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スカウトマン、困惑する

「うわぁ! 本当に戻ってきたんだ。ひゃっ、やっぱり裸だ、どうしよう」


 召喚された時にいた場所、つまり事故現場に今度は送還されて戻ってきたのだ。

 トラックや俺の自転車などはもうないけど、事故現場の跡は生々しく残っていた。道路にベットリと血糊が……。


 眩しいヘッドライトの光に慌てて物陰に隠れる。マッパなので誰かに見つかったら大変だ。

 結局あの後王子との打ち合わせが長引いて、送還してもらうのが遅くなったのだ。でも、こっちもすっかり暗くなっていて助かった。昼日中に全裸で出現とか、本当に勘弁して欲しい。


 とりあえずゴミ箱で見つけた新聞紙で体を隠すと、急いでアパートへ帰る。なくしたら困ると思って、部屋の合鍵をポストの内側にセロテープで貼り付けていたのが幸いした。

 そういえば、部屋には電話を設置していないし、スマホもないんだ。きっと事故の衝撃で壊れただろうけど。空き瓶に貯めていた小銭を持って、近所の公衆電話の設置されているコンビニへ走る。


 無事を知らせると家族には物凄く吃驚された。当然か、警察から連絡もあったそうだし、ニュースでもやってたらしい。

 泣きながらも喜ばれて俺も貰い泣きしてしまった。運良く軽傷で親切な人に助けてもらった説を採用してみたけど、母親でも半信半疑のようなので他人に信用してもらうのは難しそうだ。

 なのでそのままコンビニで包帯と絆創膏を買った。少しでも話の信憑性を上げるため、これを使って怪我しているようにカモフラージュしようと思いついたのだ。

 俺の遺品――生きてるけど――を預かっているという警察署の場所も聞いたので、明日取りに行こう。


 母さんの話を聞いて分かったけど、俺が事故に遭ったのは今日の午後五時頃。城で過ごした時間を考えると向こうの世界との時間の流れの違いはないみたいで安心した。

 向こうでの一日がこっちでは一年、とかだとあっという間に浦島状態になってしまう。

 でも時差はあるみたいだ。向こうを去る時はまだ夕方くらいの空の色だったはず。


 その後は二日間ちゃんと大学に行った。大騒ぎになったけど。警察も行ったが凄く不審そうに扱われた。生きてたんだから良かったじゃないか。

 金曜の午後急いでアパートに帰ってきた。

 王子に再召喚を頼んでおいた日だったからだ。

 朝から、今召喚されたらどうしようと思っていたけど、自室に戻るのが間に合ってよかった。帰りがけに買ってきたオニギリを食べて、今か今かと待っているうちに結構時間が過ぎていった。

