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鈴木の証言①

 鈴木の足取りを追ってみた。

 暁子の部屋を追い出されてからの鈴木の行方が掴めなかった。知人は皆、鈴木と暁子が別れたことを知らないようで、「暁子のもとに居るはずだ」と口を揃えた。

 鈴木の交友関係が徹底的に洗われたが、居所を知っているという人物は現れなかった。

「ネットカフェで寝泊まりしているのだろうな?」

 鈴木は歌手を目指していたと言うが、大事にしていたギターなどの楽器は暁子の部屋に置きっぱなしになっていた。友人、知人のもとに身を寄せておらず、引っ越した形跡も認められなかった。部屋を追い出された後、埼玉にある実家にも戻っていないので、ネットカフェをねぐらとしている可能性が高かった。


――虱潰しに当たるしかない。


 都内に数多あるネットカフェを、一軒ずつ調べるしかないと覚悟を決めて、竹村と吉田が聞き込みに出かけようとした時、鈴木が出頭して来た。

 何と、三十路の男が、何と母親に付き添われて、警視庁に出頭して来た。

「知り合いから警察が俺の居場所を尋ね回っていると聞いた。暁子が殺されて、どうやら俺が犯人だと疑われているみたいだったから、親に相談したところ、直ぐに警察に行った方が良いと言うことになった」と鈴木は出頭の理由を説明した。

 鈴木はスリムでスタイルが良く、なかなかの男前だった。無精髭が今時の若者らしかったが、鈴木の場合、売れない焦燥や生活の乱れが顔に出ているようで、売れっ子の歌手になるには、オーラが足りない印象だった。

「実家に刑事さんが聞き込みに来たみたいだけど、刑事さん、俺は暁子を殺してなんかいないよ。俺がホテルに行った時には、暁子は既に殺されていたんだ」

 取調室の椅子に座らされるなり、鈴木は開口一番、そう訴えかけた。

「先ずは、あなたと増田暁子さんの関係からお聞きしましょう。お二人はどういう関係だったのですか?」

「暁子は同じ高校の二コ下でした。帰り道が一緒で、途中にある公園で知り合いました」

 馴れ初めから別れまでは、進藤が暁子から聞いた話と大差は無かった。だが、別れ話になると、鈴木の証言は食い違って来た。

「俺の方から暁子に別れ話を切り出した。何時までも俺にくっついていたって、あいつは幸せになれないからな。あいつには幸せになって欲しかった」

「あなたの方から、別れ話を切り出したのですね?」

「そうだよ。そして、俺はアパートを出た」

「あなたが増田さんのことを付けまわしていたと言う話があるのですけどね?」

「俺が暁子のことを監視していたと言うのか?」

 鈴木の不貞腐れた様な返事を聞いて、竹村が強い口調で言った。

「監視? あなたは増田さんをストーキングしていたのではありませんか?」

「ち、違うよ。確かに、暁子のことが心配になって、こっそり様子を見て行ったことがあった。でも、俺はストーカーなんかじゃない」

 ものは言い様で、ストーキングをしていたことに変わりは無い。

「それで、最近、増田さんが誰か他の男と会っているところを見ませんでしたか?」

 竹村が呆れながら尋ねると、鈴木は、「見たよ」と答えた。

「見た!? 何時、誰と会っていたんだ?」

 竹村の声が大きくなる。頭から落ちて来るような大声に、鈴木が肩を竦めた。

「何時だったかは覚えていないけど、男と会っているところを見た。一度、いや二度かな。レストランで落ち合って、食事をしていた。暁子が先に来て待っていて、男が後からやって来た。そうそう、一週間位前だった。二人で何だか深刻そうな話をしていた。途中で男が怒って、席を立ってしまった」

「増田さんは、男とトラブルを抱えていたと言うことですね?」

「ああ、そうだ。あいつだよ。きっとあいつが暁子を殺した犯人だ!」

 竹村は興奮する鈴木を冷ややかに見つめながら、

「では、先週の金曜日の夜のことについてお伺いしましょう。何故、あなたは増田さんを訪ねてホテルに行ったのですか?」

「暁子に呼ばれたからだよ。ホテルに来て欲しいって伝言があったんだ」

 暁子のアパートを追い出された鈴木にとって、頼ること出来るのは家族だけだった。暁子に寄生して生きて来た鈴木には、働いて生活費を稼ぐと言う甲斐性が無かった。

 必然、金に困ると実家に泣きつくようになった。

「いい加減、真面目に働いたらどうだ?」

 鈴木の両親は口をすっぱくして言ったが、鈴木は、「もう直ぐメジャー・デビュー出来そうなんだ。もう少し、もう少しだけ待ってくれ」と虚勢を張り、「金を送ってくれ」と無心を続けるだけだった。

 何時もの様に実家に金も無心の電話をかけたところ、母親から「増田さんがあなたと連絡を取りたいと言って、家に連絡して来たのよ。彼女と一緒じゃないのかい?」と伝えられた。

 暁子と別れた話は親に言っていなかったが、ずっと音沙汰がなったのに、急に金の無心が始まって、薄々、察するところがあったはずだ。

「分かった」と鈴木が暁子と連絡を取ったのが、事件の二、三日前だった。

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