第13話 ハルの覚悟/ハイルの力
「あああああああああああああああああああ!?」
ハイルは叫び声を上げた。
まるで、絶望に支配されたかのように。
「うぅ……! ああああああ!」
ハイルは勢いよく立ち上がり、叫びながら走り出す。
「ああああああああ!!! うっ!?」
走り出したハイルだったが、見えない攻撃を受け、真横に吹き飛ぶ。
「ぐっ!? うっ!? ぐぅ……あああああああ!!!」
地面を転がったハイルだが、すぐに立ち上がり、見えない敵に向かっていく。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!! がっ!?」
しかし、再び攻撃を受け、吹き飛んでしまう。
「ぐっ!? うっ!? くっ!?」
地面を三回転がり、壁に衝突し止まる。
「ぐっ……ぷっ! そういう事か……ようやく分かった……」
ハイルはゆっくり立ち上がりながら、口の中の血を吐き出す。
そして、何かを理解したのか微笑みを浮かべている。
「姿が見えないんじゃない。超高速で移動しているんだ。超高速で移動してるから、姿が見えないと錯覚してる……」
ハイルはただ闇雲に突進している訳ではなかった。
相手の謎を探る為、あえて無謀な突進を繰り返していたのだった。
しかし、それにしては取り乱していたように見えたが……。
まぁ、それはさておき。
「仕組みが分かれば怖いものはない。頼むぞ……聖爪・セイクリッドネイル!」
立ち上がり、両手に力を込めながらそう叫ぶハイル。
しかし、何も起こらない。
「くっ……やっぱり、使えないのか……神聖魔法・セイクリッド! くっ……!」
何も起こらない事に腹を立てるハイル。
そんなハイルに、何もしない敵ではなく──、
「ぐあっ!? ぐっ……!? ぐふっ……!?」
立ち尽くすハイルに、連続攻撃を仕掛けてくる敵。
「そりゃそうか……大人しく待っててくれるはずないよな……でも、どうする……敵の仕組みは分かった。でも、聖爪も神聖魔法も使えない……このままじゃ死ぬ……」
ハイルは、膝立ちになりながら考えていた。
しかし、考える時間を与えてくれる敵ではない。
「ぐっ!? うっ!? くっ!?」
連続攻撃を受けながら、ハイルは必死に考えていた。
どうすればいい。どうすればいい。
このままではみんな死んでしまう。そう思った時──、
(死ぬ……? みんな……?)
地面に転がりながら、周りを見渡すハイル。
壁にめり込んだまま気を失っているリアン、イリン、ミュリン、セシリア。
自分をかばい気を失ってしまったクロハ。
(俺のせいで、みんなが……みんなが死んでしまう……)
ハイルは、ボロボロになりながらも立ち上がろうとする。
しかし、攻撃を受けすぎて立ち上がれなくなってしまっている。
(みんなが……みんなが……俺の……俺の……俺のせいで……そんなの、そんなの……!)
「絶対に、させない……!!!」
ハイルは痛む体に鞭を打ち、なんとか立ち上がる。
「俺は……俺は! ハイルだ! 英雄パーティーに所属するB級の冒険者、ハイル! 大事な仲間の為なら何度傷ついても、何度倒れても立ち上がる! 例えこの身が朽ち果てようとも、仲間だけは必ず守り抜く! 絶対に誰一人として、死なせはしない!」
そう叫んだ瞬間、敵が迫ってくるのを感じ取ったハイル。
「頼む……この一回だけでいい! ここにいるみんなを守る為に、たった一回でいい! 力を貸してくれぇぇ!!! 聖爪・セイクリッドネイル!」
そう叫ぶと、両手に銀色に輝く三本の鋭いツメが出現。
しかし、その際──、
「ありがとう。…………ん?」
ピキンっ……!
