File46.皇居の最終決戦と、新秩序(ニュー・オーダー)の創造について(決戦・完)
閻魔の『契約抹消の墨』を、私が自らの魂に叩き込んだ瞬間。 時間が止まった。 私の内側で何かが切れた。 それは呉葉を失ったあの日から、師・安倍晴明の『秩序』を憎み絶望し、その絶望に囚われ続けてきた道満としての『呪縛』そのものだった。
「―――あ? な、……に……?」
同時にカガチの声が変わった。 嘲笑と怒りが消え、純粋な『困惑』が浮かんでいる。 当然だ。 彼の存在理由は私の『絶望』そのもの。 その大元の『契約』が今、『無効』となったのだから。
「馬鹿な……。力が……。わたくしの存在意義が……消えて……いく……?」
カガチの混沌の化身となっていた、その禍々しい姿が、まるで電波の悪い映像のように、ノイズを走らせ薄くなり始めた。 皇居の空を覆っていた赤黒い『混沌システム』もその勢いを失い始める。
「……カガチ」
私は、もはや『道満』ではなく。 『九十九』として、私の絶望の残滓である哀れなクライアントに、最後の『監査結果』を告げた。
「お前の『混沌事業』は、その『中核理念(=俺の絶望)』が消失した今、『経営破綻』だ」
「だ、ま……、れ……。わたくしは……消えな……」
「だが、お前が残した『負債』はあまりに大きすぎる」
私は天を見上げた。 カガチの制御を失った『呪詛システム』は、もはや暴走する『負の遺産』。 このまま放置すれば、日本の秩序は元には戻らない。
「オサキ。最後の仕事だ」
「はい、九十九さん!」
腕の中から戻ったオサキが、私の横に並び立つ。
「この『国』というクライアントを、カガチが作り出した『莫大な負債』から、救済する」
私は懐から最後にして最強の『報酬』を取り出した。 七福神との交渉で得た、あの『宝船の召喚勅許状』。
---『万策尽き、完全な破綻に瀕したクライアントを、一夜にして奇跡的な経営再建(V字回復)を成し遂げる』---
「これ以上の『破綻』はないだろう」
私はその神々しい巻物を、混沌の空へと掲げた。
「――九十九経営コンサルティングの名において要請する! 『七福神』の皆様! このクライアント(日本国)の『緊急経営再建(V字回復)』を即刻、取り行え!!」
勅許状が、まばゆい七色の光を放つ。 空が割れ、赤黒い『混沌』の雲を押し分けて信じられないほど巨大で神々しい『宝船』が、その威容を現した。
『―――合点、承知!!』
恵比寿様の威勢のいい声と、大黒天様の力強い笑い声が響き渡る。 宝船は、カガチの残骸には目もくれず、ただ空を覆う『混沌システム』という『負債』そのものに向かって進んでいく。 宝船が進むたびに赤黒い呪詛のデータは、まるで掃除機に吸い込まれる埃のように、『福』の光の中へと浄化され、吸い上げられていく。 霞が関の『バグ』が消え、兜町の『狂乱』が鎮まり、地獄の『回線』が正常に戻っていく。
「……そん、……な……」
カガチが、もはや薄い影となったその姿で呆然とその『奇跡』の光景を見上げていた。
「……わたくしの……混沌が……あんな……『福』などという……前近代的な……システムに……」
「違うな、カガチ」
私は彼に最後の言葉をかけた。
「あれは『システム』ではない。あれは『信頼』だ。お前が否定し、俺が一度失い、そしてこの『九十九』として、もう一度築き直そうとしてきたものだ」
『秩序』とは、ただのシステムではない。 その『秩序』を信じ守ろうとする、無数の意志の集合体だ。 私がコンサルティングをしてきたあやかしたちが、その『秩序』を選び続けてくれた、その結果が今、あの『宝船』なのだ。
「……あ、……」
カガチは、その神々しい光に照らされ、自らの存在理由(=道満の絶望)が完全に消え去ったことを悟った。
「……そう、……か。……わたくしは……最初から……『監査』……、されて、……いた、……という、……わけ、……か……」
カガチの影は、最後にふっとまるで肩の荷が降りたかのように、穏やかな形になりそして皇居の朝の光と共に完全に消え去った。
「…………」
「…………」
私とオサキは、数百年ぶりに『道満』の呪縛から解き放たれた、清らかな朝の空気をただ静かに吸い込んでいた。 あやかし社会の秩序を巡る最大の案件は今終わった。
「九十九さん」
「ああ」
「第一部、……完結ですね」
「全くだ」
私はオサキと共に、この壮大なコンサルティングの『報告書』を閉じるために事務所への帰路についた。
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