表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星渡りの約束  作者: 臥亜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

星渡りの噂

村に、風向きというものがあるのだと、ユウマはこの日初めて知った。


 前日までは「珍しい旅人」だった視線が、朝を境に「測るもの」へと変わっていた。


「……見たか? あの黒髪の男」


「森に落ちてたって話だろ」


「夜に、光が降ったらしいぞ」


 囁き声は、隠しているつもりでも意外と届く。


 ユウマは聞こえないふりをしながら、背中にじっとりとした感覚を覚えていた。


「……ごめんなさい」


 小さな声で、リリアが言った。


 二人で村の外れの井戸へ向かう途中だった。水汲みを手伝う、という名目だったが、実際には村の視線から距離を取るためでもあった。


「私が、ちゃんと説明できていれば……」


「いや」


 ユウマは首を振る。


「俺が、変だからだろ」


 リリアは立ち止まり、少し強い口調で言った。


「そんなこと、ありません」


 はっとして、すぐに視線を落とす。


「……すみません。でも、本当に」


 その必死さが、逆に気になった。


「この村、外の人を嫌うの?」


「嫌う、というより……怖がるんです」


 井戸の縁に腰掛けながら、リリアは静かに続けた。


「昔、この辺りに“星渡り”が現れたことがあるそうです」


 その言葉に、ユウマの心臓がわずかに跳ねた。


「星渡り?」


「空から落ちてきた、異邦の人。強い力を持っていて……でも、その力が争いを呼んだ、と」


 語り口は淡々としているが、どこか距離を取っているようにも聞こえる。


「それ以来、村では“夜に落ちてきた人”を、あまり良く思わない人もいます」


「……なるほど」


 納得はできた。

 同時に、胸の奥が少し冷えた。


「俺、厄介者?」


「そんなこと、ありません!」


 即答だった。


 リリアは顔を上げ、まっすぐにユウマを見る。


「少なくとも、私は……」


 言いかけて、言葉を飲み込む。


 その沈黙が、妙に長く感じられた。


「……私は、助けたいと思いました」


 選び直された言葉。

 それでも、十分だった。


 井戸の水を汲み終え、帰ろうとしたとき、村の入口で数人の男たちが話し込んでいるのが見えた。中央にいるのは、昨日声をかけてきた年配の男性――村長だった。


 彼の視線が、はっきりとユウマを捉える。


 逃げ場はなかった。


「……話がある」


 村長の声は低く、感情が読めない。


 リリアが一歩前に出ようとしたが、ユウマはそれを制した。


「大丈夫」


 本当に大丈夫かどうかは、わからない。

 それでも、彼女を前に出すわけにはいかなかった。


「君は、どこから来た?」


「……遠くから」


 曖昧な答えに、村長は目を細める。


「空から落ちた、と聞いた」


 沈黙。


 肯定も否定もできない。


 そのとき、リリアが静かに口を開いた。


「この人は、怪我をしていただけです。危険な力なんて……」


「リリア」


 村長が彼女を制する。


「お前は、優しすぎる」


 その言葉に、リリアの肩が小さく揺れた。


「だが――」


 村長はユウマに向き直る。


「村に害をなさないと、証明できるか?」


 証明。

 そんなもの、あるはずがない。


 ユウマが答えに詰まった、その瞬間。


 胸の奥が、微かに熱を帯びた。


 理由はわかっている。


 隣に立つリリアが、ほんの少し震えていたからだ。


「……害は、ありません」


 声は、意外なほど落ち着いていた。


「俺は、誰かを傷つけるためにここに来たわけじゃない」


 強い言葉ではない。

 ただの事実だった。


 村長はしばらく黙り込み、やがて息を吐く。


「……様子を見る」


 それだけ言って、背を向けた。


 周囲の緊張が、少しだけ解ける。


 リリアは深く息を吐き、ユウマの袖を掴んだ。


「……ごめんなさい。私のせいで」


「違う」


 ユウマは、今度ははっきりと言った。


「リリアがいなかったら、もっと酷かった」


 彼女は何か言おうとして、結局、黙って頷いた。


 その横顔は、どこか影を落としている。


 噂は消えない。

 疑いも、完全には晴れない。


 それでも。


 この世界で、

 たった一人でも、

 自分を信じてくれる人がいる。


 その事実が、ユウマの中で静かに力になり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