「後頭部に何か……電流が走ったかのような軽い衝撃が……まぁ、気のせいか」
後頭部に感じた違和感に、ハイルは首を傾げながらも気にしないようにして、戦闘態勢を取った。
「さぁ、行くぜ! 聖爪・セイクリッドクロー!!!」
ハイルは、両手に出現した銀色に輝く爪を、クロスさせて技を放った。
その技は、閃光となって真っ直ぐに飛んでいき──、
「グギュゥゥゥゥゥゥゥゥンッッ!?」
何かに命中した。
☆ ♡ ☆
「ちょこまかと……!」
ハイルは現在、猛スピードで移動をする敵と戦っていた。
敵の正体を突き止めるには、まず動きを止めなければならない。
だが、あまりにも速度が速すぎて攻撃を当てる隙がなかった。
「だが、大体の行動パターンは読めた。……………そこだ! 神聖魔法・バインド!」
「グギャッ!?」
ハイルは目を瞑り、音にだけ集中した。
そして、音で敵が次にどこに来るのかを感知したハイルは、右手を右斜め前に突き出した。
すると、銀色の鎖に拘束された巨大な狼のようなモンスターが姿を現した。
「こいつは……ダークサンダーウルフの系統っぽいが……初めて見るな……」
そのモンスターは、ダークネスバイトウルフ。デルビーズが出現させた “S級” モンスターだった。
「おそらくはA級のモンスター……油断せず、確実に仕留める! 聖爪・セイクリッドクロー!」
鎖に拘束され、身動きが取れないダークネスバイトウルフにハイルは技を放つ。
ダークネスバイトウルフは、向かってくる攻撃から逃れようと暴れるが、ハイルが出現させた鎖は強力で、どんなに暴れてもビクともしない。
そんなダークネスバイトウルフに、ハイルが放った攻撃が命中。
大きな噴煙が上がった。
「大体のモンスターなら、これで倒せるが……」
ハイルは決して油断はせず、噴煙に包まれたダークネスバイトウルフを見つめていた。
そして、噴煙が晴れると、そこにいたはずのダークネスバイトウルフの姿がなくなっていた。
「やはり……。どこに行った……?」
ハイルは目を瞑り、先程と同様に音にのみ集中する。
「足音が遠ざかってる……? これは……逃げているのか……?」
ダークネスバイトウルフの足音を発見したハイル。
だが、ダークネスバイトウルフはハイルの周りを動いているのではなく、なんとこの場から逃げていた。
「これは罠……? いや、本当にどんどん遠ざかって行く……」
罠かと考えるハイルだったが、やがてダークネスバイトウルフの足音が完全に聞こえなくなり、その考えが杞憂である事が分かった。
「はぁ……とりあえずは一安心、か? …………今回はみんなを守れた。よかった」
ハイルは辺りを見回し、皆を守れた事に喜びを感じていた。
「後はどうやってここから脱するかだが……な、なんだ……? 急に、体が……」
急激なめまいに襲われ、ハイルはその場に倒れてしまった。
よって、この場には意識を保っている人はいなくなってしまった……かのように思われた。
「うっ……うぅ……ま、まさか、は、ハルさんが、ハイル様だったなんて……」
壁にめり込んでいたはずのセシリア。
いつの間にか地面に落下しており、這いつくばってハイルに近づいていた。
「はぁはぁ……最初は何かの勘違いかと思いましたが、あの力、あの魔法……あれはハイル様にしか使えません……それが、ハルさんがハイル様である証拠……まさか、そんな事が……」
セシリアは、ハイルに近づき、ハイルの手に軽く触れた所で気を失ってしまった。
☆ ♡ ☆
ダンジョン内、第五十階層。
「ガルルルルルルルルルルル……」
「お帰り。あらあら。こんなに傷ついちゃって」
先程まで、ハイル達を襲っていたダークネスバイトウルフが金が少し入った茶髪で、紫色の右目と、水色の左目のオッドアイを持った男に甘えていた。
その男は、ダークネスバイトウルフを召喚した本人、デルビーズだった。
「何がきっかけで力を発揮できるのか、今回だけではよく分からなかったけど、まぁ、力を見る事はできた。ふっ。次はもっと見せてくれる事を期待してるよ。 “兄さん” 」
そう言って、デルビーズとダークネスバイトウルフは姿を消した。




