星渡りの真実
目を覚ましたとき、天井が見えた。
また、同じ天井。
リリアの家の、客間。
――生きてる。
その事実に、まず安堵する。
「……起きましたか」
控えめな声。
視線を向けると、ベッド脇にリリアが座っていた。
目元が赤い。
泣いたあとだと、すぐにわかった。
「……心配、かけた」
「はい」
即答だった。
それから、少し困ったように笑う。
「でも……助けてくれました」
ユウマは、ゆっくり体を起こした。
「俺、あのとき……」
「光、出てました」
遮るように言われる。
「魔法でも、祝福でもない……でも、確かに」
リリアは、胸に手を当てた。
「“想い”が、形になっていました」
沈黙が落ちる。
否定できなかった。
「……俺にも、よくわからない」
正直な答えだった。
「ただ……君が危ないって思ったら、体が勝手に」
リリアは、しばらく考え込むように目を伏せる。
「……星渡り」
小さく、呟いた。
「やっぱり、そうだったんですね」
その言葉に、ユウマは眉をひそめる。
「知ってるの?」
「伝承、ですけど」
彼女は立ち上がり、棚から一冊の古い本を持ってきた。
黄ばんだ紙。
手書きの文字。
「昔、この地方に星渡りが現れたとき……記録を残した人がいます」
本を開き、ある一節を指差す。
「『星渡りは、世界に馴染まぬ魂。ゆえに力は持たず、ただ感情のみが世界と共鳴する』」
ユウマは、息を呑んだ。
「……俺の、力の正体?」
「たぶん」
リリアは頷く。
「強さじゃない。想いの深さが、世界に触れてしまう」
胸が、重くなる。
「それって……」
「はい」
リリアは、はっきり言った。
「私への想いが強くなるほど、ユウマさんは強くなります」
同時に、思い浮かぶ疑問があった。
「……じゃあ、帰る方法も?」
リリアは、少しだけ躊躇ってから、頷いた。
「星渡りには……“帰還の門”が開く、と」
心臓が、強く打つ。
「条件は?」
「感情が、この世界と完全に結びつく前に、門へ辿り着くこと」
――完全に、結びつく。
その言葉の意味は、痛いほどわかった。
「結びついたら?」
「……戻れません」
はっきりした宣告だった。
沈黙。
遠くで、風が鳴る。
リリアは、静かに続けた。
「門は、王都にあります。星渡りの力が確認された場合……国が、動くでしょう」
「……俺を、連れていく?」
「はい」
保護という名の、隔離。
そして、選択。
「ユウマさん」
リリアは、まっすぐに彼を見た。
「私は……あなたに、帰ってほしい」
胸が、きしんだ。
「……どうして」
「あなたの世界には、あなたの人生があります」
微笑みながら、言う。
「私は……ここに、残る人間です」
言葉は優しい。
でも、その奥にある諦めが、痛い。
ユウマは、何も言えなかった。
選択肢は、はっきりした。
帰るか。
留まるか。
どちらかを選べば、
もう一方は、失われる。
その夜、ユウマは眠れなかった。
リリアの言葉が、何度も胸を叩く。
――感情が、結びつく前に。
すでに、
遅いのではないかと、
薄々、気づきながら。




