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三題噺もどき5

作者: 狐彪

三題噺もどき―はっぴゃくいち。

 



 鼻先が痛くなるほどに、冷えた空気が顔面を襲う。

 自転車を漕いでいる以上、風があたるのは仕方のないことだけど、毎日勘弁してほしいと思う。髪を短く切りそろえているから、耳先まで冷えて痛くなってくる。

 マフラーで半分は隠れているけれど、それでも寒いものは寒い。

「……」

 大きな道路を有する、商店街もどきのような道を走っている。

 こんな早くから開けているのか、のれんを掲げている店があった。

 この店こんな時間から空いていただろうか……そんな訳はないはずだが。……あぁ、というか初めて見る店だった。今日からオープンするらしい。人気は全くないけれど。

「……」

 耳につけたイヤホンからは、お気に入りの歌手の声が聞こえてくる。

 自転車を漕ぎながら、こんなことをしてはいけないのだけど。

 今のところ、たまに立っている警察にもバレたことがないのでいいかなと思っている。それに、片方だけなので、外の音はしっかり聞こえているからいいだろう。―何もよくないが。

「……」

 時折風でまくれるスカートが心底鬱陶しい。

 制服を考えた大人は何を思ってスカートなんてものを制服にしたのだろう。

 たいして防御力もない、風で簡単にめくれて、雨の時は合羽を着ても濡れて。

 きっと何も考えていない大人が作ったんだろう。

 まぁ、中に体育ズボン履いてるから、見えることはない。寒いだけ。それに今年からタイツを履いてもいいことになったので。ラッキーだ。去年までは校則で禁止されていた。意味わからん。

「……」

 時折、同じ制服を着た学生とすれ違う。

 こちらは自転車、あちらは徒歩なので、スピードは違うけれど。

 中には見知った顔もあるので、声でもかけようかと思うが、そんなキャラでもなしそんな間柄でもなし。大抵はスルーだ。―あの子がいれば、話は別だが。

「……」

 今日からまた、学校が始まる。

 必要なのか否かもよく分からないほどの、短い冬休みを終えて。

 あんな短期間で、眩暈を覚えるほどの量の宿題を出してくるのは何の拷問なのだろう。自称進学校の弊害だろうか。地元ではそれなりに有名な高校ではあるが、その実態は昔とは違っているのに。

「……」

 冬休みで良いことって何かあっただろうか。しゃぼん玉のように簡単に消えてしまうような記憶しかないような……。

 宿題に追われるようなタイプではないので、さっさと終わらせてしまったけど。―というか、冬休み始まって何日かは学校に行かないといけなかったからな……テストを受けに。何のいじめだったんだろう。来年、三年生になれば、これが毎日年末のギリギリまであるらしい。

「……」

 冬休み……ねぇ。

 今年は事情があって、祖父母の家にも行くことはなかったし。お年玉は貰ったけれど、正直物欲というモノがさほどないので、半分以上が貯金に回るだけだった。

 クリスマスも、我が家のサンタさんは現金を渡してくれるだけになったので、はしゃぎようがない。一応、妹がいるのだけど。

「……」

 あぁ、一度だけ。

 これから先の進学についての話をされた。

 その手の話は苦手というか嫌いなので、かなりぶっきらぼうに話を聞いていた。

「……」

 先の事を考えると、どうにも、視界が真っ黒に塗りつぶされるような感覚になる。

 何も見えない、お先真っ暗な状態だ。

 だって、確信もない何も分からない、何が起こるかも予想のしようがない、そんな先の事なんてどうして今決めようとするのだろう。それが、出来るのだろう。

「……」

 私には、どうしてもわからなかった。

 そりゃ、その時になれば決めないといけないけれど、今すぐ決めなくたって、今すぐ話さなくたって、別に何か変わるわけでもないだろうに。

「……」

 あぁ、嫌な気分になってきた。

 思いだしたくもない。あの後、思うように言葉が出ずに、涙が出たことなんて。


「――!」


 寒さのせいか、嫌なことを思い出したせいか。

 また少し滲みだした視界をかき消すように、声が聞こえた。

「――ぁ」

 キュ、と自転車のブレーキを握る。

 目の前の横断歩道を渡った先に。

 ―あの子がいた。

「おはよ~」

 そういいながら、自転車から降りて手を振っている。

 長く降ろされた髪は、マフラーに巻き込まれて悲惨なことになっている。せっかく長くてきれいな黒髪なのに、本人はたいして気にもしていないのだからもったいない。

 細身で、私より身長が高い。まぁ、私はかなり低い方になるから誰でも高いのだけど。

「――おはよ」

 鼻が痛んだせいで、少し鼻声になった。

 横断歩道を渡り終え、自転車を降りる。片耳につけていたイヤホンを外し、適当にポケットの中に突っ込んでおく。

「寒いねぇ」

「そうだね」

 そんなことを言いながら、自転車を押して歩いていく。

 もう学校の正門が見えているから、歩いて行っても問題ない。

 ―それに、この時間は、長ければ長いほどいい。

「あ、あけましておめでとう」

「ん、あけましておめでとう、今年もよろしくね~」

「うん、よろしく」

 寒さで鼻を赤くしながら、にこりと微笑む。ちょっと間延びした感じがこの子らしくて。

 昇り始めた太陽に、眩しそうにしながらも、楽しげに話す。

 冬休みの事。宿題の事。初詣に行ったこと。

 私はその声に耳を向けながら、相槌を打ってゆっくりと歩く。

「……」

 声を聞かなかったのはほんの数日程度のはずなのに。

 その声にいつまでも耳を傾けて居たいと思った。

 この時間が続けばいいのになんて思った。

 きゅうと、鼻がまた痛くなるような感覚になった。

「……」

 あぁ。

 やっぱり。

 私は。











 お題:眩暈・のれん・しゃぼん玉

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