第8話 死への恐怖/心の拠り所
「ぐはっ……!?」
ダークサンダーウルフの突進が、ハイルの腹部に命中。ハイルは後方に勢いよく吹き飛んだ。
「がっ!? はっ……!?」
吹き飛んだハイルは、地面を激しく転がっていく。
「ぐっ……!?」
壁に衝突した事で、ようやく停止したが、ハイルは壁に背中を強く打ち付けてしまい、そのまま地面に落下した。
「がはっ!?」
地面にうつ伏せで落下したハイルは、大量に吐血をしてしまう。
(これ……肋とか、色々骨イカれたな……体が全く動かせない……!)
あらゆる骨が折れてしまったのか、ハイルはうつ伏せのまま動けなくなってしまった。
「グルルルルルルルルルルル……!」
「フーッ! フーッ!」
そんな動けないハイルに、ダークサンダーウルフとトライデントランサータウロスは、威嚇をしながらジリジリと近づいてくる。
(ぐっ……! このままじゃ、殺られる……!)
ハイルは、どうにか逃げようと動けない体を動かそうともがき始めた。
☆ ♡ ☆
「んで〜? 結局作戦ってなんなんですかぁ?」
ハイルを探し始めてから数時間。
クロハ達はただ歩いているだけだった。
「あんなに作戦会議をしてたのに、結局やってることは歩いて探すだなんて、作戦会議の意味ありましたぁ?」
「イリン、ちょっとは黙って歩け。さっきからうるせぇ」
「ミュリン、さっきからそればっかり。作戦内容教えてくださいよぉ」
「会議に参加してなかったあなたがいけないんでしょ? それに、イリンが言う通り、作戦は自分達の足で捜索する。それだけです」
「えぇ〜……全く」
ぐだぐだ文句を言いながら、クロハとセシリアから少し離れた後ろを歩くイリン。
その間に、リアンとミュリンがいる。
「ハル君……絶対に見つけ出すからね……!」
「クロハさん……」
隣で、切羽詰まった表情を浮かべるクロハを、セシリアは心配そうに見つめていた。
そんな時だった。
「ブモォォォォォォォォォォッ!!!」
「「「「「っ!?」」」」」
突如、前方から雄叫びが聞こえてきた。
「い、今のって……!?」
「モンスターの雄叫び……!?」
クロハとセシリアがそう呟いた瞬間──、
「アオォォォォォォォンッッ!!!」
「「「「「っ!?」」」」」
クロハ達の後方からも、雄叫びが聞こえてきた。
全員が後ろを振り返ると、そこには──、
「「「「「ダークサンダーウルフ!?」」」」」
ハイルを襲ったダークサンダーウルフがいた。
「なんで一階層にB級のダークサンダーウルフが!?」
「み、みんな……ダークサンダーウルフだけじゃないです……」
「「「「え……?」」」」
イリンがそう言ったので、全員がイリンの視線の先を見る。
そこにいたのは──、
「「「「と、トライデントランサータウロス!?」」」」
三又の槍を持ったウシの姿をしたモンスター。こちらも、ハイルを襲ったモンスターだ。
「なんで十階層に存在するはずの凶悪なモンスターが、こんな所に……!?」
リアンが、トライデントランサータウロスとダークサンダーウルフを交互に見ながら呟く。
「分かんねぇ。だが、こいつらがここにいるって事は、ハルさんを早く見つけ出さねぇといけねぇな……!」
「そうね。こんな凶悪なモンスターがうろついてるんじゃ、ハルさんの身に危険が及ぶわ」
「イリンは下がって!」
「うん!」
ダークサンダーウルフの方は、リアンとミュリンが対峙する。イリンは支援系の技能使いなので、前線には立たず、後方に下がる。
「トライデントランサータウロスの方は、私とセシリアさんに任せて!」
「「はい!」」
トライデントランサータウロスの方には、クロハとセシリアが対峙した。
☆ ♡ ☆
「でも、どうする? 私達、ついこの間B級に上がったばっかりなのに」
「そうだな……本来であれば私達が相手できる相手じゃない……ハイルなら相手できるだろうけど……」
「二人とも! 弱気にならないでください!」
「そうだな。ハイルやハルさんを探す為にも、ここで踏ん張らないとな!」
「えぇ! 行きましょう!」
ダークサンダーウルフに、リアンとミュリンが向かっていった。
☆ ♡ ☆
「くっ……! やはり強いですね……!」
「こいつ、ただのB級とは思えない……。一撃一撃が……くっ……! 重い……!」
トライデントランサータウロスと戦うクロハとセシリア。
セシリアは、フェンシングのような刃が細長い剣を使い、トライデントランサータウロスの槍の攻撃を受け止めている。
クロハは、風の技能を使い、トライデントランサータウロスの槍を、空中で受け止めている。
が、その一撃一撃が重たいため、二人とも一撃受け止めるごとに後方に吹き飛ばされそうになっている。
