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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『ルシオラ』

作者: 神楽 凛

「おお、やっと成功したか…!」


男は歓喜した。

薄暗い研究室の中、白衣をまとった男を照らすのは紫色の光。

その光は、男の前にあるカプセルから発せられていた。


成人男性が1人は入れるほどの大きさのカプセルは、紫色の液体で満たされている。

そのカプセルは5つ。


すべてのカプセルに、人間が1人ずつ入っている。


「さぁ、体内組織は強化し終えた。…これで、サイボーグなど敵ではない」






--------*





断末魔の叫びーー否、それは人間の叫びだった。


「なんでいきなり…!?」

「知らない!モンスターは、我々との共同生活をしてきたじゃないか!」


男性2人は悲鳴に近い声で会話をし、後ろを振り返る。

男性たちの街は、大きな爪を持った四足歩行の怪物に壊されていた。

その怪物は1体ではない。体長2mほどあるものは1体だが、狼に似た体躯のものが10体ほどもいる。


「モルヴ…あいつ、街を崩壊させる気か!?」


モルヴという2mほどの巨大な怪物は、鋭い牙のある口を開けて咆哮した。


「とにかく、俺の家族を助けねぇと」

「は!?何言ってんだおまえ、正気か!?」


1人の男性は、モルヴの方に向かおうとした友人の肩を掴んで、走り出そうとする彼を止めた。


「おまえだって、家族がいるだろ!?1人だけで逃げる気かよっ!」

「逃げるわけじゃない!武器を持たずにどうやって助けるんだ!しかも、モルヴだけじゃない、ウルーもいるんだぞ!」


突然、ガラスが砕け散る高音と更なる悲鳴が聞こえる。2人は一瞬そちらを向いた。


ウルーとは、狼に似た体躯で、赤い体に長い尻尾を持つのが特徴のモンスター。

人に懐きやすい性格のため、多くの家庭で飼われていたのだ。しかし、今やそれが仇となっていた。

可愛げはなくなり、もはやよだれを垂らして人間を襲うことしか考えていない鋭い目をしていた。


「でも、武器は家だ…モルヴに向かってくしか、方法はーー」

「あなた!助けて!」

「!!」


金切り声がした。

1人の男性の妻だ。心臓が止まるかと思うほど愕然とする。

それもそのはず、目に飛び込んで来たのは、彼の妻と子どもがモルヴとウルーに囲まれて逃げられない光景だったからだ。


「やめろぉぉ!!」


友人の手を振りほどいて駆け出そうとするが、その彼の前にも4体のウルーが立ちはだかる。

関係なしに走り抜けようとするもウルーは彼の足に噛み付いた。


「ぐっ…!」


倒れつつ目にしたのは、モルヴが彼の愛する妻と子どもに向かってその大きな爪を振り上げている姿。


どさっと音がして、地面に倒れこんだとわかる。

一瞬目を瞑ってしまった。

だがすぐに、悲惨な光景が広がっていないようにと祈りながら顔をあげる。


赤い液体が舞っている。血が飛び散ったと気づくのはすぐだった。

幸運なことに、それは彼の妻のものではない。

モルヴが悲痛な叫び声をあげる。


「おっとぉ?いくらなんでも、飼ってくれてた人間を襲うことはないよねー」


血はモルヴの左前足が切られたことによるものだった。

妻とモルヴの間に立っていたのは、金色の目を持つ青年。

青年の右手には、その背丈よりも長い、槍のような武器が握られている。槍の先には三日月の形をした刃がついていた。


ホッとすると同時に、今度は自分の身が危ないことにも気づく。

ウルーに襲われてしまう、そんな危機を感じてうつ伏せに倒れた体を仰向けに変えると同時に銃声がした。


自分はまったく危機感を覚える必要などなかった。

ウルーの死体が転がる地面から、自分に影を作っている人物を見上げる。


「大丈夫?」


少女はにこやかに笑う。その一言と差し伸べられた手に、男性は安堵するしかなかった。

彼の友人も無事だった。


彼の妻がいる場所では、モルヴが脚を切られたことに怒り、青年に噛み付こうと怒号する。


「ったく…感情的になると周りが見えなくなるのは、人間もモンスターも一緒なんだな」


噛みつかれるかと思いきや、その手前でモルヴは倒れた。

胴体が真っ二つに斬られていて、その間に少女が見えた。

青色の髪が綺麗な、同じく金色の目を持つ女性。


青年は槍を肩に担いで、まったく表情を変えない少女を横目で見て口角を上げる。

少女がモルヴを斬った細い長刀をピッと振れば、地面に血痕が刻まれた。


