第11話 再びダンジョンへ
『ハイル……ハイル……ハイル……』
──はぁはぁはぁ……! 来るな……!──
『ハイル……ハイル……ハイル……』
──うわぁ!?──
『ハイル……死んでくれ……!!!』
──あああああああああ!?──
「んぷっ!?」
目を覚ましたハイルだったが、顔全体が何かに覆われており、息苦しい。
その為、呼吸をしようと顔を動かす。
すると──、
むにょん♡ むにゃん♡
「んっ♡」
「へ……?」
柔らかい感触を感じた後に、頭上から艷やかな声が聞こえてきたので、ハイルは上を向く。
するとそこには──、
「んふふ♡ おはよう、ハル君♡ 今日はぱふぱふの気分だったの? 大胆だね♡」
妖しく微笑むクロハの顔があった。
それにより、ハイルは今、自分がクロハの胸に顔を埋めているのだと気がついた。
「どうする? もっとぱふぱふする? 私はそれでもいいよ♡」
「っ〜〜〜〜〜〜〜!」
ハイルの頭を撫でながら言ってくるクロハに、ハイルは顔を真っ赤にしながら──、
「あなたって人はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
怒りを大声で叫んだ。
☆ ♡ ☆
「全くもう……」
「ごめんってば……そんなに怒るとは思わなかったんだよ……」
二人は今、ギルドへと向かっている。
しかし、いつものように手を繋いで歩いているわけではない。
ハイルが前をプンスカと歩き、その後ろをクロハが力なく項垂れながら歩いていた。
「一緒のベッドで寝るのだって恥ずかしいのに、いきなりあんな事されたら、もっと恥ずかしいじゃないですか……!」
「うん……ごめんね……あっ、お詫びにレイムバード焼き買うからさ、許してくれない……?」
「僕は食べ物なんかで──」
ぐぅぅぅぅぅぅぅ……。
「ふふ。朝ご飯食べてなかったもんね。じゃあ、買おう?」
「こ、これはたまたま! たまたまですからね! 別にずっと気になってた訳じゃないですから!」
「はいはい♡ レイムバード焼きを二つください」
「はいよ〜」
「もう……」
ハイルは顔を真っ赤にしながらも、クロハの隣に並んだ。
そんなハイルを見て、クロハは母性あふれる顔で見つめていた。
☆ ♡ ☆
「あ、着いちゃいました……」
「ん? あ〜。気にしないで大丈夫だよ。飲食持ち込み禁止じゃないから」
「は、はい……」
ギルドへ向かう道中で、レイムバード焼きを食べていた二人だったが、クロハは着くまでに食べ終えたものの、ハイルは半分残ったままだった。
食べたまま入るのはどうかと気にしたハイルだったが、クロハが教えてくれたのでそのまま入る事にした。
(このくらいの量、前ならすぐに食べ終わったはずなのに……やっぱり、この体だとスピードも量も変わるのか……)
ハイルはそんな事を考えながら、レイムバード焼きを口に含みながら入室した。
そして、説明会を行った部屋へとクロハと一緒に入ると──、
「おっ! 目ぇ覚めたか!」
「無事だったんだな! よかった〜!」
「っ!?」
部屋に入ると、冒険者達がハイルに声をかけてきた。
「っ……」
「みんな、ハル君を心配してたんだよ、二日間も眠ってたんだから」
ハイルがもぐもぐしながらクロハを見上げると、クロハが笑みを浮かべながら教えてくれる。
そんなもぐもぐを見て──、
『ってか、ハル君のもぐもぐ可愛すぎ〜〜〜!!!』
女性冒険者を中心的に、黄色い悲鳴が上がった。
「っ!?」
その女性冒険者達の声に、ハイルは目を見開き驚いた。
「もぐもぐ可愛い〜♡」「ちっちゃなお口で頬張って、美味しい?」
「っ、っ」
喋れない為、頷くハイル。すると──、
『可愛い〜〜〜〜♡♡♡』
(何が!?)
