進藤の供述②
――やつだ!やつに違いない。
ホテルのエレベーター・ホールに設置されたホテルの防犯カメラの映像を調べてみたところ、犯行当夜、暁子が宿泊した七階でエレベーターを乗り降りした人物の一人が、進藤らしかった。
暁子の死亡推定時刻である午後十時二十七分に、七階でエレベーターを降りる進藤らしき人物の姿が記録されていた。そして、午後十時五十八分にエレベーター・ホールに再び姿を現した男はエレベーターに乗ってホテルを後にしている。
進藤が暁子の部屋を尋ねた証拠は見つかっていないが、同じ職場の人間が偶然、同じ日に同じホテルの同じフロアに泊まり合せた可能性は限りなく零に近いはずだ。進藤の家は北区西ヶ原にある。
金曜日の夜に、真っ直ぐに帰宅していないとすれば不自然だ。
竹村と吉田は、進藤を任意で出頭させ、取り調べを行うことにした。
銀行マンらしく、体にぴったりと合ったスーツを着て、進藤は取り調べに現れた。ほっそりとしてスタイルが良い。細面の顔立ちはいかにも女性にもてそうだ。進藤には不倫が似合い過ぎる程、似合っていた。
「先週の金曜日の夜、あなたは品川のリバーシティ・ホテルに行きましたね?」
「リバーシティ・ホテルですか? さあ、行っていません。金曜日の夜は、夜遅くまで残業して、仕事が終わってから、真っ直ぐ家に帰りました」
ホテルの防犯カメラの映像を押さえてあることを知らない進藤は、しらばくれて見せた。
「変ですねえ。これはあなたですよね? あなたの姿がホテルの監視カメラの映像に残っていました」
竹村は進藤の姿の映った防犯カメラの映像を印刷したものをテーブルの上に広げた。
「・・・」進藤は口を噤んだ。
テーブルの上に広げられた二枚の画像を食い入るように見つめている。エレベーター・ホールに設置された防犯カメラのことを知らなかったのだろう。
「これが、エレベーターを出て行くあなた。そしてこちらがエレベーターに乗り込むあなたです。どうです? たまたま増田さんが宿泊していたホテルに行って、たまたま増田さんが宿泊していた階でエレベーターを降りたと言うのですか?」
「・・・」進藤は黙秘を続ける。
どう言い訳しようか、必死で考えているのだ。
「ここに写っているのが、あなたでないと主張されるなら、それを証明することができますか?金曜日の夜は会社から真っ直ぐ帰宅されたそうですね。ご家族の方に確認を取っても宜しいでしょうか?」
竹村の追及に、「それが――」と諦めたように進藤が口を開いた。「家内は今、旅行に出ていて、家には誰もいないのです」
進藤は昨年、結婚したばかりで、子供はいない。進藤の妻は旅行に出ていて、留守にしていると言う。不倫をするには、絶好の環境にあった訳だ。
「それはまた好都合な」と言う竹村を、進藤が恨めし気に睨んだ。
やがて、諦めたように淡々と言った。「分かりました。ホテルに行ったことは認めましょう。増田さんがホテルで殺害されたと聞いて、怖くなって、ホテルに行っていないと嘘を吐きました。でも、増田さんを殺したのは私ではありません。増田さんから、『相談事がある。会社では話せないので、ホテルに来て欲しい。来てくれるまで待っている』と言われて、会いに行きました」
仕事終わりに暁子が進藤の席にやって来ると、顔を寄せて、「相談事がある」と言った。日頃から仕事の相談に乗ることが多かった。真面目だが、どちらかと言えば要領が良くない暁子は、退社してから、「すいません。書類をひとつやり残して、家に帰って来てしまいました」と仕事のことで、進藤に電話を掛けて来ることがあった。
――またかよ。
そういう時は軽口を叩きながら、進藤が暁子に代わって仕事の処理をした。だが、仕事ではなく、プライベートで相談があると言う。
「会社では話せません。品川にホテルを取りましたので、仕事が終わったら来て下さい。来てくれるまで待っています」と言い残すと、暁子は退社した。
暫くすると、「リバーシティ・ホテルの七○六号室に部屋を取りました」と暁子から電話があった。
「僕も男です。下心が全く無かったと言えば嘘になります。迷いましたが、増田さんの思いつめた様子が気になって、ホテルに寄ってから帰宅することにしました」
「増田さんと不倫関係にあった訳では無いと言うのですね?」
「ええ、僕らはそんな関係ではありませんでした」
「でも、ホテルに会いに行った?」
「増田さんには、学生時代から付き合った恋人がいたそうです」
進藤の言葉によれば、暁子には高校時代から付き合っていた恋人がいたと言う。名を鈴木麗王と言い、二つ年上、背が高く、涼しげな顔立ちをしたイケメンだ。
高校の文化祭で、自分で作詞、作曲をした歌を披露して、学校の人気者になった。同級生の女の子たちが熱を上げる中、暁子も密かに思いを寄せていた。
そんな二人の人生が交差する。
帰宅途中に夕日が綺麗に見渡せる公園があり、自転車通学だった暁子は、たまに公園に寄って、日が沈むのを見ていた。
ある日、夕日を見ていると、若い男がすべり台に寝そべっていることに気が付いた。麗王だった。すべり台のスロープに寝転がって、目を閉じ、眠っているかのように見えた。
寝ているのかと思った曉子は、麗王の顔をしげしげと見つめていると、「何、見ているんだ?」と麗王が目を開けた。
こうして二人は知り合った。直ぐに親しくなった訳ではない。何度か、公園で会話を交わす内に親しくなって行った。




