表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星渡りの約束  作者: 臥亜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

ゆっくりと訪れる。

 朝は、ゆっくりと訪れる。


 窓から差し込む光は柔らかく、白いカーテンを淡く染めていた。ユウマは先に目を覚まし、隣の寝台に視線を向ける。


 リリアは、まだ眠っている。


 呼吸は浅く、規則正しいとは言いがたい。それでも、確かに生きている証だった。


 ――今日も、朝が来た。


 それだけで、十分だと思えた。


「……ユウマさん」


 小さな声で呼ばれ、彼はすぐに振り向く。


「起こした?」


「ううん……あなたが、起きたのがわかっただけ」


 リリアはそう言って、微笑んだ。昔より少し、痩せた気がする。それでも、その笑顔だけは変わらない。


「今日は、いい天気ですね」


「そうだな。畑も、ちょうど水が要らなさそうだ」


 当たり前の会話。

 特別なことは、何もない。


 それが、二人の日常だった。


 王都を離れ、二人は小さな町に住んでいる。目立たず、静かで、医者と薬師がいる場所。星渡りの噂は、もう届かない。


 リリアの体は、少しずつ弱っている。

 それは変えられない。


 でも――


「無理、しないで」


 そう言うユウマに、リリアは首を振る。


「今日は、ちゃんと元気です」


 そう言って、彼の手を取る。


 その手は、以前より冷たい。

 それでも、離したいとは思わなかった。


 昼、二人は並んで食事をする。

 午後は、ユウマが働き、リリアは日向で本を読む。

 夜は、同じ空を見上げる。


 それだけの毎日。


 誰かにとっては、短くて、儚くて、足りない時間。


 けれど。


「……後悔、してませんか」


 ある夜、リリアがぽつりと聞いた。


「帰らなかったこと」


 ユウマは、少し考えてから答えた。


「一度も」


 即答だった。


「迷うことは、ある。でも……後悔はない」


 リリアは、ゆっくりと息を吐く。


「よかった」


 そう言って、彼の肩に頭を預けた。


 星が、瞬いている。

 二つの月は、今日は雲に隠れていた。


 限られた時間。

 終わりが、見えている未来。


 それでも。


 誰かと生きると決めた日々は、

 確かに「生きている」と言えるものだった。


 ユウマは、そっとリリアの手を握る。


 彼女は、少し力を込めて、握り返す。


 それだけで、

 言葉はいらなかった。


 星の下で続く日々は、

 長くはないかもしれない。


 けれど――


 その一日一日が、

 選び取った答えの、確かな証だった。

これは――ユウマへ宛てた、リリアが残した手紙。


ユウマへ。


これを読んでいるということは、

たぶん私は、もうあなたの隣にはいませんね。


先に謝っておきます。

黙っていて、ごめんなさい。

泣くあなたの顔を、見たくなかったんです。


あなたと過ごした日々は、

私の人生の中で、いちばん静かで、いちばん温かい時間でした。


朝、あなたが先に起きる音。

不器用に作る料理。

星を見上げるとき、何も言わずに手を握ってくれること。


どれも、特別じゃないのに、

全部が宝物でした。


私は、自分の運命を知っていました。

長くは生きられないことも、

あなたがそれを知れば、きっと苦しむことも。


それでも――

あなたは「一緒にいる」と言ってくれましたね。


あの言葉で、

私はもう、十分すぎるほど救われました。


だから、お願いです。

どうか、自分を責めないで。


あなたは何も間違っていません。

私を選んだことも、

帰らなかったことも。


私にとって、

あなたと過ごした時間は

「短かった人生」ではなく、

「満たされた人生」でした。


もし、ふと思い出したら、

星を見上げてください。


私はきっと、

あなたが見ている空と同じ場所で、

笑っています。


ありがとう。

私を見つけてくれて。

一緒に生きてくれて。


あなたの選択を、

私は誇りに思います。


――リリア

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