と、思うハイルだった。
この日から、女性冒険者達からの人気が高まったハイル……いや、ハルだった。
☆ ♡ ☆
女性冒険者達に囲まれ、困惑していると三人の女性冒険者達がやって来た。
「無事で良かった」
「目を覚ましてくれてよかったぜ」
リアン、ミュリン。そして、イリンの三人だった。
「皆さん、ご迷惑とご心配をおかけしてしまって、すみませんでした……」
「あ、謝らないでくれ……!」
「むしろ謝るのは……ほら」
「っ……」
リアンに背中を押され、イリンがハイルの目の前にやってくる。
「………………」
そっぽを向くイリン。
そんなイリンに──、
「ほら」「さっさと!」
「わ、分かってるよ……」
ハイルの方を向き、しっかりと目を見つめてくるイリン。
「っ……!」
急に見つめられ、緊張したハイルは背筋を伸ばす。
「あの……その……あの……」
持っている杖のような物を強く握りしめ──、
「ご、ごめんなさいっっ!!!」
「っ!?」
イリンは頭を下げ、ハイルに対して謝罪をした。
「な、なんで謝るんですか……?」
「そ、その……あ、あなたが触れた転移技能陣なんですけど……ああいう罠やトラップは、技能使いである私が事前に察知して対処しなきゃいけないんです……でも、私は自分の感情に流されて対処を怠った……。それによって、あ、あなたを危険な目に……命の危機にさらしてしまった……」
イリンの杖を握る手は、震えている。
声も、どこか震えているような気がした。
「だから、本当にごめんなさい……! あなたを疑うばっかりに、命の危険を味わわせてしまった……! 本当にごめんなさい……!!!」
「だ、大丈夫です……! 大丈夫ですから頭を上げてください……!」
「でも……! でも……!」
「え、えっと……」
頭を下げ続けるイリンに、ハイルはどうしていいか分からなかった。
どうすれば頭を上げてくれるのか。どうすれば笑ってくれるのか。
それを考えたハイルは、クロハに抱きかかえるようにお願いをする。
そして、後ろから抱っこされたハイルは、手を伸ばし──、
「ふぇ……?」
イリンの頭を優しく撫でた。
「やっと頭を上げてくれましたね」
「っ!」
頭を上げたイリンに、微笑みながら言うハイル。
「まず、イリンさんの謝罪は確かに受け取りました。はい。これでもう謝罪はなしです」
「で、でも……」
「そもそも、僕はイリンさんに対して怒ってないですし、気にもしていません。ダンジョン内での罠だって、僕の不注意です。 “技能使いだからって、全部が全部完璧にできる訳ではありません。見落としの一つや二つ、あって然るべきです” 」
「その、言葉……」
イリンは目元に涙を浮かべた。
ハイルの言葉が嬉しかったから。
「だから、もう気にしないでください。あ、でも。もう睨むのはやめていただけると……」
「うぐっ……は、はい。すみませんでした……もう、睨みません……」
「よかった♪ これからよろしくお願いします、イリンさん♪」
「っ!」
ハイルはイリンの頬にキスをした。
そのキスにより、イリンは顔を真っ赤にした。
「「「っ!?」」」
突然のキスに、クロハ、リアン、ミュリンは目を見開いた。
「は、ハル君!? な、なななななな何してるのぉ!?」
「え……? あっ!? ご、ごめんなさい……! なんか勝手に体が動いて……! イリンさん、本当にごめんなさい……!」
「い、いえ……大丈夫、です……」
イリンは顔を真っ赤にしながら、俯いた。
そんな中、クロハは──、
「ハル君! 私には!? 私にはしてくれないのぉ!? ねぇ! ねぇえ! キス〜〜!!!」
「しないですっ! あれは、違うんです!」
「違うって何!? いいじゃん! 私にもチューしてよぉ!」
「嫌ですっ!」
「なんでぇ〜〜〜〜!」
ハイルにキスを迫っていた。
そんな二人を尻目に、イリンはキスをされた左頬を手で押さえながら──、
(な、なんでこんなにドキドキしてるの……わ、私が好きなのはハイルなのに……なんで、なんで……なんでこんなに、あの子にドキドキしてるの……!)
