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未来駅  作者: xxkeyxx
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ドキ&ドキお給仕

 照りつける日差しがうざったい。

 埃臭い廊下に周囲の喧噪、ここは学校だ。正確には海浜高校。単位制の自由な校風が売りだ。僕は今年の夏、海浜の午前部に転校した。前居た学校とは比べられないが、今だって捨てたものじゃないと思いたい。

「七瀬くん、おはよ!」

 その桃色の髪はよく目立つ。少し長めの髪がフワリと浮かぶ。

 笑顔が似合う可愛い女の子。第一印象はそんなところだった。

 そして驚くことに、彼女はメイド喫茶で働いていた。海沿いのカフェで。

 どんな時も笑顔で明るかった。

「七瀬くん?」

「み、未来さん。おはようございます」

 僕は未来さんに対して反応が少し遅れていた。

「七瀬君、今日は転校初日だね」

 未来さんはメイド喫茶の時とは違う雰囲気で話しかけてくる。オンとオフの切り替えが上手だ。

 僕は未来さんから、正確には胸から、目をそらす。それはこの間の不可抗力を思い出すからだ。

「海くん。制服よく似合うね。格好いいよ」

 未来さん、制服よく似合うな。海浜高校は女子がセーラー服なのか。それにしても未来さんのメイド服以外は新鮮だ。なんて今、同じことを考えていた。

 未来さんの上目遣いに鼓動が高鳴る。僕は彼女のことが好きなのだろうか。

「今日の七瀬君。少しおかしいです。

 砂浜で帽子を取ってくれたときは優しかった」

「優しい......?」

 僕は優しかったのか。

「今は何処か目の焦点が合わなくて変」

 それは未来さんのせいだ。と言いたい。

「はは、変なのは気にしないで」

 僕は自身の裏にある煩悩を悟られないように大丈夫と言い放った。

「これからは仕事仲間でしょ? 気にするよ」

 未来さんは笑いながら答えた。

 そうだよな。僕と未来さんは仕事仲間、迷惑はかけたくない。恋愛とかそっちのけで仕事を頑張ろう。

「何かあったら相談乗るから。ね?」

 未来さんの優しさに僕は「ありがとう」と返した。


「未来さんを見てるのか?転校生」

 そう言ったのは、教室にいる生徒だ。

 無論、僕は窓際の下に居る未来さんを見てる。

「ゆるふわで可愛いよな。未来さん巨乳だし、ミステリアスなところあるし」

 僕はなぜか未来さんが巨乳と言われて、内心怒っていた。

「巨乳なのは分かるけど、他にもいいところあるんじゃない?」

「他にあるかね? いいところなんて」

「人の内面を見ようよ。内面」

「ちょっと男子ぃ。女の子監視してるなんて最低ー!」

「七瀬くん達! ケンカはやめようよ。ケンカは」

 女子生徒2名に声をかけられた。それをそっちのけで男子生徒は挑発する。

「未来さんはやめたほうがいいぜ」

「どういう意味だよ......」

 自分の感情が表に出ないよう、問いただす。

「彼女。最近になって苗字が変わってさ。奏から渚になったんだよ」

 奏って名前に違和感を覚え、それがトリガーになり冷静になる。

「親が離婚してさ。正直、名前がイタいじゃん」

 僕は悟られないように拳に力を握りしめた。

「へー。そうなんだ。それで?」

 吐いた言葉は虚栄に満ちていた。多分、正常な判断はできない。

 少しの沈黙。

「なんだそれ。つまんねー」

 男子生徒はあっけらかんとして興味を失せたように立ち去る。危機が去ったみたいで安堵する。

 でも、どうだろう? これからこの人達とうまくやれるのだろうか......?


