第7話 仲間とのはぐれ/使えない力
ダンジョンに入った冒険者達。
それぞれがチームに分かれ、それぞれ別ルートで捜索や調査を行っていく。
ダンジョン内は広大で、一階層だけで数ヶ月かかる事になる。
なので、大勢で調査や捜索を。手分けをする必要があるのだ。
「ハル君、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
「疲れたら、遠慮なく言ってくださいね?」
「はい。セシリアさんもありがとうございます♪」
「っ〜〜〜〜♡」
クロハと手を繋ぎながら歩くハイル。そんなハイルの笑顔に、セシリアは心を射抜かれていた。
「あ、あの……わ、私も手を繋いでもい、いいでしょうか……?」
「は、はい……ど、どうぞ……」
セシリアからのお願いに、ハイルは顔を真っ赤にしながら頷いた。
「ありがとうございます! では」
セシリアはハイルの左手を握る。
「えへへ〜♡」
正直、ハイルは恥ずかしかった。
“十八歳” である自分が、美少女二人と手を繋いで歩いているなんて、ものすごく恥ずかしかった。
が、セシリアの満面の笑みを見てしまっては、拒否も抵抗もできなくなってしまう。
そんな三人に、前を歩くイリンは呆れ果てていた。
「全く……こんな危険な場所に子供を連れてくるなんて、何を考えているんでしょうかあの人は」
「なんかお前、クロハさんに当たりキツくないか?」
「うん。それに、あの子供に対しても厳しいような?」
「二人は感じないの? あの子供からハイルの気配が」
「「感じないな〜」」
「はぁ〜……二人に聞いた私が馬鹿でした」
そう言って、イリンは早足で一人、先に進んでいく。
「おい、なんだよそれ〜」
「ちょっと待ってくださいよ〜」
その後を、二人は追いかける。
この先に、危険が待ち伏せているとも知らずに。
☆ ♡ ☆
数時間進んだ所で。
「はぁはぁ……」
ドサッ!
「っ! は、ハル君、大丈夫!?」
ハイルは二人の手を離し、倒れてしまった。
「ハルさん!?」
倒れてしまったハイルに、クロハとセシリアが駆け寄る。
「ご、ごめんなさい……ちょっと、体力が……」
「大丈夫。私こそごめん……! ハル君の歩幅の事とか気にするの忘れてた……」
「私が早く歩きすぎてしまいました……本当にごめんなさい……!」
「い、いえ……! お二人は何も悪くないですよ……! 僕の体力がないだけなので……!」
「とりあえず、ちょっと休憩しよう」
「そうですね。私、三人に声をかけてきます」
「うん。お願い」
「すみません……」
「ううん。ハル君は気にしないで」
ハイル達は一旦、休憩を取る事にした。
壁に寄り掛かるハイルは、水筒を準備しているクロハを見ながら、思っていた。
(こんなに体力なかったっけ……? しっかりと鍛えていたから、たった数時間歩いただけで倒れるなんて、ありえないんだけどな……)
クロハを見た後、自身の手を見ながらハイルはそう思っていた。
ハイルであった時は、このくらいの距離を歩いただけで倒れるなんて事はなかった。
だから考えていた。なんで倒れてしまったのか。
(もしかして、この体になったから、なのか……?)
ハイルは一つの可能性を考えていた。
子供の体になってしまった事で、体力面が変わってしまったのではないのかと。
(これ、体が小さくなっただけじゃなくて、他のところも変わってるとか、ないよな……?)
