表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

スカウトマン、スカウトされる

 大石鉄人二十歳。彼は平凡な大学生であった。

 ボンヤリと自転車を漕いでいたところ、角を飛び出し大型トラックと激突。

 敢え無く一巻の終わりであった。

 周囲に散らばった遺品から、被害者が彼だとすぐに判明した。

 しかし、血痕と血塗れの衣服は残されていたものの、肝心の遺体が見つからなかったのだ……。


 そして消えてしまった彼が現在どこにいるのかというと。



「も、もしかして勇者になれとか言うんじゃあ!?」


「誰がそんな無責任なことを言いますか。いきなり見ず知らずの人間に頼む事ではないでしょう。腕が立つかも分かりませんし。それくらいなら自分でやるほうがマシです」


 な、なんてもっともな意見なんだ。


「じゃ、じゃあ何を」


「貴方にお願いしたいのはもっと違うことです」


「な、何か危険なこと?」


「いえ、貴方自身には直接危険はありません」


 俺は気付いたら目の前にいた、この金髪の男と問答を繰り広げていた。


 今いる場所はヨーロッパの古城の広間のようなところ。壁際にはジロジロと俺を見る剣と鎧で武装した騎士達がいる。正面の大きな窓から覗く町並みも外国風。しかも電柱や車は全く見当たらない。

 広間の床に描かれた魔方陣らしきもの。その両脇に立つのは足元まで届く長いマントに杖、デッカい宝石の嵌った飾りを額に着けた美しい女二人。いかにもファンタジーなゲームに出てくる魔術師という姿だった。双子なのかそっくり同じ顔で片方は紫、もう片方は緑の髪。


 部屋には明かりのためかフワフワと蛍のように光る何かが周囲を漂っている。近付いて来たそれをよくよく見てみたら、光り輝く透き通る体を持った、羽根の生えた小さな少女だった。

 CGか!? 驚愕に動けないでいると、それはニコリと笑い小さな小さな手を伸ばして、確かに俺の頬を撫でたのだ。


 俺の頭に妖精、魔法、異世界などという単語が浮かんできた。


 そうだ。

 数分前に、目を覚ました俺に開口一番金髪男はこう言ったんじゃなかったか。


「申し訳ありませんが、事情があり貴方を我々の世界にお呼びしました」


 と。



 しかも、俺は何故か裸だった。白い薄いシーツ一枚をかけられていただけ。

 その状態で石でできた祭壇のような台の上に寝かされていたのである。身の危険を感じて逃げようと思っても全裸の俺対武装した男達では勝敗は明らかだ。


「あれ?」


 透けて見えないよう体にシーツを巻き直していたら、ドサリという音と共に何故かその金髪男がブッ倒れていたんだ。

 始めから顔色が悪いみたいだとは思ってたけど、急に倒れて……何だか死にそうじゃないか! 

 お、俺は何もしてないよ?

 騎士達が色めき立ったので、俺は何もしていない事をアピールするため両手を頭の上に置いた。


 側に控えていた執事風のヨボヨボのお爺さんが慌てて彼を抱え起こそうとしたが、力が足りず一緒にズルリと床に寝そべってしまう。

 見かねてやって来た騎士に助け起こされたお爺さんが言うには。


「ええと、オーシー殿でしたかな? いきなりの事で混乱しているとは思いますが」


「オオイシです。確かに混乱はしてるけど。あの、彼は急にどうしたんですか? 持病の癪か何か? あと俺の服はどこに」


「覚えておらんのですか、無理もないですが。貴方はここに来た時は岩にでも潰されたような死ぬ寸前の大怪我だったんですぞ。それを若様が強力な治癒魔法で治したのです」


「へ?」


 そういえば。

 大型トラックの大アップが目に焼き付いている。イヤホンをしたまま自転車に乗っていて、細い脇道から大通りに……。


「うわああっ!」


 じゃあ、あの後俺は撥ねられてからここに来たのか。

 トラックにブチ当たり、グシャリと体が潰れた感触を思い出したような気がして、一瞬で脳が冷え切った。思わず自分の両肩を抱くとガクガク震えているのに気付いた。体は覚えているのか。

 激痛の記憶が残っていないのは幸いだったと思う。

 しかし、見てみれば今俺がいる台の上にはベットリ血が付いていた。それじゃあこれは俺の血だったのか。あの道路はスピードを出す車が多くて危ない場所だった。しかもあんな大型トラックに撥ねられれば即死級の怪我を負っていたはずだ。

 まあボンヤリして飛び出した俺も悪いんだけど……。


 気絶したままの男を見る。この国の王子らしい。伸ばした金髪を後ろで結んでいて、今は目を閉じているので分からないが吊り上がった目付きと眉は、彼の厳しくてキツい性格を如実に表しているようだった。

 しかし、彼は俺を助けてくれたらしい。

 格好はズボンに白いシャツ、ジャケット。体にピッタリで仕立ては良さそうだが、ちょっと地味だ。王子ってもっと煌びやかな衣装かと思っていた。

 年齢は……。俺より少し上。そのくらいだろうか。


 お爺さんは彼の額をハンカチで拭うと、心配そうに目をしょぼつかせ……ポロリと涙を零した。


「瀕死の貴方を救うため若様は強い力を使い過ぎてしまいました。もしかしたら、その代償にもう魔法は使えない体になってしまったやも……いやひょっとしたら、ご自身の命まで削ってしまったかもしれません」


「ええっ、そんなぁ」


 命を削る!?

 じゃあ、この人はいきなり大怪我を負って現れた、見ず知らずの赤の他人の俺を救うため、そんな危険を冒して魔法を使ってくれたと?

 荒い呼吸、真っ青な顔と額を流れる冷や汗を見ては嘘とも思えない。


 この人は俺の命の大恩人じゃないか!

 な、なんて良い人なんだ……。

 性格キツそうなんて思ったことを心の底から謝った。


「うっ、余計な話をしないでください……別に恩を着せるためにやったわけではありません……!」


 気が付いたらしく、苦しげな声でそう言う。

 何というツン良い人発言っ……!


 俺とお爺さんは彼を両側から支え、近くの椅子に座らせた。

 その頃になってようやく、騎士の一人が薬らしい液体の入ったコップを持って来た。遅過ぎるぞ!

 薬を飲み、しばらくすると落ち着いたらしく顔色も少し良くなってきたようだ。


「はあ。それでですね……やってもらいたい事というのは」


「はい、俺で役に立てそうなことならっ!」


「な、何ですか、急に気持ち悪いですよ。あまり近寄らないでください」


 王子は眉を顰め拒絶の意を示してきた。気合が入り過ぎたようだ。一歩下がった。


「では改めて。この国には魔法装具と呼ばれる特殊な兵器があるのです。貴方には、それを使いこなせる力を持った人材……多くは女性、それも歳若い少女であると伝えられているのですが、彼女達を探し出して欲しいのです」


「魔法……少女を……スカウトしろって?」

読んでいただきありがとうございます。誤字脱字等ありましたらご指摘いただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