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鈴木の証言②

――大事な話があるので、金曜日の夜、十一時に品川にあるリバーシティ・ホテルに必ず来て頂戴。


 暁子が言った。時間にルーズな鈴木を心配して、何度も念押しされた。そして、ホテルに部屋を取ったら部屋番号を連絡するので、連絡先を教えて欲しいと言われた。携帯電話を持つ金がなかった鈴木は、「俺から連絡する」と答え、事件当夜、暁子に電話を掛けて部屋番号を聞き出した。

「最近、公衆電話って、なかなか無いもんだね」

 後日、鈴木の証言通り、ネットカフェ近くの公衆電話から、暁子のプライベート用の携帯に電話をかけた記録が確認された。

 そして、鈴木は案の定、約束の時間に遅れて、ホテルに現れた。

「暁子の部屋を尋ねた時、部屋のドアは開いていた」

 部屋はU字式のドア・ロックにより、ドアが完全に締め切らない状態になっていたと言う。

「部屋に入ると、ベッドの枕元のランプが点いていて、暁子がベッドの上に横になっていた。顔があちら向きだったので、待ちくたびれて眠ってしまったのだと思った。声をかけてみたが、返事が無い。それでベッドに近寄って、暁子を起こそうとしたんだ。そしたら・・・」

 ベッドの脇に回り込んだ鈴木は、暁子が虚ろな目を開けて、ベッドの上に横になっていることに気がついた。

 曉子は死んでいた。

「それで、どうしたんだ?」

「どうしたも、こうしたも・・・とにかくびっくりして、部屋を出たよ」

「救急車と呼ぶとか、警察に通報しようとは考えなかったのか?」

「警察? ああ、そうか――」

 元カノの遺体を発見して、救急車を呼んだり、警察に通報したりと言うことは全く考えもしなかったようだ。呆れ果てたことに、鈴木はホテルを逃げ出した。

 ホテルを逃げ出してから、またネットカフェを転々としていたが、金が底を突き、両親に無心の電話をかけた。

「あんた!増田さんの事件のことを知らないの? 警察ではあなたが増田さんを殺したんじゃないかと疑っているみたいで、あんたのことを探し回っているよ」

 鈴木の両親は、嫌がる息子を説き伏せ、付添って警視庁に出頭して来たと言う訳だ。

「俺じゃない。俺は暁子を殺してなんていない!」

 鈴木がうわ言の様に、そう繰り返すだけだった。


「先輩、どう思います? やつがやったのでしょうか?」と吉田が聞くと、「どうだろう」と竹村は歯切れ悪く答えた。

「鈴木が第一容疑者であることに変わりはないと思います。ホテルで男と密会していることを知り、ホテルに乗り込んで行って増田暁子を殺害した。そう考えれば、説明がつきます」

「そうすると辻褄が合わないところが出て来るぞ。鈴木はどうやって増田暁子が泊まっている部屋を知ったのだ? ホテルの従業員が、増田暁子の部屋番号を教えたりしないので、鈴木は予め七階に泊まっていた増田暁子の部屋番号を知っていたことになる」

「ああ、そうですね」

「増田曉子の携帯電話の通話履歴に、鈴木の証言通り、公衆電話からの着信記録が残っている。それにだ。増田暁子は、夜中に突然、尋ねて来た鈴木を何故、部屋に招き入れたりしたのだろう? 夜中にいきなりストーカー状態の元彼が尋ねて来たら、簡単に部屋に入れたりするだろうか?」

「そうですね・・・」

「俺の感だけど、鈴木と言う男、人殺しが出来るような人間には見えないんだけどな」

「はは、珍しいですね。人を見たら泥棒と思え――タイプの先輩が、感で犯人じゃないなんて言うのは」

「誰が人を見たら泥棒と思えタイプだ。俺は博愛主義者だよ」

「へえ~じゃあ、先輩。右の頬を殴られたら左の頬を差し出せますね」

「それは聖書だろう。でもな。右の頬を殴られるってことは、相手は左利きだ。するってぇと、こちらが右フックを繰り出せば相討ちになるはずだ」

「するってぇと――って、江戸っ子ですか⁉ 闘志満々で、全然、博愛主義じゃないですね」

「はは。俺は江戸っ子だよ。さて、吉田君。次の一手、どうする?」

「今のところ、進藤の証言にも不審な点は見当たりませんからね。進藤が部屋を出た二十時五十八分から鈴木が訪れる二十三時二十二分までの間に、暁子が殺害された可能性があります」

「ホシは別に居ると言うことか・・・」

「もう一度、エレベーター・ホールの映像を見直して、問題の時間に七階でエレベーターを降りた人間を洗って見ましょう」

「そうするか」

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