File49.『九十九経営コンサルティング』顧客への御礼(フォローアップ)と、新秩序(ニュー・オーダー)の萌芽について
カガチとの決戦から数日が経過した。 事務所には、ぬらりひょん様から提示された『新秩序の設計』という途方もない案件の資料が山積みになっている。だが、私はまだその契約書にサインをしていなかった。
「九十九さん、お茶が入りました。 本当に、よろしいのですか? ぬらりひょん様をこれ以上お待たせして」
オサキが完璧な手つきで湯呑を置く。 彼の心配はもっともだ。あやかしの総大将からの直々の依頼をペンディングにしているのだから。
「ああ、問題ない。どんな大口の案件であろうと優先順位というものがある」
私は立ち上がりコートを羽織った。
「オサキ、行くぞ。 カガチとの戦いで我々が『切り札』としてその力を借りた、かつてのクライアント達。 彼らへの『御礼参り』と、その後の『経営状況の監査』だ。 我々の戦いに巻き込んだ結果、彼らのビジネスが傾いていてはコンサルタント失格だからな」
【監査先①:豆腐小僧】
我々が最初に向かったのは都会の片隅。 今や深夜のセラピストとして疲れ果てた人々の間で伝説と化している『豆腐小僧』の仕事場だ。 彼はビルの路地裏で静かに一人のサラリーマンに『夜明けの豆腐』を差し出していた。 我々は、その神聖な儀式を邪魔しないよう物陰から見守る。
「九十九さん、よかった。彼のビジネスは順調なようです」
「ああ。だが、少し様子が……」
豆腐を食べ終え、深く癒やされた顔で立ち去るサラリーマン。 その後ろ姿を見送った豆腐小僧が、ふと我々のいる暗闇に向かって、ぺこりと小さくお辞儀をした。 そして盆の上に一枚だけ残していた『真味の紅葉』を、そっと風に乗せてこちらへ飛ばした。 それは無言の『報酬の返却』。 いや、違う。
『九十九さん、あなたに貸した“力”は、確かにこの世の役に立ったのですね。 ――だから、これはもう、あなた自身のものです』
という、彼からの静かで誇りに満ちた『承認』だった。 私はその紅葉を静かに受け取った。
【監査先②:あかなめ一族】
次に向かったのは、とある閑静な住宅街。 オーガニックな生活を営む人々の間で密かに『風呂場版ミシュランガイド』としてその地位を確立した『あかなめ』一族のテリトリーだ。
「九十九さん、あそこを」
オサキが指差す先、一軒の立派な家の浴室の窓が少しだけ開いている。 そこから満足げな『ぺろり』という音と、小さな話し声が漏れてきた。
「うむ、この家の主は見事だ。今回の『新作オーガニック石鹸』の、泡切れの奥に潜むほのかな甘み……。実に奥深い……」
「長老、採点を! 採点をお願いします!」
彼らはすっかり美食家しての誇りと生き甲斐を取り戻していた。 我々の姿に気づいた長老は、一瞬だけ窓からその赤い舌をぺろりと出して見せた。 『森羅万象の味覚椀』を使ったことへの感謝の印か。 ……あるいは単に、我々のことを『味見』しただけか。 どちらにせよ、彼らの経営は健全だ。
【監査先③:七福神】
最後に向かったのは日本橋。 皇居での決戦で最強の『切り札』として我々の要請に応えてくれた『七福神』の合議所だ。
「―――だーかーら! 我が『FUKU-COIN』のブロックチェーンに、あの『混沌』のデータが入り込んだせいで台帳がぐちゃぐちゃなんじゃ!」
「あら恵比寿さま。それを一夜で元に戻した(V字回復させた)我が『宝船』のシステムこそ最強ですわ」
……相変わらず騒々しい。 カガチの『負債』を一夜で肩代わりした宝船のオペレーションは、彼らにとっても相当な負担だったらしい。 だが、その口論はどこか活気に満ちていた。 私が顔を出すと七人はピタリと静まり……そして恵比寿様が代表して言った。
「おう、九十九! とんでもない仕事を持ってきやがって! だが、まあ……たまにはああいうデカい『慈善事業』も悪くねぇ!」
「その『宝船の勅許状』ですが、一度使いましたのでご返却を」
私が巻物を差し出そうとすると、
「馬鹿を言え」
大黒天様がそれを手で制した。
「あの『奇跡』を起こしたのは我らの力だが、あの『奇跡』を信じこの国を救うという『事業』を起こしたのは、お主じゃ」
「……」
「その『勅許状』は、お主が持っておれ。 どうせまた、ぬらりひょんがとんでもない『無茶ブリ』をお主に持ってくるんじゃろうからな?」
「九十九さん。……どうやら、もう逃げられませんね」
「ああ。全くだ」
私はそのあまりに重い『信頼』を、覚悟を決めて、懐に仕舞った。
第一部の全てのクライアントが、次のステージへと進んでいた。 ならば私も、進まねばなるまい。 『新たな秩序』を創るという……次のステージへ。
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