体力面がもし、子供になってしまった事で変わってしまったのであれば、他のところも変わってしまっているかもしれない。
ハイルにしか使えない力。それすらも使えなくなっているかもしれない。
(いや、それはないだろう。小さくなったと言えど、俺は俺、だから)
「はい、ハル君」
「ありがとうございます」
クロハからコップを受け取り、水を飲みながら、ハイルは余計な事を考えるのをやめた。
と、セシリアが戻ってきた。イリン達三人を連れて。
「全く。だから子供なんて連れてこなきゃよかったんですよ」
「なんですって?」
「子供なんて連れてくるなって言ったんです」
「あんたねぇ!」
「まぁまぁ! 二人とも、落ち着いてください。今はハイルさんを探す仲間なんですから。仲良くしましょう」
「「ふん!」」
クロハとイリンは、そっぽを向いてしまった。
この二人は馬が合わないのかもしれない。
そんな二人を見ながら、リアンとミュリンは呆れていた。
「全く。クロハさん、すんません。ウチのイリンが」
「この子も悪気はないんです。ただ、ハイルの事となると暴走しがちで」
「ふ、二人とも! 余計な事言わなくていいんです!」
二人がクロハに声をかけると、イリンは頬を膨らませながら怒った。
「そういえば、ハイルさんが消息不明って、どうして分かったんですか?」
「あぁ?」
「っ!」
ハイルがそう尋ねると、イリンは低い声で、鋭くハイルを睨みつけた。
「睨まないでよっ! ハル君が可哀想でしょ!」
「うぷっ!?」
むぎゅっ♡ ぎゅむっ♡
(く、苦しい……! クロハさんの、乳圧が……!)
「く、クロハさん……? ハルさんが苦しそうですけど……」
「ふぇ!? あ、ご、ごめんっ!? ハル君、大丈夫!?」
「ごほごほっ……! は、はい……! 大丈夫です……!」
「よかった……本当にごめんね……?」
クロハがハイルの背中を撫で、優しく謝る。
それを見ながらリアンが──、
「なんか、いいなぁ……」
と、呟いた。
「リアンは子供好きだもんな〜。抱きしめさせてもらえばいいじゃんか」
「え!? そ、それはその……く、クロハさんに悪いって言うか……なんて言うか……」
「照れてんのか?」
「ち、違うよっ!」
「あはは! 隠さなくてもいいだろう!」
と、リアンとミュリンが話していると、セシリアが手を上げた。
「わ、私も知りたいです……どうして、ハイルさんが消息不明だと分かったのか……」
と、ハイルの質問をなかったことにはさせなかった。
「まぁ、別に隠すことでもないからな」
「うん。話します」
「はぁ〜……」
リアンとミュリンが話してくれた。
ハイルの事。S級モンスターの事。そして、それらが全てガイルの証言であること。
☆ ♡ ☆
リアンとミュリンから話を聞いた皆。
クロハとセシリアは、信じられないと言った表情を浮かべていた。
「は、ハイルさんが、そんな事を……?」
「信じられません……あの強くてカッコよくて優しいハイル様が、仲間を裏切り殺そうとするなんて……」
「えぇ。私達も信じてないです。でも、実際にガイルさんは怪我をして帰ってきた。それに、その場で起こった事は、当人にしか分からない。だから、今はガイルさんの言うことを正しいと思うしかないんです」
イリンが補足して伝える。
自分達も、完全にはガイルの言う事を信じてはいないと。
イリンの言う通り、現場にいたのはハイルとガイルのみ。第三者はいない。
となれば、たとえガイルの証言が嘘であっても、今はその証言を受け入れる事しかできない。
その話を聞いたハイルは、壁に寄りかかりながら呼吸を乱していた。
「はぁはぁはぁ……!」
「は、ハル君……!?」
過呼吸に近い状態になっているハイルに気がついたクロハが、慌ててハイルの背中をさする。
「ど、どうしたの……!?」
(お、俺が裏切った……? 俺が刺した……? ふざけるな……ふざけるな……! 裏切ったのはガイルで、刺したのもガイルだろうがっ! それを俺のせいにするなんて……しかも、自分が被害者のように振る舞いやがって……!)