 時刻はお昼時、僕は歩いて、通学路から職場の喫茶店に向かった。

 勿論、暑さでうなだれる。夏のこの猛々しい気候はどうにかならないもんか。

 歩いて数分、『cafe sea salt』についた。装飾の凝った扉に手をかける。僕は喫茶店の中に入った。

「海くん早いね」

 すると灯さんの声がキッチンから聞こえた。

「おはようございます」

 僕はどうすればいいか分からず、途方に暮れていると、灯さんが注意した。

「こっち来て!」

 僕は喫茶店のキッチンに向かった。

「お昼は食べた?」そう聞かれたので「いいえ」と答えた。

「君には研修期間、キッチンのホールを任せるよ。所謂、妖精さんの仕事だね。基礎の皿洗いから、それ以上の料理まで、それ以外にもやってほしいことはあるけれど、まずは言われたとおりにして」

「了解しました」

 キッチンは手入れが行き届いていて、文句のつけようがない。僕はアルコール消毒をして灯さんについて行き、コンロの近くに立った。

「それじゃあ、料理の練習しよっか」

 そう言って、僕の研修期間はスタートした。

「まず、オムライスから。卵を3個、泡立て器で卵白を切るように混ぜて」

 僕は言われたとおりに卵を割る。そして泡立て器で混ぜた。

「そう上手」

「フライパンを温めて。バターを入れる。フライパンにバターが溶けたら、卵は弱火で火を通していく。卵液を流して」

 僕は言われた通りに火を弱火に調整してバターを全体に馴染ませ、卵を流した。

「そう。それでフライパンを揺らしながら、卵を混ぜて」

 僕は続ける。混ぜる手がちょっと疲れてきたかも。

「卵に火が通ったら、今日はチキンライスを作っておいたから。それを入れて、チキンライスの量は少なからず多からずの良い塩梅でね、じゃないと卵が巻けなくなったり、見た目が貧相になったりするから」

