魔法使いと弟子〜 弟子がくるちょっと前の話〜
淋しかった。
あの頃の自分はそんな感情に支配されていた。
自覚はなかったけど。
確かに自分は「淋しかった」のだ。
『こらっ!掃除をサボルなぁ!』
魔法の失敗で偶然水鏡に映った見馴れぬ光景。
それが自分の住む世界とは別の世界だと気付くのにさほど時間はかからなかった。
『誰が鬼婆ですってぇ〜〜〜!もう、怒ったっ!歯ぁ食いしばりなさい!』
十四、五歳ぐらいの子供たちが集められた見慣れぬ建物の中で一際目立つ一人の少女。
気の強そうな瞳。怒り狂って上気した頬。
全身全霊で「生きている」と言わんばかりに生気に溢れた少女が酷く彼の心に残った。
日々うつろいゆく季節の中で水鏡は異世界の少女の姿を彼に見せる。
『ちょ!大丈夫!!』
ずっと見ていると少女が責任感が強く、困った人を放っておけない酷く善良な人間であることがわかった。
『そっかぁ・・・よかった』
ほっとしたような笑顔。
決して自分には向けられることのない笑顔にどうしてだか胸が騒いだ。
もしも。
有り得ない考えが頭の隅からひょっこりと湧き出て来た。
もしも、彼女が自分の側にいてくれたら。
きっと凄く、楽しい。
あの声で顔で全身で生きている少女が自分に笑ってくれたらそれだけで自分も「生きている」と感じることができるだろう。
「・・・あ・・・たい・・」
久しぶりに零れた言葉は掠れて水鏡に消える。
君に逢いたい。
魔法使いは寂しかった。
何故、寂しいのか理由すらわからなかった。
だけど彼は気付かないまま側にいて欲しいと思える少女をみつけた。
側にいてほしくて、ただ、笑って欲しく、それだけだったのに。
彼は何も気付いていなかった。
その想いは罪ではない。
だが、彼が行ったことは・・・確かな罪だったことに。
「私の側に・・・いて」
寂しい魔法使いは魔法を使った。
大きな大きな魔法。
彼の他には誰も使えない魔法。
彼自身も二度と使えない魔法。
己の罪に気付かずただ、側にいて欲しかった。
己が罪を彼はまだ、知らない。