それでも君を想う
離れたところで、想いは消えなかった。
むしろ、距離ができた分だけ、はっきりと形を持ってしまった。
ユウマは村の外れで、簡単な見張りの手伝いをしていた。自警団に正式に入ったわけではない。ただ、人手が足りないから、という理由だった。
剣を振るうたび、息が乱れる。
身体能力は高くない。才能もない。
――それでも。
「……リリア」
名前を呼ぶだけで、胸の奥が熱くなる。
その感情が、奇妙な感覚を連れてくることに、ユウマは気づき始めていた。
集中した瞬間、視界が澄む。
踏み込みが、ほんの少し速くなる。
「気のせい、か……?」
否定しきれなかった。
その日の夕方、嫌な知らせが村に届いた。
近くの街道で、魔物が出た。
しかも、治癒師を狙った、という噂。
ユウマの思考は、そこで止まった。
「……治癒師?」
嫌な予感が、背中を駆け上がる。
リリアは、今日は隣村へ薬を届けに行く予定だった。
考える前に、体が動いていた。
「おい、どこ行く!」
呼び止める声を無視し、村を飛び出す。
森の中。
息が切れる。
それでも、足を止めなかった。
――間に合え。
ただ、それだけを願う。
やがて、争う音が聞こえた。
獣の唸り声。
そして――聞き覚えのある、必死な声。
「……っ、来ないで……!」
視界が、赤く染まった。
ユウマは、叫びながら飛び出した。
「リリア!」
そこには、大型の魔獣と、地面に倒れたリリアの姿。
考える暇はなかった。
剣を構え、突っ込む。
当然、力は足りない。
弾き飛ばされ、地面を転がる。
――それでも。
立ち上がる。
彼女が、恐怖に震えている。
その光景が、胸を焼いた。
「……奪わせるか」
声が、低くなる。
胸の奥で、何かがはっきりと脈打った。
リリアを想う気持ち。
失いたくないという願い。
それが、確かな形になって溢れ出す。
ユウマの周囲に、淡い光が宿った。
「……え?」
リリアの驚いた声。
次の瞬間、ユウマの剣が魔獣を斬り裂いた。
あり得ないほど、軽く。
魔獣は悲鳴を上げ、逃げるように森へ消える。
静寂。
ユウマは、その場に膝をついた。
「……はは」
笑うしかなかった。
力は、自分のものじゃない。
彼女を想った、その瞬間だけ。
「ユウマ……さん……」
駆け寄ってきたリリアが、震える手で彼に触れる。
その指先の温もりで、光は消えた。
「……無事で、よかった」
それだけ言うと、視界が揺れた。
意識が遠のく直前、
リリアが泣いているのが見えた。
それでも。
彼女を想うことは、
間違いじゃなかった。
ユウマは、はっきりとそう思った。