「さっすがフィーネ」

「…まだ、終わってないよ。ゼン」

「お?」


青色の髪の少女ーーフィーネは、槍を担いだ青年ゼンに忠告し、ウルーに噛まれた男性の方へと走る。


男性は栗色の髪の毛で丸い目の少女に助け起こされていた。

優しく笑う美人な彼女はシェイラ。

右手には小型の銃を持っている。その銃で、ウルーを倒したのだろう。


「シェイラ、その人たち守っててね!」

「りょーかいだよ!フィーネ!」


シェイラが答えたその時、男性の後方には黒の装束に身を包んだ人が現れる。鈍く光る刀は、罪のない人間の首を切り落とそうとする。

だが、フィーネの方が一足早い。

長刀で防げば、黒の装束はそれを弾いて飛び退く。


フードまでかぶってはいるが、見えている顔から男だとわかる。


「あなた、サイボーグ?」

「…聞かずとも、わかっているだろう?」


フィーネが話しかけた人物は、黒い装束を脱ぎ捨てた。出てきたのは、“外見は”人間であった。

防弾チョッキを着て、軍服のような姿をしている。

だが、目は赤く光り始めた。


「もちろん」


フィーネが答えるや否や、サイボーグは地面を蹴り、距離を縮める。

乾いた金属音が戦いの始まりを告げた。

サイボーグは手が早い。フィーネは応戦しているが、反撃はしない。


「お、おい、あれは何なんだ…?」


震える声で、男性はシェイラに聞く。

不安げな表情をしている男性とは裏腹に、シェイラは微笑みを崩さない。


「あれは、改造人間ーーいわゆる、サイボーグなの」

「サイボーグ?」

「そ。あいつらが、モンスターたちに人間を襲わせるようにしたのよ」

「え…」


男性は何も答えられなくなり、フィーネと戦っているサイボーグを見た。

フィーネは相変わらず防戦のように見える。


「君、あの子を助けなくていいのか!?」

「大丈夫。フィーネはね、今様子見てるの」

「は?」

「ほら、そろそろ仕留めるよ」


シェイラの言葉どおり、フィーネはサイボーグの刀を受け流し、男の近くに踏み込んだ。

そうすれば、彼女の長刀はサイボーグの上半身と下半身を両断する。


「ねっ?フィーネは一般の機械兵になんて負けるような雑魚じゃないんだから」


鮮やかな勝利に、シェイラに返す言葉が見つからず、男性は口を半開きのまま見惚れていた。


「うわぁ!」

「!」


しかし、その後ろで悲鳴が聞こえる。彼の友人だ。

みなそちらを向けば、友人はもう1人のサイボーグに捕らわれていた。


「まじかよ…」


ゼンは急いで槍を構えるが、サイボーグの頭を射抜いた矢を見て言霊を紡ぐのをやめた。

そして、怯んだ機械兵は横腹に打撃をうけて崩れ落ちた。


「ユール!カルナ!」

「ゼンってば、僕の存在忘れてたんですかー?失礼な」

「俺だっているだろうがよ!」


ユールは小さな少年で、家屋の2階のベランダから弓で矢をはなったらしい。

口が悪く、目つきの鋭い青年はカルナ。サイボーグをメイスで殴って崩れ落とした。


カルナは壊れて動かないサイボーグの心臓部分に手を突っ込む。

そこから緑色に光る雫の形をした何かを取り出す。

すると、サイボーグの目から赤色の光が消えて二度と動くことはなかった。


「よっしゃぁ!任務完了だぜ!」


カルナの元気な声に、他の4人は安堵した。

ユールが家屋から飛び降りてくれば、5人が男性2人のところに集まった形になる。


「あなた!!」

「無事でよかった」


駆け寄ってきた妻と、危機を救われた夫が抱擁すれば、その場は和やかな雰囲気。

5人は顔を見合わせて、立ち去ろうとした。


「あっ、ちょっと」


気付いたのは、夫婦ではない方の男性。


「あなたたちは、何者なんです…?」


歩を止めたフィーネは少し空を見上げて微笑む。それから、男性の方に振り向いて言うのだ。


「私たちは、『ルシオラ』ーー“蛍”です」

「蛍…」

「絶望の中に希望の光を灯す、そんな仕事ですよ」


誇らしげな彼女たちに、3人は何も言うことができなかった。


去っていく5人の後姿を、見えなくなるまで某然と立ち尽くすのみ。



のちに彼女らは有名になる。

“希望の光”としてーー





いかがでしたか?

これはちょっと設定を変更して、長編として連載しようと思っている作品です。


設定変えるので、長編とはあまり関係のない作品となりますけどね(笑


この短編でも伏線を張りましたので、長編で回収していきます♪

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