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スカウトマン、魔法少女希望者と話す

 眠い……。

 やたらとフカフカ過ぎて寝にくいベッドだったので少し首が痛い。

 かなり朝早くに王子自らが叩き起こしにやって来て……夜明け直後くらい?

 ほとんど眠れなかったなぁ。


 宝物庫の分厚い扉の前まで行くと、昨日のロリ魔術師団長がいた。

 な、何だろう。まさか審査を通さなかった俺に復讐とか? そんな、逆恨みだ!


「彼女に警護術式の解除を頼みます。宝物庫には王族の立会いがないと入れない規則でして……何故私の背中に隠れているんですか?」


 何だそうなのか。ひとまず安心した。

 うーん、でも団長は本当に子供みたいだ。身長が小さいのもあるけど、顔も幼げで愛くるしい感じでやっぱり十代前半に見えるな。

 フワフワでヒラヒラのゴスロリっぽい感じの服装もあって良く出来た人形のように可愛らしい。昨日と同じ赤毛をおさげにした髪型、引き摺りそうな長いマントを羽織って、アレイト達同様宝石の飾りを頭に着けている。

 クリッとした大きな目が俺を見上げてきた。


「双子達から聞いてるわ。異世界人さん。ずいぶんジロジロと人のことを見るのね? まあ、私も異世界に興味はあるけど」


 舌足らずな幼い声。でも話すことは大人っぽい。彼女のほうから話しかけてもらったのもあり、奥の扉へ続く通路を喋りながら進んだ。


「え、あ、ゴメンナサイ。魔法使いなんて珍しくて。俺の世界にはいないから。昨日の炎凄かったね」


「あら、ありがとう。フフ、お褒めいただいて光栄よ。でも魔術師がいない、魔法がないなんて不便そうな世界ね。私にはそっちのほうが信じられないわ。とは言っても、この世界だって魔術師は決して多くはないのだけどね」


「まあ、その代わりに色々違う技術が発達したりしてるからね。何とかなってるよ」


「二人とも、最後の扉が開きましたよ。ではメミル団長、解除を」


「はい、ただちに」


 王子の言葉に、団長は魔法の明かりを杖先に灯すとすぐに奥に入っていった。

 ケースの前で団長が何事かをやっている。傍目には何も変わらないように見えるが。


「終わりました。もう大丈夫です」


 団長は役目は終わったとばかりに、後ろに下がる。

 王子が蓋の鍵穴に鍵を差し込み、回す。重そうなケースの蓋をギギッと開けた。


「ではどうぞ、くれぐれも慎重に扱ってください」


 王子がギロリと目を光らせる。彼は目付きがキツい上に、三白眼気味なので睨まれるととても怖い。


「うっうん、気を付けるよ」


 ええと、まずは左から順番にいくか。

 槍だ。重いな。鋭い穂先には錆びの一つもない。ゆっくりと取り出して穂先の近くに埋め込まれた赤い宝石をそっと指先で撫でる。滑らかなその表面に触れた時、バチリと静電気が走ったような気がした。


「イテッ! ビックリしたぁ」


「どうしたんです? 指でも切りましたか?」


「ううん、何か静電気が起きたみたいで……バチッとしたんだ」


「そうですか、金物ですからね……先代が槍の名手であったため彼女に合わせた槍を作り、そこにこの赤眼の宝玉を組み込んだ。どんな硬い物でも貫く名槍だと、この本に書かれています。ちなみに槍の隣に置かれた小型の剣は先々代が使っていた武器だそうです」


王子が古い本を取り出し、それを読みながら言った。

確かに槍のそばにはとても古い剣が置かれていた。錆が浮いてボロボロだ。石が嵌っていたのであろう穴がポッカリと空いている。


「その本は魔法装具の説明書?」


「ええ、先代達が何の武器を手にして戦ったか、などが書いてあります。参考にはなるかもしれませんが、魔法装具は所持者に合わせて作り変えるのが基本ですから。……次の輝黒の宝玉は前回は適性を持つ者が見つからず使われなかったようですね」


黒いそれは水晶のような細長く尖った形をしていた。確かにこれは何かに取り付けられたりしていない、石だけの状態だ。服の裾で手を擦ってから触れる。今度はバチリとはしなかった。ヒンヤリでツルツルだ。


