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第24回 目撃者は露天商

 寝すぎてしまったのか、紅葉は重たい躰をベッドから起こした。

 時計の針は正午を回っている。

 紅葉はリビングのソファにぐったりともたれ掛かり、テレビのニュース専門チャンネルをつけた。

 世界のニュースからはじまり、帝都のニュースを流し、地域の放送局に取り次いで区ごとの細かいニュースまで取り上げる。

 紅葉がつけたときには途中からであったが、資産家の家から仮面のコレクションが盗まれたというニュースだった。あの事件だ。

 逃走した犯人がツインタワービルで機動警察に包囲されたところで、その場に現れた般若面を被った人物。その映像を見て紅葉は驚かずにはいられなかった。

 妖物と戦っているのは紛れもなく〈般若面〉を被った自分――つまり『姉』の呉葉だ。

 そして、ニュース映像は突然ノイズでなにも見えなくなってしまった。撮影中にカメラトラブルが起きたらしい。

 盗まれた仮面の一部は爆発した車から見つかり、残りは犯人が逃走中に落とし、帝都警察が一部を回収したが、何枚か所在不明のモノがあるらしい。

 所在不明の仮面の中には、神の手を持つと云われながらも、彫ることを突然に止めてしまった源幻刀斎の作品が混ざっているらしい。

「お父様の……お姉ちゃんが壊して、残りは燃えたって……」

 それとは別の面があったのだ。

 紅葉はテレビをつけたままにして寝室に足を運んでいた。

 ぬいぐるみたちに囲まれて置かれている〈般若面〉を手に取る。

「お姉ちゃん、話があるの」

《どうしたの紅葉?》

 紅葉が話しかけると『姉』はすぐに目覚めた。

「お姉ちゃんが妖物と戦ってる映像がニュースで流れていたの」

《なんですって?》

 それは予期せぬことではなかったが、『姉』は驚いた声があげてしまった。

《仮面を被っているとはいえ、あなたの姿がカメラに映っているのはまずいわ》

「でもね、映像のほとんどは画像が悪かったり、煙に覆われていたり……それから途中で画像にノイズが入って映像が途切れたの」

 『姉』は聞かずとも、それがどのシーンだったかわかってしまった。

 あの紅い男が現れた場面だ。そうに違いない。

 しかし、『姉』はそれを紅葉に告げることはなかった。

「お姉ちゃん……映像が途切れたあと、お父様の面を壊して、残りは車の爆発に巻き込まれたのでしょ?」

 『姉』が答えるまで少し間があった。

《……ええ、破壊したわ。残りはおそらく燃えてしまったわ》

「実は他にも盗まれたお父様の面があって、所在が不明らしいの」

《それは本当?》

「ニュースで言っていたから、たぶん」

《探しに行きましょう。もしそれが『力』を持った面だったら危険だわ》

「うん」

 紅葉はすぐに身支度を済ませ、ショルダーバッグの中に〈般若面〉を入れて出かけた。

 ケータイでネット検索しながら犯人たちの情報を集め、帝都警察とカーチェイスを繰り広げた現場を辿ることにした。

 電車を乗り継ぎ地下ホームから出た紅葉は街を見渡した。

 ショッピングビルが立ち並び、土曜日なので人も多い。このどこから訊き込みをするべきか紅葉は考える。

 雑踏を歩く人々に話を訊いても意味がない。彼らは遊びに来ているだけで、毎日ここにいるわけではない。話を訊くなら近くのショップの店員か、露天商たちだ。

 道路わきの歩道を歩きながら紅葉は露天商を探した。

 紅葉が目を留めたのは路上でアクセサリーを売っている白人の男だった。

「こんにちは」

 と、紅葉が声をかけると、気さくな感じで流暢な日本語で返してきた。

「いらっしゃい。今日の君の服装にはこのネックレスなんて似合うと思うケドなァ」

「買い物をしたいわけじゃないの、少し話を訊かせて欲しいだけです」

 紅葉が客じゃないとわかっても男は嫌な顔をしなかった。

「話ってなんだい?」

「昨日、この道で警察に追われた犯人がカーチェイスをして、そのときに犯人がある物を落としたらしいのだけれど知っていますか?」

「ボクが店をやってるのは土日だけだからなァ。あっちの男なら毎日この道で店をやってるらしいよ」

 男は道路を挟んで向かいの歩道を指差した。そこにはたしかに露天を開く男の姿あった。

「教えてくれてありがとうございます」

 頭を下げて立ち去る紅葉の背中に男が声をかける。

「今度は友達をいっぱい連れて買い物に来てくれよ」

 紅葉は往来する車を避けながら道路を渡った。

 今度の露天は一見してガラクタしか売っていないように見えた。

 店の前に立った紅葉に露天商が声をかけてくる。

「なにが欲しいんだ? 俺の店はなんでも揃ってるぜ」

 銃器やネックレスやノートパソコンなど、多種多様な物が揃ってはいるが、なんでもというわけではあるまい。

 紅葉は商品には目もくれず、露天商の顔を覗きこんだ。

「情報は売っていますか?」

「俺は情報屋じゃねえ。情報なら情報屋に行きな」

「昨日、この道で警察に追われた犯人がカーチェイスをして、そのときに犯人がある物を落としたらしいのだけれど知っていますか?」

 この質問に男は慌てた。

「俺は盗んでなんかないぜ、ちゃんと金を出して買い取ったんだ」

 だいたいの事情を紅葉は察した。

「それで仮面はどこにあるのですか?」

「売った……いや、やった」

「売らずにあげたの?」

 買い取った物を売らずにやるなど考えられない。人に施すほど裕福なら、ガラクタを修理して露天で売りさばいてなどいない。

 男は少しずつ顔から血の気を失っていた。

「あの仮面を持ってると不幸になる気がしたんだ。あいつらも不気味でさっさと消えて欲しかった」

 紅葉はその仮面が父の彫った面だと直感的に感じた。

「不気味とは、どのような人たちだったのですか?」

「女の方はお前と同い年くらいの女だ。その連れの車椅子に乗ってた男が不気味だったんだ。ミイラ男みたいなに全身に包帯を巻いて、しかもその上に御札まで貼ってあったんだよ」

 特徴的な格好だ。聞き込みを続けていけば簡単にあとを追えるかもしれない。

「その二人組みはどちらの方角に行きましたか?」

「あっちだ、あっち」

 紅葉は男の指さした方角をちらりと見て、視線を戻すと頭を下げた。

「ありがとうございました」

「おい、なんか買ってけよ」

「またの機会に」

 またの機会などない。紅葉は足早に雑踏の中に消えた。

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