「はぁはぁはぁ……!」
「ハル君!?」「ハルさん!?」
ハイルはついに倒れ込んでしまった。
過呼吸のような苦しそうな呼吸を繰り返し続けるハイル。
「ど、どうしよう……!?」
倒れ込んでしまったハイルに、何をしていいのか、どうしていいのか分からず、クロハとセシリアはあたふたとする。
「イリン、治を!」
「はいはい。分かりました〜」
そう言いながら、イリンがハイルに近づこうとした瞬間──、
カチッ。
「「「「「え?」」」」」
イリンの足元で、何かスイッチが押されるような音が鳴った。
その次の瞬間──、
「うわぁ!?」
「「「「「っ!?」」」」」
クロハの背後から、ハイルの悲鳴が聞こえてきた。
その声にクロハとセシリアが振り返ると、そこにハイルの姿はなかった。
「え……は、ハル君!? どこ!? どこに行ったの!? ハル君!!! ハル君!!!!」
クロハはハイルがいた所に駆け寄る。が、そこには何もない。
立ち上がり、辺りを見回しながらハイルを呼ぶクロハ。
額には汗を浮かべ、かなり焦っていた。
「く、クロハさん……!」
「何っ!!!」
「っ!?」
セシリアが声をかけると、クロハは鋭くセシリアを睨みつけてきた。
おそらく、焦りすぎて周りが見えていないのだろう。
「あ、ご、ごめん……」
「い、いえ……! 大丈夫です……! それより、一旦落ち着きましょう……!」
「そ、そうだね……」
そう言ってクロハは、その場にゆっくりと座り込んだ。
「ハルさんが消えたのは、ここだから……やっぱり」
「何か分かったのか?」
ミュリンがセシリアに尋ねる。
「はい。おそらくここに技能陣が設置されています。おそらく、転移系の。それが階層転移なのかブロック転移なのか。それは分からないのですが……」
「なるほどな……」
「それだったら、イリンが詳しいよね?」
「え? ま、まぁ……」
「お願いしますっ! ハル君がどこに行ったのか、調べてくださいっ! お願いします!」
クロハはイリンに対して土下座をする。
「クロハさん……」
ハイルの為に必死になるクロハを見て、セシリアもその場で土下座をする。
「私からもお願いします! ハルさんがどこに行ったのか、調べていただけませんでしょうか!」
「え、えぇ……」
二人の土下座に、イリンは引いていた。
しかし、そんなイリンに──、
「何ボサッとしてんだ!」
「いでっ!?」
ミュリンが頭を引っ叩く。
「クロハさん、セシリアさん、頭を上げてください。こんな事しなくても、もちろん調べますから」
「お願いします……! お願いします……! お願いします……!」
クロハは額を地面にくっつけ、涙を流していてた。
「クロハさん……イリン、早くして」
「わ、分かりましたよ! 全くもう!」
イリンはハイルがいた場所にしゃがみ込む。そして、持っていた杖を地面にかざす。
「クロハさん、頭を上げて?」
「うっ……」
「泣かないでください。ハルさんなら大丈夫。必ず無事ですから。ね?」
「はい……」
「よしよし」
リアンは泣きじゃくるクロハを抱きしめる。
そして、背中を優しくさすり落ち着かせる。
まるで、リアンがお姉ちゃんのようだった。実際はクロハの方が一つ年上なのだが。
「なるほどね……。この転移技能陣、ブロック転移の罠みたいです。なので、あの子供はこの階層にいます。どこにいるかまでは、分かりませんけど」
「よ、良かった……」
「別階層に行っていないだけ、安心ですね。一階層であれば、モンスターはそこまで出現しません」
「セシリアさんの言う通り。この階層にいるのなら」
「あぁ。探しやすい」
ハイルの転移先が、皆がいる一階層の別ブロックだと分かり、皆は捜索の作戦会議を始めた。
「私は早く、ハイルを探したいんですけど……」
「何言ってんだ!」
「いでっ! なんなんですかぁ! さっきから人の頭をボコスカボコスカとぉ!」
