離れる選択
決めたはずだった。
それでも、心は追いついていなかった。
リリアの秘密を知ってから数日、ユウマは意識的に彼女と距離を取っていた。必要以上に話さない。二人きりにならない。視線も、長くは向けない。
……簡単なはずがなかった。
「ユウマさん、最近……」
言いかけたリリアの声を、ユウマは聞かなかったふりをした。
「村の倉庫、手伝ってくる」
それだけ言って、背を向ける。
背中に、何も言われない視線が刺さった。
胸が痛んだ。
それでも、足は止まらない。
――近くにいるほど、彼女の時間を奪ってしまう。
それが、ユウマなりの答えだった。
村の外れで、剣を振る若者たちを見かけた。自警団だ。争いが増えているという噂は、本当らしい。
「……力があれば」
ぽつりと零す。
この世界で、彼女を守れるほどの力が、自分にはない。
その夜、家に戻ると、灯りがまだ点いていた。
嫌な予感がして、ユウマは足を速める。
居間にいたのは、リリアだった。
机に手をつき、息を整えている。
顔色は、はっきりと悪い。
「……無理、するなって」
思わず、声が荒くなる。
「……ユウマさんが、避けるから」
リリアは顔を上げた。
「ちゃんと、話したかった」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「話す必要、ない」
嘘だった。
「俺は……ここに長くいない」
初めて、口にした言葉。
リリアの目が、大きく見開かれる。
「どういう、意味ですか」
「元の世界に……帰る方法が、あるかもしれない」
完全な嘘ではない。
噂程度だが、星渡りには“帰還”の可能性があると聞いた。
「だから」
続ける声が、震えた。
「これ以上、関わらないほうがいい」
長い沈黙。
雨は降っていないのに、空気が重い。
「……それが」
リリアが、ゆっくりと口を開く。
「ユウマさんの、優しさなんですね」
責める響きはなかった。
それが、余計につらい。
「でも」
一歩、近づく。
「それは、私のためじゃない」
ユウマは、何も言えなかった。
「ユウマさんが、失うのが怖いだけです」
その通りだった。
「……ごめん」
絞り出すような声。
リリアは、首を振る。
「謝らないでください」
そして、ほんの一瞬だけ、微笑んだ。
「それでも……一緒にいられた時間、私は」
そこで言葉を切り、踵を返す。
「……大切でした」
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
その夜、ユウマは眠れなかった。
離れる選択は、正しいはずだった。
それでも。
胸に残ったのは、
守れたという安堵よりも、
失ってしまったという痛みだった。




