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星渡りの約束  作者: 臥亜


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10/11

星を越えても ――君と生きる世界

 王都の空は、澄んでいた。


 白い石で造られた広場の中央に、円形の紋様が描かれている。

 帰還の門。


 静止した水面のような光が、そこにあった。


「……あれが」


 ユウマは、小さく息を吐いた。


 思っていたよりも、派手ではない。

 あまりにも、静かだ。


「はい」


 隣で、リリアが答える。


 彼女はここまで来た。

 本来、来る必要はなかったのに。


 七日間、ほとんど触れ合わなかった。

 言葉も、最低限だった。


 それでも、今、こうして並んで立っている。


 それだけで、もう――結びついている気がしていた。


「門は、日没とともに閉じます」


 王都の術師が、事務的に告げる。


「それまでに、決断を」


 時間は、もう残っていない。


 リリアは、門を見つめたまま、口を開いた。


「……行ってください」


 最後まで、同じ言葉。


「あなたが、帰る場所です」


 ユウマは、答えなかった。


 代わりに、彼女の手を取った。


 一瞬、リリアが息を呑む。


「ユウマさん……」


「ごめん」


 謝ったのは、触れてしまったことではない。


「俺、ずっと考えてた」


 指先が、微かに震える。


「帰った世界で、君のいない毎日を生きることと……

 ここで、終わりが見えている時間を生きること」


 どちらが、正しいか。


 答えは、出なかった。


「でも」


 ユウマは、リリアを見る。


「後悔しない方は、わかった」


 胸の奥が、はっきりと熱を持つ。


 門の光が、わずかに揺らいだ。


「……私は」


 リリアの声が、震える。


「あなたに、生きてほしい」


「俺もだ」


 即答だった。


「だから……一緒に、生きたい」


 沈黙。


 世界が、息を止めたようだった。


 リリアの瞳から、初めて涙が溢れた。


「……ずるい」


 そう言いながら、彼女は笑った。


「本当に……ずるい人です」


 ユウマは、彼女を抱きしめた。


 強くはない。

 離れられないほどでもない。


 ただ、確かめるように。


 その瞬間、光が弾けた。


 門の紋様が、ひび割れる。

 術師たちの声が、遠くで響く。


「共鳴が……強すぎる……!」


 ユウマは、理解した。


 もう、戻れない。


 でも。


 後悔は、なかった。


 光が消え、静寂が戻る。


 門は、ただの石畳になっていた。


 リリアは、ユウマの胸に顔を埋めたまま、動かなかった。


「……なくなりましたね」


「ああ」


「帰る場所」


 ユウマは、少し考えてから答える。


「違う」


 彼女の背に、手を回す。


「ここに、できた」


 リリアは、しばらく黙っていた。


 それから、小さく頷く。


「……はい」


 空には、星が出始めていた。


 二つの月が、並んで昇る。


 寿命は、変わらない。

 奇跡は、起きなかった。


 それでも。


 限られた時間を、

 選び取った想いで満たすことは、できる。


 星を越えなくても、

 世界が違っても。


 ユウマにとっての居場所は、

 もう――迷うことなく、ここだった。


 リリアの手を握る。


 彼女は、握り返す。


 それだけで、十分だった。

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