スカウトマン、オーディションの審査をする
俺の隣の席の王子が何かの書類を広げながら言う。
「まずはこの国の女性騎士団のメンバーですね。次が魔術師団。その後が、街のギルドに所属する戦士や魔術師です。最後に一般の女性達。早速始めましょう」
進行役らしい中年の騎士が合図を送ると一番前にいた女性が前に出てきた。
薄茶の髪をポニーテールにしてて、顔立ちはキリッとしてクールビューティーだ。背も高め。着ているのは騎士の制服なのか、彼女の後の二十人近い女性達も同じ濃紺の衣装に身を包んでいる。
一礼すると、腰の剣を抜き素振りを行う。素人の俺でも綺麗だと思えるくらい無駄のない洗練されたフォームだ。
「どうですか? 彼女は実力も女性騎士の中で一番です」
「うーん、凄いとは思うんだけど、どうかなぁ」
うん。オリンピックとかでうわぁこの人凄い、と思うのと同じような感じだ。
すぐに次。今度は金髪を三つ編みにした可愛い感じの女の子っぽい人。表情は決意に満ちていて短めの槍を手に出てきた。
二番手だけあってさっきの人とも遜色ない技術を披露してくれる。
「ううん、この子は可愛いなって思うけど。ああ、強そうなのも分かるけどさ」
「か、可愛い、ですか。それはまた主観的な感想ですね……」
次。次から次へと。名前を名乗るわけでもなく挨拶の言葉もないので、一人の演技時間は短くドンドン進行していく。
女性騎士達が終わった。精鋭揃いなのは分かったけど、イマイチピンと来なかったというか。
でも、騎士団てことはこの国の強い女性達の筆頭ってことだよな?
ううむ、見逃しているのか。
「次は魔術師団。国中から魔法の才能を持つ者を集めた部隊です。アレイト、ミレイト姉妹も所属しています」
あ、本当だ。
十四、五人程似たようなマントの集団がいて、二番目と三番目に紫と緑の髪の女性が並んでいる。
臆することなく最初に前に出てきたのは、赤毛を頭の両脇でおさげにした女の子。ずいぶん若い、っていうか下手したら十歳とかじゃ……。
「彼女は魔術師団の団長です。若干二十五歳にして火炎系では最強の魔術師です」
「に、二十五歳!? 嘘だろ……」
彼女は前に出てきて不敵に笑いながら小さく一礼すると、杖をかざして呪文らしきものを唱えた。
一瞬彼女の体が光ったかと思うと、轟音と共に上空に巨大な炎の塊が生み出された。
もう一つ太陽が出来たみたいだ。城門が焼け焦げちゃうよっ!
こっちにまで火の粉と熱波が押し寄せてきた。
「い、今の人の体が光ったように見えたんだけど?」
「ああ、それは私達にも見えていますからご心配なく。魔法が発動する時の一般的な現象です」
王子と爺やさんが頷いている。
何だそっか。コレか! と思ったのに……。
「次、ですかね。アレイトとミレイトは双子で魔術も連動して行いますから同時になります」
言葉通り二人は並んで前に出てきた。
お互い片手を繋ぎ合いながら、もう片手で杖を握っている。
二人の体が輝き、空中に魔方陣が描き出され、そこから巨大な生き物が地面に降り立った。
体から電流のようなスパークを迸らせているその動物は大きな虎のような姿だ。獰猛な唸り声に広場の女性達から悲鳴が上がる。
双子が杖を降ろすと一瞬で虎の姿が掻き消えた。光の粒子が名残のように舞っている。
送還されたんだな、きっと。俺もあんな感じで召喚送還されてるのかな。でも毛皮を纏っている生き物なら裸でも格好がつくけど、人間の裸の男じゃ様にならないよなぁ。そんなに筋肉もないし。
余計な事を考えつつも、彼女達とはもうすでに会ってるし、改めて特に何か、ということはなかった。
どんどん進んでいき、魔術師団も全員の審査が終わってしまった。
「さっき言ってた一般のギルドの戦士とかってどういうこと?」
「ああ、自警団員や、冒険者、一般人の武術家や魔術師などですね。我が国は女性の冒険者も結構多いほうなのですよ」
「へえ! 冒険者なんていうのもいるんだ、期待出来そうだね!」
うん、世界を股にかける凄腕冒険者がそういう適性を持っているとか、あり得そうな気がするぞ。