「このまま長期戦になったら、流石にキツい……セシリアさん!」
「はい!」
クロハがトライデントランサータウロスの槍を受け止めた瞬間、セシリアに声をかける。
それを受け、セシリアは飛び上がる。
「剣の技能・トラストラッシュ!」
セシリアは、トライデントランサータウロスに向かって剣を高速で突き始める。
目にも留まらぬ速さで、トライデントランサータウロスを突いていく。
が──、
「がっ!?」
「セシリアさんっ!?」
トライデントランサータウロスには、セシリアの攻撃は全く効いておらず、トライデントランサータウロスの尻尾がまるで鞭のようにしなり、空中に浮かぶセシリアを弾き飛ばした。
「ぐっ……」
セシリアは壁にめり込み、動けなくなっていた。
「セシリアさんっ! はっ!? くっ!」
セシリアの方に駆け寄ろうとしたが、トライデントランサータウロスがさらに攻撃を加えてきたので、クロハは風の盾を生み出し、ギリギリで防いだ。
「「「うわぁ!?」」」
「っ!?」
クロハの近くに、リアン、イリン、ミュリンの三人がボロボロになった状態で転がってきた。
「三人共! 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……」
「見て分かんないの……大丈夫じゃないに決まってるでしょうが……!」
「イリン、ミュリン、どうしますか……」
三人は、立ち上がるのも苦しそうで、地面でもがいていた。
「くっ…… “あの力” を使えれば、一瞬なんだけど……みんなの前では使えない……どうすれば……はっ! くっ……!」
考えながらも、クロハはトライデントランサータウロスとダークサンダーウルフの攻撃を、防いでいく。
と、その時、トライデントランサータウロスが突然、左足を前に突き出した。
それにより、何かがクロハの方へと飛んできた。
「っ……!?」
飛んできたものを見た瞬間、クロハは言葉を失った。
「ぐっ……うっ……うぅ……」
「は、ハル……君……?」
飛んできたのは、全身から血を大量に流し、ボロボロになったハイルだった。
意識を手放す寸前なのか、目の光が消えかけている。
「は、ハル、君……な、なんで……」
クロハは、立ち尽くしていた。
地面に転がる、ハイルの姿を見て。
「ま、間に合わなかったってのか……!?」
「そ、そんな……!?」
「だから子供なんて……!」
「は、ハルさん……」
他の皆も、ハイルの姿を見て絶望の表情を浮かべている。
「ブモォォォォォォォォォォッ!!!」
「アオォォォォォォォンッッ!!!」
そんなクロハ達の姿を見て、まるで嘲笑うかのように雄叫びを上げる二体のモンスター達。
「ざけんなよ……」
「ブモ?」「ガルゥ?」
クロハが小さく何かを呟いたので、二体のモンスターは首を傾げクロハを見る。
クロハは俯いているので、表情が見えない。
すると、クロハは手を握りしめ始める。その瞬間、辺りの空気が震え始めた。
「な、なんですかこの技量の高まりは……周りの空気が震えてます……」
イリンがいち早く変化に気づき、クロハを見る。
「これを、あの人が……?」
クロハの体から、オーラのようなものが溢れ出ており、それが空気を震わせていた。
空気だけでなく、地面も揺れ始めている。
「ぶ、ブモォォォォォォォォォォッ!!!」
「あ、アオォォォォォォォンッッ!!!」
モンスター達も少し恐れているのか、少し怯んだが、すぐに雄叫びを上げてクロハに向かってきた。
しかし──、
「るせぇよ。潰れろ」
そう言って、クロハが二体のモンスターを睨み、左手を翳した瞬間、トライデントランサータウロスとダークサンダーウルフの二体は、一瞬にして跡形もなく潰れた。
あるのは、モンスター達の血痕だけ。
「「「「ひっ!?」」」」
その光景を見た四人は、思わず恐怖の声を漏らした。
モンスターの潰れ方。それは、まるで空気が圧縮したかのように二体のモンスターがギュッとなったもの。
「はっ!? は、ハル君!?」
モンスターを潰した後、数十秒立ち尽くしていたが、ハイルの姿を見て我に返ったクロハは、急いでハイルに駆け寄った。
「ハル君! ハル君! しっかりして! ハル君!!!」
この事は、冒険者達に情報共有されることとなった。
☆ ♡ ☆
『なぁ、ハイルよぉ』
『がはっ……!?』
──こ、これは……。あの日の光景……?──
『なんでお前はいつも前線に立つんだ?』
『ぐふっ……!?』
『なぁ、なんでなんだよ?』
『ぞ、ぞれは……ガイルが、ぐふっ……!? 前線に立てって……ぐっ……!?』
──やっぱり、これは、あの日の光景だ……──
『それはパーティー組みたての時だろ? でもよぉ、今は状況が違うだろ?
