選べない答え
使者が来たのは、三日後だった。
王都の紋章を掲げた馬車が村に入った瞬間、空気が変わった。
ざわめき。
恐れ。
そして、避けきれない視線。
「星渡りが確認された」
使者の声は淡々としていた。
「王都にて、帰還の門を開く準備がある。期限は――七日」
七日。
短すぎる数字が、現実として突き刺さる。
「本人の意思は尊重される」
そう言いながら、拒否権などないことは明白だった。
その夜、ユウマとリリアは丘にいた。
第5章で話した、あの場所。
風が、少し冷たい。
「……七日だって」
ユウマが言う。
「はい」
リリアは頷いた。
それだけで、会話が途切れる。
「俺は」
言葉を選ぼうとして、やめた。
「……選べない」
リリアは、驚いたように目を瞬かせる。
「選ばなきゃ、いけないのに」
ユウマは、彼女を見る。
「帰れば、君を失う。
残れば、君を縛る」
どちらも、彼女を傷つける未来だった。
「それでも……」
リリアは、ゆっくりと首を振った。
「私は、縛られてなんていません」
ユウマの袖を、そっと掴む。
「ユウマさんが想ってくれた時間は……全部、私のものです」
その言葉が、胸を締めつける。
「だから、お願いです」
彼女は、微笑んだ。
「帰ってください」
涙は、なかった。
それが、余計に苦しかった。
「……嫌だ」
ユウマは、初めてはっきり拒んだ。
「君がいない世界に戻る理由が、もうない」
リリアの瞳が、揺れる。
「……ずるいです」
それでも、手を離さない。
七日間、二人は多くを語らなかった。
畑を歩き、
川辺に座り、
夜空を見上げた。
触れ合うことは、ほとんどなかった。
触れれば、結びついてしまうと、わかっていたから。
そして、七日目。
王都へ向かう馬車が、村を出る。
ユウマは、リリアの前に立っていた。
選べないまま、
それでも、答えを出さなければならない場所へ。
――星を越えるか。
――星の下に残るか。
馬車の扉が、静かに閉まった。