 王子、忘れてないよね? イメージ的に時間に厳しそうだけど……。

 不安になってトイレも済ませておこうとバスルームのドアに手を掛けた瞬間、浮遊感と共に目の前が暗くなった。



「こんにちは、オーイシ・テツヒト。おや……大丈夫ですか?」


 笑顔の安売りなどするくらいなら死んだほうがマシ、と思っていそうな硬い表情の王子が俺に挨拶をしてくる。


「こ、こんにちは。うぶ、ちょっと気持ち悪い、かな」


 浮遊感の後、コマのようにグルグル回転したような感覚に陥ったのだ。横軸だけでなく縦軸にも。

 正直かなり気分が悪い。

 でも棒立ちではなく座り込んだ姿勢だったのは我ながら良くやったと思う。全裸だからね。また二人の美人魔術師さんもいるしね。絆創膏すらなくなっていたしね。

 王子が差し出してくれた着替えで前を隠しながら、まずは最初にトイレを借りた。

 窓からの陽射しを見るにこちらの時間は昼前くらいのようだ。


「前回召喚した時と同じ時間にしました。そちらは何か問題はありましたか?」


「いや、部屋に帰ってきて待ってたところだったし大丈夫。家族とか知り合いとかへの説明も……まあ、何とかなった、かな?」


 苦笑いをしながらそう言うと、王子はほんの少し目を伏せた。何となく察してくれたらしい。


「では、こちらへどうぞ」


 大きな窓の側へ招かれた。何かと思って外を見ると。


「!!」


 いる。たくさんの人が。子供から大人まで城の前の広場にひしめき合っている。遠くて良く見えないけど、長いスカートみたいのを履いているから女性なのは分かった。


「布令を出して王都周辺に住む女性を可能な限り集めました。早速見ていただきたいのですが」


「うわー……スゲー人数だ。どうしよう」


 思わず漏れた素直な感想に王子も何かを思案するような顔になる。


「正確には数え切れていませんが、少なくとも四百人以上です。もちろん身分を問わず。事前に何か特技を見せるようにも伝えています。それと、武術や魔法の心得がある者は向かって広場の左側に集まるように言ってあります」


 そう言われて目を凝らせば、確かにそちらのほうにいるのは剣や杖を携えていて服装もそういう感じの女性達だった。

 さすが王子は見た目通りに細かいタイプだ。


「その適性っていうのが高い人ならあの魔法の武器を使うことが出来るんでしょ? 審査みたいなことしなくても、宝物庫からあれを出してきて全員に順番に使わせてみれば分かるんじゃ?」


「そのようにした場合もあるそうですが、酷く大雑把な絞り込みになりますね。全くの無適性では不可能なのですが、多少なりとも適性があれば何とか武器として発動させることは出来るのですよ。ですが性能も発揮出来ませんし、その上そんな状態で無理に使っていると魔法装具に命を吸われます」


「えっ吸われるって……死んじゃうの!?」


 驚いて問い返すと、彼は窓のほうを向いたまま、故意に感情を抜いた声で言う。


「そうです。やはりあまりにも見つけられなかった時代もあったのです。仕方なく最後の手段として適性の低い者にだろうと構わず持たせて戦わせたと。ほとんど使い捨てのようなものです。大半が一度の戦闘で命を落としたとあります」


「一度の戦闘で? マジかよ……それって適性が高い人なら大丈夫ってことか?」


「ええ。適性が高ければ高いほど魔法装具の力を引き出せるし、長期間の使用にも耐えられる……かなり疲れるそうですが、ね」


 一度の戦闘でってことは、一回や二回試しに振るうだけなら死ぬ事はないんだろうけど。やっぱりそんなことをやたらにさせるのは良くない。ちゃんと考えなきゃ。

 王子が先に歩き出した。俺も後を追う。



 城門側に設けられた審査員席のようなところに座っていた。

 王子と俺、爺やさん、他にも数名。

 前の広場には大勢の女性達が行列をなしている。心配そうな顔、使命感に燃える顔、迷惑そうな顔……色々だ。

 パッと見ただけでは何かを感じる人はいないな。何かオーラのような物が見えるとかがあれば分かりやすいのに。


 身分を問わず、と王子が言った通りに何かの組織に属していると分かる制服らしき物を来た集団もいるし、てんでんバラバラな武装に身を固めた人々もいる。戦いを生業にしている様子の彼女達は全体の三割くらいの人数だろうか。

 大多数の一般女性達も、高そうなドレスの人から庶民と見えるワンピースにエプロンという格好の人までいる。当然後者のほうが圧倒的に多い。


 真剣にこっちを見ている人も結構いて何だか俺も緊張する。彼女達にしてみればこれで運命が分かれるんだもんな……。

 何かを守るために我こそは、と意気込んでいる人もいるだろうし、もしも自分が選ばれたらどうしようと考えている人もいるだろう。戦いになんて縁のない人のほうが多いんだから。

 でもこの中から俺が誰かを選ぶことになるのかもしれない……。

 その誰かは選ばれたらどう思うんだろう? 戦いを受け入れてくれるだろうか。

 使命感に燃えて、すぐにやる気になってくれるんだろうか。自分の命を投げ打ってもいいと。

 普段から戦いに身を置いている人ならそう思っているかもしれないけど。


 もし俺にスカウトされちゃった人が絶対嫌だ、怖い、戦うなんて出来ない、と思うなら……。

 きっと選んだ俺は恨まれるんだろうな。

 誰かの命運を決めてしまう決断を下さねばならないと思うと、心臓を掴まれたように胸が苦しくなった。



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