↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

そのまま

番外編 1-0

作者: こまこま
掲載日:2026/05/21

本編1-1の直前 昂汰視点

8/4内容を大幅に編集し直しました

リーグ優勝が決まった夜。


ずっと決めていた。

“優勝”

それを手にできたなら、

その時は。


沸き立つチームメイト、

スタッフを掻き分けて

やっと見つけた彼女の腕を捕まえた




別に急かすつもりはない。


(まぁ、すぐじゃなくてもええか)


そう思ってたのも事実だった。


変に構えさせるより、

ちゃんと落ち着いて返事くれた方がええ。


きっと、あの子はそういうとこ、ちゃんとしてる。

だから俺も、

いつも通りに戻った。


──自信が、あった。




「オフなったら、ちゃんと話そか」


そう言った時の彼女の顔は、

いつも通りやった。


困ったように笑って、

少しだけ視線を逸らして。


照れてるだけ。


そう思ってた。


――なのに。




オフになっても連絡が来なかった。


最初は気にもしてへん

忙しいんやろ、くらいで


でも

連絡が来ない

既読もつかない

そんな日が続いて。


余裕があるふりを、

していられなくなった…



(…いや、ないやろ)


それはない。

だって、この前まで普通やった。


ちゃんと目も合ったし、

いつも通り笑ってたやん


焦る気持ちを抑えるように

自分に言い聞かせる





荷物を取りに寄った球場で

スタッフに声をかけられる


「昴汰さん!詩ちゃん辞めたって、本当ですか?」


一瞬、意味が分からんかった。


「……は?」


「今シーズンで辞めたって」

「みんなが言ってて」


辞めた?

は?

――いや、待てや。

そんな話、聞いてへん。


一気に血の気が引いていく

背中を冷や汗が流れた。




最初に聞いたのは球団。


「栄養士の詩さん、今どこ?」


広報が一瞬止まる。


「えっと……契約終了で、退職扱いですけど」


「理由は?」


「一身上の都合、としか」



次は現場。


一緒に仕事してたスタッフ、

トレーナー、

若手の栄養管理担当。


誰に聞いても同じや。


「急やったな」

「なんか体調悪そうやったな」

「詳しくは知らん」


体調。


その言葉だけが引っかかる。


(そんな悪かったんか?)


いや、たしかに。

前からちょっと、無理してる感じはあった。


顔色悪い日もあったし、

休憩長い日もあった。


でも

“いなくなる”ほどやったんか…?


気づいたら、

その日のオフ全部潰してた。


病院。

施設。

過去の帯同先。


名前出して回る。


「詩っていう栄養士、どこ行った?」


でも答えは薄い。


「さあ……最近は見てませんね」


それだけ。


どこにも“続き”がない。

途中で消えたみたいやった




夜になって、

車の中でようやく一息つく。


スマホの画面

彼女の名前が映し出されている


焦りと苛立ちと

どうしようもない、不安


(…返事、まだやぞ)


待つつもりやった。

急かす気もなかった。



でも。

間違えたのか…?

なにを見落とした?



答えが欲しくて

指を滑らせたのに


何度鳴らしても応答はない


“どういうつもりや”

“なに考えてんねん”


次々と詰るような言葉が浮かぶけど、

本当に一番近いのは、多分。

“怖い”やったと思う


俺は、

彼女を失ったのかも知れない。と




その夜。


結局、もう一度球団に戻る。


遅い時間。

事務所の灯りだけが残ってる。


「もう一回だけ聞かせてくれ」

「ほんまに何も聞いてへん?」


広報の男が、困ったように息を吐いた。


「昴汰さん、……何も聞いてなかったんですか?」


その言い方が、

逆に胸に引っかかった。


「聞いてへん」


短く答える。

嘘でもなんでもなく、それしかない。


「詩さんの件は……現場の引き継ぎも、全部“通常退職”扱いで」

「体調面も含めて、一身上の都合で」



体調。

その単語がまた出てくる。


「どのレベルの体調や」


「それは……

昴汰さんの方が知ってるのかと」


「…え?」


“結婚でもするのかと思ってました”


その言葉で、ようやく分かる。

誰も“隠してる”わけじゃない。

ほんまに“知らんまま”終わってる。




帰り道。


車の中で、信号待ち。

窓の外、なんでもない夜景。


「……意味わからんやろ」


誰に言うでもなく。

ポツリと、落ちた。




数日後。


昴汰はソファにもたれたまま、

ぼんやり天井を見ていた。


探しても見つからない。

連絡も返ってこない。

居場所も分からない。


だけど


あの日の会話。

表情。

間。

視線。


やたらとはっきり彼女が浮かぶ。


笑ってたのに、

ちょっと下がった眉が

悲しそうにも見えた


なのに、

“返事待ってる”とか言って、

浮かれてた。


「……アホや」


本当は、あの時

なにを考えてた?


俺は、なんで聞かなかった?


両手で顔を覆う。


怖かった。


見つからないことが、

こんなに怖いなんて思わなかった。


怒りでも、

執着でもない。


「……頼むから」


掠れた声。


「無事でおってや……」





窓の外は、もう朝が近かった。


ほとんど眠れていない。


スマホを握ったまま、

昴汰はソファに深く沈んでいた。


ぼんやりとした思考の中


また、

思い出す。


あの時の顔。


「……一人で決めんなや」

「まだ答え聞いてへんぞ」

掠れた声で呟く。


怒っているようで、

泣きそうな声だった。


一緒にいたい。


条件も、

未来も、

全部飛び越えて。


ただ、

彼女が隣にいてくれたらいい。


そこまで考えて、

昴汰は小さく笑う。


「……ほんま、参った」

“まじでわからん”




昔なら、

こんなふうに誰か一人で、

ここまでぐちゃぐちゃになることなんかなかった。


でも今は。


会いたかった。


なにがあったのか

知りたかった





…俺は。


2人に流れてた

あの時間も空気も


そしていつもの

あの、君の笑顔を


信じる



「…探すで、詩」


“ええやんな?”



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。