東雲玲の場合
東雲玲の場合 ――妹を愛して何が悪い。
妹、桜子はかわいらしい女子高生だ。
長い黒髪。もちろん染めた事などない。そんな無粋な事をしなくても、桜子の髪はまるで極上の漆器のようにつややかだ。色を入れる必要性など、どこを見てもあるものか。
色の白い肌と細い指先。そこにある形の整った爪。
少し小柄で童顔で、本人はそこを気にしているようだが問題ない。
桜子はどんな姿であってもかわいらしいのだから。
……まぁ、多少細身のほうが個人的には嬉しい。いや、やましい意味はない。やせすぎは問題だが適度にスレンダーな方が、より健康的に見えるような気がしているだけだ、うん。
あぁ、桜子は本当にかわいらしい。
本当に目に入れても痛くない。痛くないぞ。
仕事で不在がちの両親に代わって弟の慧と二人、大切に大切に守ってきた。そのかいあって桜子はとてもまっすぐで純真に育ち、どこに嫁にやっても問題が起きない娘に育ったと思う。
……いや、嫁にはやらない。
もうちょっと、もうちょっとだけお兄ちゃんの傍にいてほしい。
今日も朝からかわいらしいぞ桜子。この二年間で見慣れたつもりだった制服も、お前が着るとぜんぜん違う服に見える。あぁ、あと二年ほどしか制服姿を見れないと思うと寂しい。
桜子。お前がまっすぐに育ってくれて、俺も慧も父さん母さんも嬉しいんだ。
しかし、友人はちゃんと選べ。例えば天椎姉妹。
あの二人はダメだ、特に姉がダメだ。
大切な妹が百合世界へ行ってしまうのは悲しい。どこかの男に嫁にやるのも辛いが、かわいい姪や甥が見れると思えば涙を呑んで、俺はこの心の痛みと寂しさに耐え続けてみせよう。
でも相手が女性では子供が……だからダメだ。
それならずっと俺の傍にいてくれ。
「……」
何か用事があるのか慧。こっちをじーっとみて。
「玲、少しは落ち着け。目が血走ってる。あと会長らしく仕事してくれ」
なんだ、朝っぱらから藪から棒に。
犯罪者予備軍を見るような目で俺を見るな。
あと仕事をしていないかのような言い方はやめろ。
確かに放課後、生徒会の活動の合間に桜子に関する資料にも目を通しているが、それは家では本人に気付かれてしまう可能性があるからだ。
生徒会室なら、家庭科部の桜子はまず来ないからな。
……いや、別にやましい資料ではない。
ただ妹を愛するがゆえに、どうしても心配なんだ。
よこしまな感情を抱く輩の接近など許さない、痴漢などもっての他だ。
いいか慧。
妹を守る事こそ、兄として生まれた者の――。
「俺は自分の兄を警察に突き出すような事はしたくないんだ」