「じゃあ、前回は全部の石に持ち主がいたわけじゃなかったんだ?」


「前回は二人しか見つからなかったそうです。周囲の国の助けを借りたものの大変な被害を受け、復興にもかなりの年月がかかりました」


「二人!? うわあ……」


国を守るのがたった二人の女の子だなんて。とんでもない話だ。


気を取り直して、次は白い……真珠のような丸い石がいくつも散りばめられた銀の笛を手に取ってみる。見事な細工がされていて武器とはとても思えない。芸術品だ。


「これは、フルートっていうのかな」


「白涙の宝玉ですね。その笛は敵には苦痛や幻覚を起こし、味方には闘志を高揚させる音色を奏でたそうです」


「へえ、直接攻撃する武器ばかりじゃなかったっていうのは、こういう物のことなのか」


最後は勾玉のような形の水色の透き通った石だった。それが裏側に飾られた美しい鏡。枠は石製でズッシリと重い。

凄く古い物みたいだ。持ち上げるのは止めて、触れるだけにしておこう。


「その鏡の石は、流水の宝玉と呼ばれています。最も古くからある物なのですが、所持者がいた記録が残されていないようですね。使い方なども不明です」


「何それ。それほど大昔にしか使える人がいなかったってことかなぁ。確かに見た目も太古の儀式用の鏡って感じだもんな」


「城で管理している物はこれ等四つですが、それともう一つ、銀剛の宝玉が存在します」


「それが今一人だけいるっていう所持者の人のか。じゃあ全部で五つになるんだ。ところでその銀剛とか流水っていうのが石の名前?」


「はい。特別な宝石だというので何やらの宝玉、などというご大層な名前を付けて奉っているわけですよ」


王子が呆れたように言い捨てる。


「王子、それって不敬発言にされたら大変ですよ。仮にも国宝なんですから」


メミル団長も言葉では窘めているが、声の感じでは同じく呆れているようだった。王子は軽く聞き流すと俺に向き直る。


「さて、もう閉めてもいいですか?」


「あ、うん。ありがとう。上手く言えないけど、やっぱり触れてみて良かった気がするよ」


元通りに施錠し、団長が再び警護の術式とやらを張る。


「いいわねぇ、宝玉に直接触れるなんて。私もどんな物か触れてみたかったから昨日の審査気合入れてやったのにな。自分が所持者になれば好きなだけ魔法装具の研究が出来るじゃない? ねえ、ホントに私には適性がないの?」


帰りの通路でまた団長が話しかけてきた。団長は自分から希望しているのか。


「へえ、確かに団長が魔法少女ってピッタリだと思うな。うん、見た目的にも」


「魔法少女? 魔法装具を使う少女だから略して魔法少女なの? へえ、いいわねその言い方」


「じゃあ、さっきついでに触ってみれば……」


「厳禁ですよ、無用の者がみだりに触るのは」


俺の言いかけた言葉は王子にピシャリと止められてしまった。


「でも他国では新しい魔法装具を作り出す研究のために、宝玉を魔術師達に貸し出しているところもあるそうですよ?」


「莫大な費用を使いながらも未だ成功したという話は聞いたことはありませんが?」


口を尖らせ不満を言う団長に王子は無感情に言い返す。グッと言葉に詰まる団長。いや、今の言葉ちょっと気になるぞ。


「ちょっと待って、他の国にも魔法装具があるってこと?」


「……ああ、言ってませんでしたか。そうですよ、他のいくつかの国も魔法装具を保有しています。我が国同様に貴方のような異世界人を召喚したところもあると情報が来ていますし、各国適性の高い人間を探して血眼になっているでしょう」


「始めて聞いたよっ! 他にも誰かが召喚されてるんだ? 誰なんだろう、日本人かなぁ」


「どこから来た人間なのかまでは分かりませんね。あちらでももう夜の獣との戦いは始まっていますから、船の行き来もほとんどなくなってしまいましたし」


最後の扉も施錠され、メミル団長は仕事に戻っていった。


「そう言えば今日はこれからどこに行くんだ?」


「隣の町です。大勢の女性のみの信徒を抱える、女神を祭る神殿のある町です。町中はともかく神殿内は男子禁制でして、立ち入るのは私としてもあまり気が進まないのですが。昨日の審査にも参加してくれるよう協力を要請しても我等は神殿から出ないとの一点張りで、こちらが出向くことになったのですよ」


王子は非協力的な態度に不満があるようだが、女性ばかりの神殿か! それって女の園じゃないか!

何だか期待で胸が高鳴る。

いやいや、お婆さんばっかりとか、オチがあるかもしれないし。うん。ほどほどで行こう。

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