる『拳心』『拳術』の4つを高レベルで取得しているらしく、動きを封じたり、一発で俺をノックダウンしたりできる。
俺は特訓開始から累計10回目の特訓→気絶→搬送の三段階を経て、星空の下、今はキアと焚き火を囲んでお茶を飲んでいる。師匠はラキアのところへ行った。
「そもそも、レイはラキアに魔法を習いたかったんじゃないの?」
「う、それはそうだけど……」
「ラキアだってあの時はお酒が入ってたんだから、今からちゃんと頼めば聞いてくれるんじゃない?」
もともと俺は王様の勧めで、ラキアから魔法やこの世界のイロハを教わるつもりだった。王宮での授業がなくなったからな。
5日前に、キアに助けられて濃霧の森からここへ来ることができた。ぶっちゃけ俺はぶっ倒れてただけだが。
濃霧の森での怪我をブラノヴァと『エネルギー操作』の合わせ技で回復した俺は、早速ラキアの元へとキアに案内してもらった。
そこで出会ったのは、青のスカーフを首に巻いて佇む、紫の瞳をした漢(師匠だ)と、灰色の長髪、金の瞳をもった浅黒い肌のナイスバディ、ラキアだ。
タイトな白いローブに袖を通していて、体のラインがめっちゃわかりやすい。ローブにはスリットが入っていて、そこからは艶かしい黒色の美脚が覗いている。タイツじゃない。素足だ。
体型はまさしくボンキュッボン。やらかそうな肉感が大人の色気を醸し出している。手足は芸術品のように細く、鼻筋はすうっとまっすぐ通っている。纏う雰囲気は鋭利な刃物を想像させるが、ある程度温かさがあるような気もする。
耳が長いため、エルフかと思ったが、後々の話でダークエルフであることがわかった。曰く、一般的にダークエルフと違ってエルフは貧相なんだそうだ。どこがとは言わないが。
天才魔術師と聞いて、想像していた姿を良い意味で大きく裏切ってくれた容姿に目を見開いていると、彼女が口を開いた。
「おまぇ、ぁれだ?」
あ、この人酔ってる。
そこから天才酔っ払い魔術師との激しい攻防が始まったわけなんです。もちろん言論による闘争。腕っ節は絶対にかなわないからな!
なんやエロい目で見るなだとか、私はもう魔法を教える気は無いだとか、なんのかんのと言っていたが、最終的に、エネロアとハンデありで戦い、勝てたら教えてやる、という約束になった。
「どうせ今行ってもまた酔ってるだろ」
「お恥ずかしながらその通りだよ……」
「ま、師匠が俺の戦い方を指導してくれてるから、なんだかんだ今の感じで俺はいいよ。師匠に一発攻撃を当てれば俺の勝ちってことで話はついてるし」
あの後、師匠は試合をするだけではフェアじゃないと言って、試合と同時に、俺に特訓をつけることにしてくれた。
「実戦形式で特訓を行う。特訓中、俺に一撃でも当てられればお前の勝ちだ。当てられなければ、特訓は続く。基本的に俺がお前を攻め続けるから、その動きを見て、徐々に慣れていけ。対応できるようになれば、晴れて一人前の実力がつく。その時には、一撃なんて軽く入れられるさ」
内容はなかなかスパルタだったが。
「いつになったら勝てるんだっ!!」
「戦争が始まる前に終わるといいね……」
かわいそうな子を見るようなキアのイケメンスマイルが割と辛い。
「やっぱこんなんじゃよくねぇえええええええええっ!」
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月が照らす青い夜の王宮。
ほとんどの人が眠りについた王都の中で、その場所は最も静かだった。
その中で、一人の男が何かつぶやいている。
「……計画はすべて順調だ。レイ・ジンドウは森へ行き、リリーシア・ロイ・アーガレオンとそのメイドは最前線に立つことになった。支障となる存在は全くない」
王宮の廊下の影で、男は誰かと話しているようだ。
遠隔通信の魔法でも使っているのか、男のそばに誰かがいる様子はない。
「そちらも順調か? ……そうか、その調子で魔族の攻撃を強くしてくれ。……ああ、あのお姫様たちには何もできないだろうさ。そうすれば前線は完全に魔族優勢となる。一気に勝負を決められるぞ」
そろそろ会話が終わるのだろうか、男は壁に寄りかかるのをやめ、窓から差す月明かりの中へと出た。
「全ては私たちの世界のために」
ロレンツ・ベルヘール。アーガレオン王国の大臣。軍事的には国のトップに位置する男の顔が、そこにはあった。
冒頭はリリ&ナリルのお話でした。
相変わらずレイ君は弱い弱い言われているようです。
ここからは開戦するまで彼女たちが登場することは無いかも……?
王様?………………後書きにでも出しますかね。




