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寿命屋  作者: 悟史
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ある兄妹の場合(その1)

 東京の下町に有る5坪程度の小さなお店。店の看板には、『寿命屋』という看板が掛けられており、看板の隅には小さく『余命取引所』と書かれていました。そしてその店の奥には赤い服を着て、黒くて小さなメガネを掛けた男性の老店主が一人で座っていました。

「お客さんは今日も来ないかな。まあうちに客が来ても面倒臭いだけなんだがな」

店主はいつも一人でこう呟きながら新聞を読んでいます。しかし彼の願望は直ぐに消えました。

「すいません。お店やっていますか?」

一人の若い男性が店の中に入ってきて言いました。

「一応やってるけど、ココでどんな商売やってるか知ってるのかい?」

若者は一旦外に出て、店の看板の隅を見てから、戻って確認するように店主に言いました。

「余命取引…ですよね?」

その言葉を聞いた店主は無言で頷きました。

「意味は良く分からないのですが?占いの店ですか?」

若者は尋ねました。すると店主は首を軽く横に振った後で答えました。

「そんな当たるかどうか分からないものじゃないよ。文字通り君の余命を調べてそれを現金で取引する。君の余命を減らせば減らした分だけ君にお金を与える。反対に余命を増やしたければ俺にお金を与えれば増やせるさ」

首を傾げる若者を気にすること無く店主は話を続けました。

「無論増やせる分も減らせる分も限度が有る。具体的には最大まで寿命を減らした場合でも最低24時間は生きている。増やす分も最大120歳までしか増やせないよ。後どっちにしても取引内容に応じた手数料を頂くよ」

若者は考えました。この店主の言うことは本当だろうか?そもそも命の長さを金銭取引で簡単に増やしたり減らしたりして良いのだろうか?そして何よりも一体どうしてそんな事が出来るのだろうか?その他様々な疑問が若者の頭に過ぎりました。悩む若者を見て店主は口を開きました。

「君の名前は大江博嗣おおえ ひろつぐ君か、24歳で最近アルバイトを始めたようだね」

店主のその言葉に若者は非常に驚きました。

「なんで知ってるんですか…。どこかでお会いしましたか?」

店主は首を横に振ってこう言いました。

「初対面だよ。君のバイト先の飲食店…新宿駅から少し北に行ったとこにあるファミレスで俺が食事したことはないし、二つ離れた君の妹が昨日自転車で大学に行く途中に事故を起こして怪我したって事も、今さっき君を見て知った内容だ。」

若者はますます驚きました。名前を知っているばかりか自分のバイト先、そして自分の妹が昨日自転車で学校に行く途中に事故を起こしたという、まだ友達にすら教えていない事柄を、偶然入った『寿命屋』という変な名前の店の店主が知っていたのです。もちろん若者がこの街の有名人というわけでは決してありません。

「驚いたかい?まあ寿命を取引できる俺からしたら、人の顔を見てその人に最近起こった出来事を当てる事は朝飯前だ。何故そんなことが出来るかは教えられんがな」

店主は得意気にそう言うと軽く笑いました。

若者「本当に取引できるんですか?」

若者は念を押す様に言いました。店主はこれから彼がどんなお願いをするのかを見抜きました。彼の妹は怪我とは言いましたが、その内容は非常に深刻でした。店主は確認するかのように若者に言いました。

「君の妹は確か両足骨折に加えて、自転車から飛ばされた時に胸を強打してるね。内蔵にも深刻なダメージだった。幸い一命は取り留めたが、内臓へのダメージが原因で長くはないね」

若者は俯いて小さく「はい」と答えました。

「念のため妹さんの名前を確認するが大江香菜おおえ かなであってるね?」

若者はさっきと同じ状態で「はい」と答えました。それを聞いた店主は椅子の後ろからタウンページ並みの大きさの本を取り出して何やら調べ始めました。そして深くため息を付いた後、若者に申し訳無さそうに言いました。

「今調べ終わったよ。君の妹さんは残り一年で死を迎える。取引したら増やせるんだけど…」

店主が続きを言いかけた時、若者は店主の目をしっかりと見て言いました。

「僕の寿命は残りいくらですか?それの半分でも良いから妹にあげたいんです」

店主は悲しげな顔をして言いました。

「申し訳ないがそういうシステムじゃない。寿命は人によって価値が違うから例えば君の半分の寿命貰っても、君の妹さんの寿命をその分だけ増やすってことは出来ないんだよ」

再び首を傾げ始めた若者に対し、店主は一例を上げて答えました。

「例えば君の残り寿命の半分が20年で、分かりやすいように一年で50万円の価値があるとしよう。つまり君は20年という寿命を1000万円で売ったことになる」

「しかし妹さんの寿命を一年伸ばすのに1500万必要だったら…分かるかね?」

若者は頭で軽く計算した後に言いました。

若者「一年も増やせない…」

店主「あくまで一例だ。君の残り寿命とその価値を調べてないからね」

若者「それは今調べれますか?ついでに妹の分も…」

店主「分かりました。調べましょう」

店主は再びさっき見た分厚い本を手に取った後で、若者とその妹の命の価値を丹念に調べました。そして若者の目を見て結論を言いました。

店主「君の残り寿命は50年だ。一年当たり100万で売ることが出来る。妹さんは一年当たり300万で増やせる」

若者「僕の寿命三年分で、あいつ(妹)が一年長く生きることが出来るのか…」

店主「そういう結果になったね。半分使うとすれば25年だが、単純に24年君の寿命を売れば8年長く生きれる事になるね」

若者はふと思ったことを店主に尋ねました。

若者「僕の寿命はどれくらいで増やせるのですか?」

店主「今のところは売値と一緒だよ。勿論この先いろんな事が起これば買値も売値も変化するけどね」

若者「それって安いですか?」

店主「アルバイトだからね。普通の正社員だったら一年あたりの売値は倍ぐらいだよ。買値も2~3倍するけどね」

若者は妹の事とは別の真実にガックリと肩を落としました。

「まあ、まだ50年有るしこれから先いい事あるから頑張って生きなさい」

店主は若者を励ましました。しばらくして若者が立ち直ったのを見ると店主は本題に入りました。

「で、取引するのかい?今なら手数料を負けとくよ」

若者は考え、しばらく考えた後店主に言いました。

「24年分売る。そして妹を8年長く生きさせてくれ」

今度は店主が首を傾げた。

「別にいいが妹さんと相談しなくても良いのかい?契約自体は三等親までで、且つ契約する人が寿命を減らす場合ならば、事前相談は不要なんだけど」

若者はハッとした。そういえば妹には何も相談してないし、そもそもここに立ち寄った理由が休日に散歩してたら偶々見つけた変なお店だったから入っただけである。

「妹と相談してきます」

そう言うと若者は店を出ようとした。すると今度は店主が止めた。

「気をつけな。何か大きな事があったら売値も買値も大きく変わっちまうからな」

若者は大きな声で「分かりました」というと自分の妹がいる病院へ走って行きました。


 


























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