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星渡りの約束  作者: 臥亜


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2/3

異世界の朝

 朝は、思っていたよりも静かに訪れた。


 鳥の鳴き声で目を覚ましたユウマは、しばらく天井を見つめたまま動けずにいた。木目の走る天板。見慣れない梁。カーテン代わりに掛けられた布が、微かに風に揺れている。


 ――夢じゃ、ないよな。


 ゆっくりと体を起こす。頭の痛みはもうない。昨夜の出来事が、妙に鮮明に思い出された。


 月が二つあった夜。

 森。

 そして――リリア。


 扉の向こうから、控えめな物音がした。


「……起きて、ますか?」


 聞き覚えのある声に、ユウマは思わず背筋を伸ばす。


「起きてる!」


 少し大きくなった声に、向こうで小さな笑い声がした。


 扉が開き、朝の光と一緒にリリアが顔を覗かせる。昨日と同じ服装だが、髪は軽く結われていて、印象が少し違った。


「よかった。具合はどうですか?」


「もう全然。助けてもらって、ほんとに……」


 礼を言いながら部屋を見回す。


「ここ、どこ?」


「私の家です。正確には……父の家、ですけど」


 少しだけ言い淀んだのが、気になった。


 リリアは朝食の用意ができていると告げ、ユウマを居間へ案内する。質素だが、清潔な家だった。木製の机の上には、温かそうなスープと黒パンが並んでいる。


「……いただきます」


 一口すすると、素朴で、優しい味がした。体の奥に、ゆっくり染みていく。


「……うまい」


 正直な感想だった。


 リリアは少し驚いた顔をしてから、照れたように笑う。


「よかった。あまり自信、なかったので」


 沈黙が流れる。

 気まずいわけではない。ただ、何を話せばいいのかわからなかった。


 先に口を開いたのは、リリアだった。


「……ユウマさんは、遠いところから来たんですよね」


「まあ……かなり」


 言葉を選ぶ。


「元いた場所とは、全然違う」


 リリアはそれ以上、深く聞いてこなかった。ただ、静かに頷く。


「この村、外から来る人はあまりいません。でも……悪い人たちじゃないです」


 その「でも」に、何か含みがある気がした。


 食事を終えると、外に出る。小さな村だった。畑を耕す人々。走り回る子どもたち。ユウマを見ると、好奇の視線が集まる。


「……やっぱ、浮いてるな」


 ぽつりと呟くと、リリアが首を振った。


「大丈夫です。すぐ慣れます」


 そう言いながらも、その声はどこか弱かった。


 村の中央広場に差し掛かったとき、年配の男性が声をかけてきた。


「おお、リリア。その人は?」


 一瞬、空気が張りつめる。


「……昨夜、森で倒れていた方です。少し、休ませてもらっていて」


 男性はユウマをじっと見つめ、何かを測るように目を細めた。


「……そうか」


 それ以上は言わなかったが、視線が離れない。


 そのとき、ユウマの袖を、誰かがそっと掴んだ。


 リリアだった。


 ほんの一瞬。

 けれど、確かに――頼るような仕草。


 ユウマは、何も考えずにその手をそのままにした。


 握り返すことはしなかった。ただ、離さなかった。


 その温もりが、昨日よりもはっきりと伝わってくる。


 この世界での朝。

 居場所はまだ、どこにもない。


 それでも。


 誰かの隣に立っている、という事実だけが、

 ユウマの心を、不思議と落ち着かせていた。


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