恋する乙女の表情を浮かべていた。
☆ ♡ ☆
ギルドで今後の捜索や調査の注意事項を受けた後、ハイル達は再びダンジョンへとやって来ていた。
「あ! ハルさん! 目を覚されたのですね! よかった!」
「セシリアさん。ご心配をおかけしました」
「いえ。無事で本当によかったです♪」
ダンジョンの入り口の前まで向かうと、セシリアがこちらに向かって来た。
どうやら、先にダンジョンの方へ向かっていたようだ。
ダンジョンの入り口付近には、複数のテントが設置されており、そこで仮眠や手当て、対策会議などを行なっている。
治癒技能士が複数人常駐しているため、死んでしまわない限り、ここまで連れてくればなんとかなる。
実際、ハイルやセシリアもここまで来たことで一命を取り留めた。
「それでは、これより捜索と調査を再開します。先程伝えた事に十分注意しながら、各自当たってください」
『はい!』
ギルドマスターであるデストルが、集まった冒険者達にそう告げる。
それを受け冒険者達は、真剣な表情で返事をし、それぞれダンジョン内へと入って行った。
☆ ♡ ☆
ダンジョンに入って数時間。
「これって、一階層ほとんど回ったんじゃね?」
ミュリンが少し疲れた様子で言う。
それを受け、リアンが──、
「そうだね。もう少し範囲ありそうだけど、あらかた回ったかな。皆さん、今日はこの辺で休みましょう」
『は〜い!』
リアンがそう言うと、全員がそれに賛同し、休むことにした。
ダンジョン内では時間の経過が分からない。
今が朝なのか、昼なのか、夜なのか。
なので、冒険者には時刻機と呼ばれる小型機器が配られている。
それは、ダンジョン内などの時間が分からない所にいても、現在の時刻がリアルタイムで分かると言うもの。
先ほど、リアンはそれを確認してから休む事を提案していた。
「では、見張りは交代制で。最初は……」
「私やります!」
「ではクロハさん。よろしくお願いします」
「はい!」
クロハは、すっかりリアンに懐いていた。
まるで、リアンの妹のように。
「じゃあ、僕も……」
「ハル君はダ〜メ。もう夜遅いんだから、子供は早く寝なさい」
「僕は眠くなんて……ふわぁ〜……あ」
「んふふ〜。ほら〜眠いんでしょ? 早く寝なさい」
「は、はい……」
ハイルは簡易的に建てられたテントに入っていく。
「本当、ハル君は可愛いなぁ〜♡」
そんな後ろ姿を見ながら、クロハは焚き火の前に座った。
ダンジョンは危険が伴う。
どんな時刻であっても、モンスターはやって来る。一階層であっても、この間のようにB級のモンスターが襲ってくる可能性もある。
その為、こうして休む時には代わりばんこで見張りをする。
(私は絶対に守るんだ……ハル君を……絶対に……!)
焚き火を見ながら、そう心に誓うクロハだった。
☆ ♡ ☆
「クロハさん、交代します」
「あ、はい」
テントからイリンが出てきて、クロハに声をかけた。
クロハが立ち上がり、そこにイリンが座る。
地面に直に座っているのではなく、簡易的な椅子を用意してある。
丁度二人座れる大きさだ。
「お願いします」
「えぇ」
二人は一切視線を合わせず、見張りを交代した。
この二人は、まだ仲良くなれないのだろうか……。
「ふぅ〜……」
(なんで謝れないかな〜〜〜!? しっかりと目を見てごめんなさいって言わないとダメじゃん……!)
イリンは椅子に座り、焚き火を見つめながら心の中でそう叫んだ。
「はぁ〜……私ってば、本当にダメだな〜……」
「イリンさん……?」
「ん?」
イリンに声をかけてきたのは、寝ぼけ眼のハイルだった。
「もしかして、起こしてしまいましたか?」
「いえ……ただ、目が覚めてしまって……」
「トイレでしたら、向こうでしてきて大丈夫ですよ。ここからなら探知範囲内なので」
「と、トイレは大丈夫ですっ……!」
「ふふ。そうですか♪ 隣、座りますか?」
「いいですか……?」
「はい」
ハイルはイリンの隣に座る。
「寒くないですか?」
「大丈夫です……くしゅんっ!」
「大丈夫じゃないじゃないですか〜。はい」
「あ……すみません。ありがとう、ございます……」
イリンは、自分が羽織っているローブをハイルにかけてあげた。
イリンの温もり、イリンの匂いを感じ、ハイルは顔を真っ赤にしてドキドキしていた。
「い、イリンさんは、その……寒くないですか……?」
「ん? はい。大丈夫ですよ」
イリンは、ノースリーブのニットとミニスカートだった。
足には紫色の膝下丈のタイツを穿いている。
「でも、その……」
「ん? あ〜。ミニスカートだしノースリーブだから寒いんじゃないかと。ふふ。心配してくれてありがとうございます。このくらいは全然平気なんですよ。オシャレには少しの我慢が必要ですからね♪」
「我慢してるんじゃないですかぁ!?」
「あはは♪ 我慢し続けたから、今は寒くないんですよ♪ 寒さに慣れたんですね」
「な、なるほど……」
自分にはよく分からないな、と思うハイルだった。
「……………」
そんなハイルをジッと見つめるイリン。
「え、えっと……」
「あ、あの!」
「は、はい!」
「あの……その……」
「イリンさん……?」
「は、ハル君って、よ、呼んでもいい、ですか……?」
「……? は、はい。も、もちろん」
「っ〜〜〜! ありがとうございます!」
ハイルに許可をもらったイリンは、満面の笑みで喜んだ。
「あ、あの……」
「ん?」
「僕も聞いていいですか……?」
「はい。なんでしょう?」
「ギルドへ報告した事についてなんですけど……」
「っ!?」
ハイルは、勇気を出して切り出した。
ガイルの証言について。