俺はギルマスや国王から直々に英雄になって欲しいって言われたんだぞ? 直々に、だ。そうなったら俺達のパーティーは英雄パーティーって事になる。
そんでよぉ、そもそも俺達のパーティーのリーダーって誰だよ?』
『が、ガイル……ぐぶっ……!?』
──くっ……!──
『だよなぁ? そんで? 俺がリーダーのパーティーが、英雄パーティーになって、リーダーである俺が英雄に任命された。そしたら、最初の頃の状況とは違うんだから、俺が前線に立つのが普通なんじゃないのか?
それなのにお前って奴はよぉ! 俺を差し置いて前線に立ち続け、俺より目立ち、功績を上げやがったなぁ?』
『ぐっ……!?』
──やめろ……! やめてくれ……!──
『俺はそれが許せないんだよ。だから、お前を俺のパーティーから追放する事にした。ただ追放するのもつまらんし、追放したとこで、お前は他のパーティーで功績を上げるだろう? それだけは絶対に許せない。だからさ』
──やめろ……やめろ……!──
『お前に死んでもらう事にした』
『っ!? が、がい、うっ!?』
『いいから、ほら。死んでくれ』
『があああああああああああああああ!?』
──やめてくれ……! やめてくれぇぇぇ!──
『があああああああああああああああああああ!? あああああああああああああああ!?
あっ!? あっ!? ああっ!? ああっ!? ああぁ!?』
──やめてくれ……! やめてくれ……! も、もう……やめてくれぇ……!──
『さぁ、死んでくれ、ハイル』
『ぐっうぅ……!?』
──うわあああああああああああああああああああ!?──
「ハル君!!!」
「はっ!?」
ハイルはどこかの部屋のベッドで目を覚ました。
「はぁはぁ……!? 俺は、何を……」
「ハル君……」
「え……? 君は……」
「クロハだよ……?」
「くろ、は……?」
ハイルは、ベッドの上で大量に汗をかき、呼吸を激しく乱している。
ベッド脇に座る少女──クロハを見て、名前を聞き、頭を押さえる。
「くろは……? くろは……? はぁはぁ……ガイル……くろは……死……ああああ……あああ……ああああああああああ!?」
「ハル君!?」
突然、ハイルは叫びだし、取り乱し始めてしまった。
「ハル君!? どうしたの、ハル君!? 落ち着いて!? ハル君!?」
「ああああああああ!? ああああああ!? 嫌だ!! 死にたくない!? 死にたくない!!!!」
ハイルは、パニックに陥ってしまっていた。
ダンジョンでモンスターに襲われ、瀕死状態になってしまった事で、ガイルに殺されかけた恐怖を思い出してしまった。
本人は気づいていなかったようだが、心の奥底では死に対してトラウマを抱いてしまっていた。
それが、夢で襲われた光景を見たことで、湧き上がってきてしまったのだろう。
そして、そこにハルになってから出会ったクロハと言う存在がいた事で、頭の中での記憶が混合し、パニックに陥ってしまった。
「ハル君……!」
「っ!?」
クロハが椅子から立ち上がり、ベッドの上でパニックになるハイルを抱きしめる。
「大丈夫……! 大丈夫……! 大丈夫……!」
「ああああああ……ああああああ……ああああああ……」
「大丈夫だから……! 大丈夫だから……! 私が、私がいるから……!」
「あああ……」
「ごめんね……怖い思い、させちゃって……」
「クロハ、さん……」
「うん……私が絶対、君を守るから……!」
「クロハ、さん……クロハさん……クロハさん……!」
「私が、ずっと側にいるから……!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!」
ハイルは、まるで本当の子供のように、泣きじゃくり始めた。
「大丈夫……! 大丈夫……!」
泣きじゃくるハイルの背中を、クロハはずっと優しく撫でていた。
ちなみに、ハイルが目を覚ましたのはクロハの家だった。
そう。二人が初めて出会った所だ。
ハイルにとって、クロハが心の拠り所となるのは、そう遠くないのかもしれない。
しかし今後、二人のこの関係がとある試練に直結する事になるとは、この時は誰も知らなかった。




