ここは乙女ゲームか悪役令嬢ものか
はい、皆さんこんにちはー。
いまいち乙女ゲーム系小説や悪役令嬢転生小説で不遇なポジションの騎士団長子息です!
って、あほか俺は。
赤ん坊の頃に転生したことに気付いて、よしきた剣と魔法の世界だ、しかも騎士団長の次男とか適度にいいポジションじゃね?って浮かれてた。
赤ん坊ってマジ筋肉ないのな。寝返りうつのにあんな苦労するとか思わなかったぜ。
はいはい?よちよち歩き?
筋肉が未発達の赤ん坊、そりゃプルプルするわ。赤ん坊だったけど気分はすっかり介護老人だったさ。
俺は心に決めたね、親父とお袋の介護は頑張ろうって。
で、まあ騎士団長の次男だからと言って騎士になる必要もないなと将来を考えたわけだ。
1.親の介護はする、よって遠征がある騎士はないな、住所不定な冒険者も却下
2.しかし生まれた時からある強力なコネ、騎士団長の息子は使えるのではないか
3.せっかくだから魔法やスキルで、昔に憧れたあの職業を目指してみよう
てなわけで、二足歩行を覚えてからの俺はスキル取得に頑張った。
抜き足差し足忍び足。
恐怖!足音を立てない幼児!!
できるだけ音を立てずに常に隠れる。
恐怖!いつの間にか忍び寄る幼児!!
いやぁ、男の憧れNINJA!
体も柔らかい、脳味噌も柔らかい幼児からバッチリ修行したぜ。
存在感のない幼児とは俺のことだ!
5歳に行われた適性検査でバッチリ気配遮断と隠身のスキルがあった時には、俺としたことが思わず飛び上がって喜びそうになったぜ。
残念ながら魔法は使えなさそうだったが、バリバリ肉体派の親父を見てたから期待はしてなかった。
うん。
ホントは魔法に憧れたんだけど、こればっかりはしょうがない。
で、だ。
そんな異様な幼児の俺は当然、親父に問い詰められた。
「父上、僕は忍者になりたいのです」
そこから俺の猛烈なプレゼンテーションが始まったわけだ。
前世の記憶があることも打ち明けた。
そんでもって今じゃ親父もすっかり立派な忍者フリークだ。
まあ決め手は俺のこのセリフだったな。
「王国を影ながらに見守る、僕はそんな男になりたいのです。
表は兄者に任せます、でも影ながらに守る者も必要です。
それに、王宮近くで働けば父上と母上の将来の面倒も見られます。
僕は父上と母上に将来、育てていただいた恩返しがしたいのです」
それからは、親父に紹介された王宮の諜報部隊の隊長に預けられてしごかれた。
むかついたことも山ほどあった。
あんまりむかついたから洗脳してやった。
今じゃ諜報部隊は全員が忍者フリークだ。もちろん隊長もな。
そんでもって10歳からは同年代の貴族の子息令嬢を探るのが、俺の練習兼任務になった。
茶会やらで気配を薄くして様子を探ったんだが、不審なヤツがいた。
公爵令嬢、あいつも転生者っぽくね?
やけに子供らしくないって、俺が言うのもなんだがな。
王族と婚約しているわけだし怪しい素振りで何を企んでるのやら。
俺は重点的に公爵令嬢を探ることにした。
忍者と言えば天井裏!
王宮の協力のもと、茶会の控え室で何度か公爵令嬢の様子を探って俺は気がついた。
1.やけに義弟と仲が良すぎる。いくらガキで義姉弟とはいえ、血が繋がってないならあの距離感は問題じゃね?
2.宰相子息と仲が良すぎる。なんで茶会の控え室にガキとはいえ婚約者以外の男が毎回、訪問するの許してんの?
3.魔術師団長子息と仲が良すぎる。同上。
4.一人の時に呟いた「死亡フラグ」ってあんたそれ日本語!
あー、オーケーオーケー。ここ、乙女ゲームとか悪役令嬢転生ものとかの世界なわけね。義弟や子息らは攻略対象ってやつなのね。
ラノベはジャンルにこだわらず読んでたから把握した。
だからやたら同年代にアッパークラスのお子様が多いわけだ。
って俺もじゃん。
俺が騎士団長子息ですっ☆
あれ、これ俺ってば攻略されるの?
