運命という名の壁
翌朝、雨は嘘のように上がっていた。
湿った土の匂いが、村を包んでいる。
ユウマは家の外で、薪割りを手伝っていた。
力仕事は嫌いじゃない。
何かをしていないと、考えすぎてしまうからだ。
――「恋をしていい立場じゃない」。
昨夜の言葉が、何度も頭をよぎる。
「ユウマさん」
振り返ると、リリアが立っていた。
顔色は昨日より良いが、どこか無理をしているようにも見える。
「もう動いて大丈夫なの?」
「はい。……少し、話せますか」
その声音で、ただ事ではないと察した。
二人は家の裏手、小さな丘へ向かった。
村を見下ろせる場所で、人目も少ない。
しばらく、風の音だけが流れる。
先に口を開いたのは、リリアだった。
「……私、長く生きられません」
あまりに静かな言い方で、
一瞬、意味を理解できなかった。
「……は?」
間の抜けた声が出る。
リリアは、視線を空に向けたまま続ける。
「生まれつき、魔力が不安定で……治癒魔法を使うほど、体が削られていくんです」
「それ、治せないの?」
「たくさんの治癒師が、調べました。でも……」
首を横に振る。
「成人する頃まで、って言われています」
――じゃあ、今は。
その続きを、ユウマは聞けなかった。
「だから」
リリアは、微笑んだ。
それが一番、胸に刺さった。
「誰かと深く関わるのは、いけないんです。期待させてしまうから」
「……それで、俺を避けようとしてた?」
「はい」
正直な答えだった。
「それでも、昨日……」
言葉が止まる。
「……ごめんなさい」
謝られる理由が、わからなかった。
ユウマは、強く息を吐く。
「勝手すぎるだろ」
リリアが、びくりと肩を揺らす。
「決めるのは、リリアだけじゃない」
言葉が、少し震えていた。
「好きになるかどうかも、傷つくかどうかも……俺の分まで、決めないでくれ」
沈黙。
風が、二人の間を通り抜ける。
リリアの瞳が、揺れていた。
「……でも」
「でも、じゃない」
ユウマは一歩近づく。
「短いかもしれない時間でも、後悔しないって選択はある」
手を伸ばす。
今度は、迷わなかった。
指先が、そっと触れる。
リリアは逃げなかった。
「……ずるいです」
小さな声。
「そうかもな」
それでも、手は離さない。
丘の上で、二人は並んで立っていた。
未来は見えない。
終わりがあることだけは、わかっている。
それでも。
運命という名の壁の前で、
ユウマは初めて、はっきりと思った。
――それでも、彼女を選ぶ。




