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あやかし専門コンサルタント・九十九さんの業務日誌  作者: 神楽坂 湊


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File32.管狐一族の契約不履行と、あやかし社会における秩序の防衛について(中編・壱)

北関東、とある山間の稲荷神社。そこが、ぬらりひょん様を裏切ったとされる管狐くだぎつね一族の拠点だった。 かつては神聖な神気に満ちていたと聞くその場所は今、奇妙なほどに静まり返り、まるで最適化されすぎたオフィスのロビーのように冷たく整然としていた。


「……空気が違いますね」


オサキが、同じ狐族としてその違和感を口にする。


「ああ。神気も妖気も薄い。その代わりに、張り詰めた『緊張』と電子的で『ノイズ』のようなものが混じっている」


本殿で我々を待っていたのは、無数の小さな狐たち――管狐の群れと、その長であった。長は人間に近い姿を取っていたが、その瞳は感情を排したガラス玉のように冷たかった。


「これはこれは。九十九経営コンサルティングの九十九殿。お待ちしておりました」


「我々が来ることなど、あなたの『神託』には降りていなかったはずだが?」


「神託など、もはや古い」


管狐の長は、フッと鼻で笑った。


「我々にはカガチ様からご教示いただいた最新の『未来予測アルゴリズム』がありますので。あなたの来訪もその目的も、全て計算通りですよ」


奴だ。カガチは、この神聖な一族に一体何を吹き込んだ?


「ぬらりひょん様との古い契約を破棄し、あやかし社会の秩序を乱した。その理由を聞かせてもらおうか」


私の問いに、管狐の長はまるで用意していたプレゼンテーションを始めるかのように朗々と語り始めた。


「理由? 合理性ですよ、九十九殿」


彼が本殿の奥に隠されていたサーバーラックのようなものを指差す。無数の管がそこから伸び、電子的な光を明滅させていた。


「ぬらりひょん様の言う『貸し』や『義理』などという曖昧で数値化できないもので、我々の一族は縛られてきた。だがカガチ様は、我々の真の価値を教えてくださった」


「……価値、だと?」


「そうです。我々の『並列思考能力』と『情報収集能力』。これを現代の金融市場や人間の政界の動向分析に特化させた。我々は神託という曖昧なものではなく『確実な未来予測データ』を、カガチ様という唯一のクライアントに提供する。その対価として我々は古い呪縛から解放され、莫大な富とこの最新のシステムを得た。これ以上の経営判断がありますか?」


その姿に、オサキが怒りに尻尾を震わせた。


「……貴方方は誇り高き神の使いだったはずだ! それが人間の金儲けの、ただの『ツール』に成り下がるとは!」


「ツール、結構。効率的で何が悪い」


管狐の長は、冷ややかに言い放った。


「……なるほど。カガチのやり方はいつもそうだ」


私は、その哀れな狐に静かに告げた。


「お前たちはまんまと騙されている。その『合理的』な契約書をよく見てみろ。お前たちはカガチから、『未来予測アルゴリズム』という名のブラックボックスなシステムをリース契約させられているに過ぎない」


「……な、何を」


「そのシステムがなければ、お前たちはもはや価値ある情報を生み出せない体になっている。違うか? そしてそのシステム利用料として、お前たちの生み出す情報のほぼ全てをカガチに吸い上げられている。それは『解放』ではない。『完全なる従属』だ。ぬらりひょん様との『義理人情』の契約の方がよほど自由だったぞ」


管狐の長の顔が初めて人間的な動揺で歪んだ。


「九十九殿……なぜ、そこまで……」


「お前たちだけではない。カガチは様々な場所で同じような『合理的』な提案を持ちかけ、あやかし達の伝統的な力を自らの利益のために吸い上げ、秩序を破壊している。その結果どうなるか……」


私は、かつて同じような甘言に乗り全てを失った、あの男の顔を思い出していた。


「あやかし社会のバランスが崩れ、制御不能な力が暴走する。その時真っ先に切り捨てられるのは、お前たちのような『ツール』だ」


「……」


「どうする? このままカガチの使い捨ての情報端末として誇りもなく消耗していくか。それとも、もう一度神の使いとしての『誇り』を取り戻すか」


管狐の長は自らの一族が繋がれた無数のケーブルを見つめ、長く、長く沈黙していた。そしてやがて、絞り出すような声で言った。


「……あの御方はあなたのことを実によくご存知でした。まるで古い友人に、あるいは……許されざる裏切り者に語りかけるかのように……。こうも言っておられました。『九十九は必ず来る。だが、あの男は決して“あちら側”には戻れない』と」


「……!」


私の過去。カガチは、それを知っている。 私の動揺を悟られぬよう、私はあえて冷たく言い放った。


「余計なお喋りはそこまでだ。どちらにつくか、決めろ」


管狐の長はふと自嘲するような笑みを浮かべた。


「……我らがどれほど愚かだったか、よく分かりました。九十九殿。あなたに我ら一族の再建コンサルティングをお願いしたい。カガチとの契約を破棄し、あのシステムから我々を解放していただきたい」


「賢明な判断だ」


私は頷いた。まずは、第一の火種を消した。


「オサキ。カガチのあの忌々しいシステムを、お前の狐火でハッキングできるか?」


「ハッキングなど、生ぬるい」


オサキの目が青白い炎を宿した。


「あのような我ら狐族の力を弄ぶ機械……。根源から焼き尽くしてくれましょう」


カガチ。お前のやり口は全てお見通しだ。お前が何者だろうと、この『九十九経営コンサルティング』がお前の事業を根こそぎ『清算』してやる。 あやかし社会の秩序を巡る戦いは、まだ始まったばかりだ。

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