でもなあ、ネット小説の悪役令嬢転生もので騎士団長子息ってただの脳筋バカじゃん。
乙女ゲームでも一番人気に来ることなんて多分ないんじゃね?やったことないけど。
俺が立派な当て馬ですっ☆
「まーじかー」
んじゃこの先の予想は
1.このままいけば、乙女ゲームなら俺は学園でヒロインに魅了されて人生オワタ。
2.悪役令嬢転生ものなら王家についている俺は悪役令嬢に断罪倍返しくらって人生オワタ。
は?
いやいやいやいや。
忍者として国家公務員、親の介護を頑張る未来がなくなってますやん。
ポクポクポク。
前世でやたら再放送で見た、くそ生意気なとんち小僧の真似して知恵を絞り出す。
破戒僧よ、今こそ俺に力を!
ジャジャーン。
学園編、はじまるよ☆
てか、ヒロインまじやばい。
悪役令嬢転生ものによくある電波女じゃなかったのはまだ良かったけど、王子の心をガッチリキャッチ。
あんだけ清楚で一途な美少女だもんなー。
こいつも転生者だけど、王子ルート一直線らしい。
え?
何で知ってるかって?
学園の寮に忍び込みましたが?
日本語で日記を書いたらそりゃ他の人には読めないだろうけど、残念!俺が読めますからー。
こいつ王子ルートしか覚えてないから王子ルートやってたけど、最近じゃガチで王子に惚れてるらしい。
一途なええ娘さんやん。
あぶねー。
あまりの健気さに俺までハートをガッチリキャッチされそうだったわ。
王子の部屋にも忍んで様子を伺ってみたけど、こいつはこいつで悩んでんだな。
リア充爆破すんぞ。
婚約者(美少女)と結婚しないといけないが平民(美少女)に心惹かれている。
オーケーオーケー、やっぱ爆破だね☆
しっかしどうしたもんかねこのカオス。
すでに【王子が婚約破棄のアップを始めたようです】って状態だろこれ。
話の運び方次第では全員不幸ルートになるだろうし、かと言って全員幸せルートは無理。
まあ、準備だけはしとくか。
後は王子がどう動くかな。
わーお、王子が公爵令嬢とヒロイン、それに義弟と宰相子息と魔術師団長子息を集合させたよ。
俺?
定位置です。
天井裏ですが?
それでは実況しようか。
「公爵令嬢、貴女との婚約を破棄したい」
おっと王子、いきなりのストレート。前置きなんて言うジャブすら無しでいったあああ。
さて防衛側はどう動くか!?
「あら、突然の呼び出しで何かと思えば婚約破棄とは?」
防衛側、公爵令嬢は余裕の微笑みで迎えうつ。
「貴女自身もわかっているのだろう?」
淡々と試合は進んでいくっ!
おっとここで宰相子息の乱入だぁっ!
「王子、それは王子の隣にいる女性のことでしょうか?
以前に王子と庭園にいるのをお見かけしましたが」
「義姉上という婚約者がいながらそれを蔑ろにしたのは王子でしょう!
ホールでもその女性と近くにいたではないですか!?」
便乗して義弟も参戦だっ!
公爵令嬢、余裕の笑みを隠さないっ!!
これはキャットファイトはあり得るのか!?
「公爵令嬢、貴女はやり過ぎた。
貴女の態度では、周囲はもはや貴女を淑女としてみなさないだろう」
王子の会心の一撃キター!
「義姉上はどの貴族令嬢よりも厳しい作法や勉強に努めてきた!
義姉上のどこが淑女としてふさわしくないというんだっ!」
義弟からの援護射撃入りましたーっ!
「そうですよ。公爵令嬢以上の淑女はいないでしょう。
彼女は特に勉学に優れ、彼女こそ王国の王を支えるにふさわしい女性です」
ここで魔術師団長子息も参戦だぁっ!
「お前たちもわかっていない様だな」
あ、王子、もう仕留めにかかっちゃうんですか?
早くないっすか?
「公爵子息、それに宰相子息と魔術師団長子息には、公爵令嬢との不義密通の疑惑があがっている。
それぞれの婚約者たちからも、既に破談の話が公爵家と宰相家に通達されているだろう。
本来なら直接申し入れるところだが、各家としては一切の関わりを断ちたいとのことだ」
王子のクリティカルヒーット!!
あれ?
意味通じてなくね?