人数も騎士団と魔術師団に比べて多い。王都だけあって冒険者もたくさん集まっているんだろう。
騎士団のように統制こそ取れていなかったが、彼女達も剣、大剣、弓矢、格闘技などそれぞれ自分の得意なものを披露していった。
そしてそのまま終わった。有力候補だった戦う女性達の出番が終わってしまったのだ。
サンドイッチなどの軽食と飲み物が素早く配られ、それを食べながら王子に相談した。
「ダメだ、何だか全然だよ……確かに凄いとは思うし、感動もするんだけど」
弓使いの少女は見た目も技も目を奪われるような美しさだった。的のド真ん中に一本目を打ち込み、二本目、三本目もその矢を貫いて刺さったのだ。
それでも彼女が特別だ、とは感じなかった。他の人同様に凄い、というのが正直な思い。
外見の好みでいってもドストライクなのに。是非名前が知りたい。もしも俺のボディガード部隊とかが作られるなら絶対入って欲しい。
周囲に聞こえないように小声で訴えかけると、王子も目が疲れたらしく目頭を軽く揉んで、向こうも小声で返してくる。
「そうですか……出来れば戦いの技術を持つ人の中にいてくれれば有難いと私も思っていたのですが。こればかりは仕方がありません。それにこの中にいない可能性も十分高いですからね」
四百人も集めておいて、いないかもなんて。そんなこと王子が自分で言わないでくれよ~!
でも、こんなにすぐに見つかると考えるほうが甘いよなぁ。まだ異世界に来て通算二日目だもんな。
この頃にはもう陽も沈んでいた。しかし、先程の魔術師団の女性達が広場に魔法の明かりを煌々と灯し、オーディションは続行である。
「一般の部はあまりに多いですし、巻いていきましょう。これからは三人同時に出てきてください」
王子がパンパンと手を叩きそう宣言する。進行の人が列の前三人を呼んだ。
最初の三人は戸惑いを見せたが、バラバラと出てきて各々の特技を披露する。
まあ、一般人の特技が剣技や魔法のはずもなく、カゴから何かの料理の盛られた皿を出してきた子は料理が得意なんだろうし、毛糸を持ち出して編み物や刺繍らしい縫い物を始める子もいて……。
うん、とってもカオスだ。王子が巻いた理由も何となく分かった気がした。
ダンスが得意と踊ったり、歌を歌ったりするのは全然良いほうで、弟の子守とか客寄せの呼びかけとかのどう判断すればいいのか困る子も多かった。
最後の参加者達を乗せた馬車が真っ暗な中発車していく。
深夜を過ぎてようやく全員終わったが、結局誰にもピンと来なかったのだ。
困った。ああ、役に立たないとか思われてたらヤだなぁ。
審査員席も片付けられ、城門が閉められる。
「ゴメン、何だか全然ダメだった……。俺に見出す力がないのかも」
城内へと戻りながら王子に謝った。せっかく集まってくれた皆さんにもゴメン。
「いえ、仕方がないでしょう。初日にいきなり見つけられるほど簡単だとは、私も思っていません」
笑顔もない代わりに怒りや落胆、疲れも見せない顔で王子が言う。懐から手帳を取り出すとそれを開きながら明日のスケジュールを説明してくれた。
「今日はすぐに休んでもらい、明日は早くから移動してもらいます。オーイシ、貴方は馬には乗れますか?」
「ええ、乗馬? 出来ないよ、馬なんて触ったこともないし」
「そうですか。ではスピードは落ちますが馬車にしましょう。明日は隣の町に行ってもらいます」
「うん。あ、そうだ。あのさ、魔法装具をもう一度見せてもらえないかな? 出来れば、少しだけでも触らせて欲しいんだけど。あ、いや俺が使えないだろうっていうのは分かってるよ。でも、何か分からないかなぁって」
「なるほど。そういうことなら、そちらを優先しましょう。出発の時間を三時間遅らせます。警護の術式も解かなくてはいけませんし」
「ありがとう!」
王子は正当性があると思えば結構頼みを聞いてくれるようだ。話してみて良かった。
正直これはただの思いつきなんだけど、俺自身がもう少し魔法装具について詳しくなったほうがいいと思ったのだ。