 美味しそうだな。パラパラのチキンライス。これは灯さんが作ったのか。......プロっぽい。

 丁度いい塩梅というのが難しかったが、目分量で適切に計る。

「まあ最初はこんなもんじゃない?」

 灯さんが言う。僕は内心ほっとした。

「それで次が難しいんだけど、卵をライスに巻き込んでひっくり返す。ちょっと私がやってみようか?」

 灯さんは貸してと言ってフライパンの柄を握った。繊細な指先が綺麗。それでいて職人気質なのが格好良いと思った。

 すると卵を巻き込んで、トントン、とフライパンを握ってる手をたたく。

 その一瞬で卵をひっくり返した。

「すごい。手を叩いただけなのに」

 思わず声が出る。

「手を叩くのじゃなくて、オムライスを浮かした時に余計な力が入らないように手で抑えたの」

 そう言って灯さんはオムライスを皿に乗せた。その間、手が空いたからメモを取る。

「これ。今日はできなくてもいいから、練習してね」

 灯さんは、微笑んだけど、僕にはできる気がしなかった。

 研修の任務は続く。次はドリンクの練習だった。

「ウチのコーヒーはドリップ。コーヒーメーカーもいいんだけど、コーヒーを1から淹れるの」

 灯さんが用意したのは、コーヒーを淹れるための一式セット、だと思う。

 けれど、初めて見た僕には何が何だかサッパリ分からなかった。

「ペーパーフィルターをドリッパーに挿して、大きめのスプーン2杯分くらい粉に入れるよ」

 コーヒーの匂いがする。灯さんは

 紙のやつはペーパーフィルターって言うのか、メモメモ。ドリッパーに挿したらスプーン2杯分、と。

「作る前にカップにお湯を注いで温めるよ」

 灯さんはカップに注いだお湯を捨てた。

「それじゃあ淹れてみせるね。お湯を適量全体に入れてまず10秒間蒸らす」

 僕はメモを怠らない。そして沈黙。

「蒸らしたら中心にお湯を注ぐ、500円玉の大きさ、のの字を描くように意識して」

 するとコーヒーの粉末が膨らんだ。

 これはすごいぞ。この人はプロなんじゃないか。

「コーヒーを目安まで注いだらドリッパーを別に移して、コーヒーを攪拌する、これで完成」

「すごいです」

「挽き立ての豆だからね。簡単よ」


 そうして出来たオムライス、コーヒーがなぜか僕の方に並べられた。

「だってご飯まだでしょ?」

「良いんですか?」

「食べてよ」

 灯さんはクスッと笑って見せた。あまり笑わない人かと思ったけど。笑うんだな灯さん。

 卵はフワフワでチキンライスによく馴染む。コーヒーは温かくて美味しい。

「あ、後で食器洗ってね」

「了解です」

 お昼にしては贅沢な食事を前に灯さんと話をした。

「灯さんはメイドじゃないんですか?」

「そうね。前やってたキッチンの人が辞めて、メイドじゃなくて、キッチンをやってるよ」

「灯さんって綺麗だからメイド服めちゃくちゃ似合うと思います」

「よく言われる。お客さんもメイド服可愛いって言うよ」

 やっぱり灯さんのメイド服は可愛いのか。

「でも、私もそろそろ23でメイド服着るのもきついし......」

 一瞬の沈黙。言ったことがまずかったと気付くように灯さんは笑った。

「あはは。私、何言ってんだろーね」

「僕は23のメイドも素敵だと思います」

 灯さんは一瞬黙って、その後に優しく笑った。

「あはは。そうかな......?」

「はい。僕は素敵だと思います!」

 その一瞬、灯さんの顔が赤くなる。こんな完璧に見える人でも、照れたりするのか。

「君ってさ。そういうこと言うんだ。歯が浮くような科白」

 灯さんの白い歯が見えた。でもちょっと怒ってるのかもしれない。

「ごめんなさい」

 僕は素直に謝る。どうやら、とてつもない間違いをしたようだ。

「素直でよろしい」

「それより、海くんは理由みたいなのないの?」

「理由、ですか?」

 胸に手をあてて考えてみる。理由?

「このメイド喫茶に来た理由、素敵な場所だからって言ってたけど他にもあるんじゃない?」

 そうだな。理由、か。

「未来さんをなぜか放っておけないって思ったんですよね」

 その発した言葉に、なぜか感情は懐かしいと言っていた。

「未来ね。昔、同い年の子、確か7歳くらいの時に」

「同い年の子?」

「そうそう。その男の子とよく遊んでたって聞いたよ。未来の方がすぐ引っ越して別れたらしいけど」

 喉に魚の骨が刺さってるような感じ。この気持ちは何だろう。

 その違和感が視えてくるのが、もうすぐだった。


 それからも研修は続いた。

 例えば、ビラ配り。チラシを配ってお客さんを連れてくるって仕事だ。

 お客さんの話は色々と知見が増えたな。

 メンズの美容とかの話をしてくれたりして。

 やっぱり海の街だから、海産物の話もしたっけ? いつか誰かと行ってみたいな。海の家。


 木曜日の夕暮れ。未来さんが僕を屋上に呼び出した。

 一面、空が見える。そして潮風の匂い。

「あっ! 七瀬くん、来てくれた!」

 夕焼けに染まる未来さんの髪の色は茜色だ。僕はそれがどうしても素敵に見えた。

「未来さん。用って何?」

「私と水族館デート行かない?」

「す、水族館デート!?」

 一体全体どういうことなんだ!?

「七瀬くんが研修頑張ってるから。ご褒美デート、......どう?」

 ご、ご褒美デート......?

 なんて強気な態度なんだ。でもメイドさんとオフの日デートは行ってみたい。

「行ってみたいです」

「あはは。それじゃあ、決定だね」

「集合場所はどこですか?」

「じゃあ! みなとみらい駅でどうかな」

 みなとみらい駅。未来さんと出会った砂浜の近くか。今から楽しみだな。

「集合時間は何時だろう?」

 楽しみだからだろうか。その日の集合時間を、いつのまにか聞いていた。

「9時でどうかな?」

「オーケーです」

 僕は笑って了承した。


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