王子、召喚の儀を仕切る
朝の陽射しの中を見慣れた甲冑姿を探して歩いていた。昨夜からの戦闘で辺り一面は酷い有様だ。
煙を避けて進むと、瓦礫に寄りかかるようにして立っている全身を鋼で包んだ人影を見つける。
「キリィ、すみません。ついさっき王都からの伝令が届きました。二週間後の召喚の儀に立ち会うために戻って来いと」
「ジーク。やっとやるのか儀式。上手くいきそうか?」
私の声に、カシャンと具足を鳴らしてキリィがこちらを向いた。銀に輝く鎧が汚れている。顔も仮面のような面当てに覆われているので、表情は全く窺い知れない。
声の感じで疲れていそうだ、くらいのことは感じ取れるが、他の兵達同様夜通し戦っていたのだから当然だろう。
「他の国はとっくに行動を起こしているというのに……。儀式の成功率はもうここまで来ていれば十分でしょう。その間キリィに防衛を任せることになってしまいますが」
「ヘーキだよ。これくらいなら俺一人で。まあ、索敵出来ないから後手に回るしかなくなるけどさ」
手甲を嵌めた手を軽く振って何でもない、というような仕草をする。
「可能な限り早く合流出来るようにします」
「いいって。そっちのが重大なんだからしっかりやんなよ」
キリィに挨拶を済ませると、すぐさま王都に向かって馬を走らせた。
全く、少しでも危険なことは私にやらせようとする。だが、それくらいの価値しかないのは自分自身でもよく分かっていたが。
ここから王都まで戻るのに一週間はかかるし、準備だって一から私にやらせる気だろう。腹が立った。
過ぎて行く周囲の景色は元は家々が立ち並ぶ平和な農村だったのが、今では半数以上の家は崩れ、荒れた畑では遺体が焼かれる煙が立ち上っている。昨夜の戦いの跡だ。
奥歯を噛み締める。敵の強さを侮っていた。
……いや、こちらの戦闘人員が少な過ぎるのだ。
現在この国で一番被害が激しい場所がこの地域だが、これからもっと各地に拡がっていくだろう。
早くこちらの迎撃態勢を整えなければならない。
二年前、おそらく最初に被害を受けた一つの村が消えた。辺鄙な土地だったので襲撃の情報が広まらず、援軍も呼べなかったのだ。そんなところが他にもあるかもしれない。
猶予はない。いいや、最早手遅れと言ったほうが正しいのだろう。
城に戻ってから約一週間。許しがたい出来事により私は唯一人で召喚の儀を取り仕切ることになり多忙な日々を過ごしていた。そうではないな、おそらく事態が落ち着くまでずっと、になると思う。
すぐに儀式の予定日を迎えた。魔術師団でもっとも召喚魔法に長けた者達に儀式を行わせるが、さすがに異世界から人間を召喚するのは通常の魔法とはわけが違う。汗ビッショリになって長い詠唱をし、膨大な魔力を注ぎ込んでいた。
そして召喚の儀式自体は無事に成功した。
しかし魔方陣の中心に置かれた祭壇の上に現れたモノは――血塗れの肉塊だった。
それはベチャリ、と嫌な音を立てて祭壇の上に転がる。ドクドクと溢れる真っ赤な液体がすぐに広がっていく。
ヒュウと空気の漏れるような音が呼吸音だと気付いた。
頭髪や血で汚れた指の形などからコレが我々と同じ人間だとも。
手足が折れ曲がり、赤く塗られた壊れた人形のようだった。
このままではすぐに死ぬ。むしろよく即死しなかったものだ。
状態から見て私の手に余ることは明白だが、他所から治療師を呼んでいては到底間に合うまい。
ならばやることは決まっている。
「アレイト、ミレイト、術式の補助を! 最高位の治癒魔法を施します!」
読んでいただきありがとうございます。