なんだか公爵令嬢がプルプルしてるよ?
「どういうことですか、王子!
義弟も宰相子息様も、不義密通などなさるお方ではございませんわ!!
王子こそ、そこの女性との不義密通がございましょう!?」
あ、これあかんやつや。
超特大の地雷をホップステップジャンプで踏み抜いてる。
「公爵令嬢、貴女は本当に何も見えていないのだな」
そりゃ王子もため息つくわ。
「令嬢がいる部屋に男性が入室して二人きりで時を過ごす、これが不義密通でなくてなんだと言うんだ?
婚約者がいるのに、婚約者ではない令嬢の家に頻繁に訪れ時を過ごすことも不義密通と言うのでは?」
「そんなっ!義弟とも宰相子息様とも魔術師団長子息様とも、そのような汚らわしい関係ではありませんっ!!」
そうだね、抱きしめて攻略対象のトラウマ癒したり、恨まれないように愛想振りまいてただけだよね。
トラウマ癒された攻略対象が依存するのも仕方がないよね。
俺?
そもそもトラウマなんてないし、そんな危険な噂の公爵令嬢に近づくわけがないじゃん。
「貴女は貴族として何を学んできたのだ?
婚約者以外の異性との噂が流れる女性が王族に相応しいとでも思っておいでか?
それに、確かに私はこの女性と二人で話すことがあったが、それは庭園やホールなど第三者がいる公の場だけだ。
淑女と密室に二人きりなど、その様な行いを私はかつてしたことはないと断言する」
「え、あ、私は、そんなつもりじゃ」
うん、そんなつもりじゃなくてもアウトなの。
「貴族としての名誉を重んじるのならば今後は二度と社交の場に出ぬことだ。
また、彼女は騎士団長家の養女となった。今後は私の侍女として勤めてもらう。
今回は密室に女性が一人に複数の男性という状況を避けるために随伴を命じた。
邪推はせぬことだ」
王子の猛ラッシュでフィニーッシュ!!!
あー4人とも完全に放心してるわ。
手配しといた近衛に介助されてなんとか歩いてるなぁ。
廊下に出た王子を追いかけると、すっとヒロインちゃんが端により侍女の礼を取り俺らの話を聞かないように離れて待機した。
「王族とは、ままならぬな」
王子は結局、誰も幸せにならない決断したからなぁ。
「ご心中ご察しいたします」
え?
俺だって内心以外じゃ、ちゃんとした貴族らしい言葉ぐらい使うに決まってんじゃん。
「私にはこの選択肢しかなかった。彼女が侍女として側にいてくれることしかままならないとは、な」
俺は黙って目を伏せた。
好きに生きたいよなぁ、俺もけっこうしがらみあるけど王子はもっとあるもんなぁ。
ヒロインちゃんは、侍女として王子を近くで支えるって覚悟決めてくれた。
王子はきっと、他国の姫を伴侶とするんだろうな。
二人とも報われないなぁ。
公爵令嬢は自分にとって都合のいい世界を夢見てたんだろうなぁ。
ここはゲームじゃない、現実。だから死亡フラグを回避するってよく呟いてたけど、死亡フラグとか言ってる時点でゲームや小説だと思ってるってことだろ。
ヒロインが王子といたのを見たなら、王子に聞けばよかったじゃん。
現実なら、ゲームにない行動してもよかったじゃん。
断罪が起きるって待ち構えてる時点で、現実って認識してないじゃん。
結果として巻き込まれた義弟と宰相子息と魔術師団長子息はとんだ災難だったんだろうな。
まぁ、これが俺の生きる貴族の世界。
本当は天井裏だって楽じゃない。
人の嫌なとこばかり見せられる。
それでも貴族の付き合いをするよりかは俺に向いてる。
俺がヒロインちゃんを手助けしたのは、彼女が現実に気づいて王子への恋心に殉じようとしていたから。
さすがにそれは王子のトラウマになっちゃうじゃん。
いずれ王となる人間にそんなトラウマできちゃったら歪んじゃうじゃん。
かえって残酷なことなのかもしれないけど、さ。
こんな汚い貴族の世界に、一つくらいきれいなものがあってもいいじゃんって俺のわがまま。
まあ、王子に貸しを作るって打算がなかったとは言わないけどね。
ここは乙女ゲームでも悪役令嬢断罪ものでもない、ただの世界。