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星渡りの約束  作者: 臥亜


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6/11

離れる選択

 決めたはずだった。


 それでも、心は追いついていなかった。


 リリアの秘密を知ってから数日、ユウマは意識的に彼女と距離を取っていた。必要以上に話さない。二人きりにならない。視線も、長くは向けない。


 ……簡単なはずがなかった。


「ユウマさん、最近……」


 言いかけたリリアの声を、ユウマは聞かなかったふりをした。


「村の倉庫、手伝ってくる」


 それだけ言って、背を向ける。


 背中に、何も言われない視線が刺さった。


 胸が痛んだ。

 それでも、足は止まらない。


 ――近くにいるほど、彼女の時間を奪ってしまう。


 それが、ユウマなりの答えだった。


 村の外れで、剣を振る若者たちを見かけた。自警団だ。争いが増えているという噂は、本当らしい。


「……力があれば」


 ぽつりと零す。


 この世界で、彼女を守れるほどの力が、自分にはない。


 その夜、家に戻ると、灯りがまだ点いていた。


 嫌な予感がして、ユウマは足を速める。


 居間にいたのは、リリアだった。


 机に手をつき、息を整えている。

 顔色は、はっきりと悪い。


「……無理、するなって」


 思わず、声が荒くなる。


「……ユウマさんが、避けるから」


 リリアは顔を上げた。


「ちゃんと、話したかった」


 胸が、ぎゅっと締めつけられる。


「話す必要、ない」


 嘘だった。


「俺は……ここに長くいない」


 初めて、口にした言葉。


 リリアの目が、大きく見開かれる。


「どういう、意味ですか」


「元の世界に……帰る方法が、あるかもしれない」


 完全な嘘ではない。

 噂程度だが、星渡りには“帰還”の可能性があると聞いた。


「だから」


 続ける声が、震えた。


「これ以上、関わらないほうがいい」


 長い沈黙。


 雨は降っていないのに、空気が重い。


「……それが」


 リリアが、ゆっくりと口を開く。


「ユウマさんの、優しさなんですね」


 責める響きはなかった。

 それが、余計につらい。


「でも」


 一歩、近づく。


「それは、私のためじゃない」


 ユウマは、何も言えなかった。


「ユウマさんが、失うのが怖いだけです」


 その通りだった。


「……ごめん」


 絞り出すような声。


 リリアは、首を振る。


「謝らないでください」


 そして、ほんの一瞬だけ、微笑んだ。


「それでも……一緒にいられた時間、私は」


 そこで言葉を切り、踵を返す。


「……大切でした」


 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


 その夜、ユウマは眠れなかった。


 離れる選択は、正しいはずだった。


 それでも。


 胸に残ったのは、

 守れたという安堵よりも、

 失ってしまったという痛みだった。

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