「お前が自分勝手な事ばっかり言ってるからだろうがぁ!」
「自分勝手ってなんですかぁ! 私達の目的はハイルを探すこと! 子供のおもりじゃないの!」
「だとしても、今のイリンの言動は目に余るものがあるよ? 人の命がかかってるのに、それを無視するの? それをハイルが聞いたらどう思うか、分からない?」
「くっ……分かりました! 今は子供の捜索第一でいいです! フンッ!」
そう言って、イリンは皆から少し離れた所に行き、座り込んでしまった。
「全く……ごめんな。根はいい奴なんだ」
「い、いえ……」
イリンの態度を謝罪したミュリン。
その後、イリンを除いた四人で作戦会議を始めた。
☆ ♡ ☆
「うっ……うぅ……」
薄暗い場所で、ハイルは目を覚ます。
「はぁ……ここ、は……?」
意識を覚醒させると、ハイルはうつ伏せ状態で横たわっていた。
過呼吸のような呼吸は治っていた。
「うっ……っと。暗いな……さっきのは転移技能陣だよな……。って事は別階層に飛ばされた?」
ハイルは立ち上がり、歩き始める。
「いや、この壁の感触……ここは一階層だな。ってことは、一階層の別ブロックって感じか」
ハイルは壁に触れただけで、この場所が一階層であると把握したようだ。
しかし、ダンジョン内は広大。一階層だけでもかなりの広さがある。
その為、一階層のどこに飛ばされたのかは分からなかった。
「とりあえず、体力を使いすぎないように歩くか」
ハイルは、ゆっくりと移動を開始した。
ここが一階層であれば、歩き続けていればクロハ達と合流できるかもしれない。
そう思い、ハイルは歩き続けた。
☆ ♡ ☆
歩き始めて数時間。
「はぁはぁ……やっぱり、この体のせいだな……体力が全く持たない……」
ハイルは全身に汗をかき、呼吸を乱していた。
「とりあえず、どこかで休憩するか」
ハイルはどこかで休息を取ろうとした。
が、そんなハイルの前に──、
「ワオ〜〜〜〜〜ンッ!」
「ブモォ〜〜〜〜〜ッ!」
「なっ!? ダークサンダーウルフにトライデントランサータウロス!?」
ハイルの目の前に、二体のモンスターが現れた。
ダークサンダーウルフとトライデントランサータウロス。
ダークサンダーウルフ。それは、全身真っ黒な毛に覆われたオオカミのような姿をしており、全身に雷を纏っており、イナズマのように目に見えないスピードで移動して、敵を潰す、凶悪なモンスター。
階級はB。
トライデントランサータウロス。それは、三又の槍を持ったウシのような姿をしており、全長三メートルを超える体躯からは想像付かないほどのスピードで疾駆し、槍を振るい敵を三又の槍で貫き殺す、凶悪なモンスター。
階級はB。
「なんでB級のモンスターが一階層に!? この二体は本来なら十階層に生息しているモンスターだぞ!? それに、この二体は相性が悪く、共闘したり共存したりしないはずなのに!?」
ハイルは突然現れた二体の強力なモンスターに驚いていた。が、実際はそこまで慌てていなかった。
「ここにクロハさん達がいたら、もっと慌てたかもしれないけど、ここには幸い、俺一人。一人ならば何も問題ない!」
ハイルは、二体と対峙し、構える。
「行くぞ! 聖爪・セイクリッドネイル!」
ハイルはそう叫びながら、手を構える。
しかし、一向に何も起こらない。
「え……? な、なんで!?」
ハイルは何も起こらないことに、驚きが隠せなかった。
手先に何かが出現するはずだったのか、ずっと手を揺らしている。
しかし、何をしても何かが起こる事はない。
「だったら……! 神聖魔法・セイクリッド!」
ハイルは右手を二体のモンスターにかざし、そう叫ぶ。
しかし、こちらも何も起こらない。
「な、なんで……なんで何も起こらないんだっ!?」
そうハイルが叫んだ瞬間──、
「ぐはっ……!?」
ダークサンダーウルフの突進が、ハイルの腹部に命中。ハイルは後方に勢いよく吹き飛んだ。




